赤ちゃんはハデ好き!? 新生児の“謎行動”を発達心理学者が解説

発達心理学者・坂上裕子教授「謎行動にはワケがある。もっと知りたい赤ちゃんの気持ち」#1~新生児期編~

発達心理学者:坂上 裕子

将来のために耳から言葉を蓄積中

続いては、聴覚にまつわる疑問です。

<Q3>
赤ちゃんは視力が未発達なぶん、優れた聴覚を持っていると聞いたことがあります。ですが、話しかけたときに反応があったり、無反応だったりするのはなぜですか? 言葉(音)の種類や声の大きさによって、反応が異なるのでしょうか?

<A3>
「大人でも赤ちゃんでも、大きな音が鳴ればびっくりするのは同じです。新生児は言葉の意味をまだ理解できないので、特にはっきりした抑揚のある話し方を好みます。

この頃は、後に話せるようになったときのため、耳にした言葉を蓄積している時期。あらゆる言葉は、子音と母音の組み合わせでできています。子音と母音を続けて発せられるようになると、言葉を話す上で必要な音を出せる最低限の準備が整ったことになります。

大人が赤ちゃんに話しかけるとき、『パパ』『ママ』『ブーブー』などの赤ちゃん語を使うことがありますよね。これは、赤ちゃん自身が発しやすい、子音と母音の組み合わせなのです」(坂上教授)

“知ろう”と試行錯誤することが大切

まだ明確な意思を持たない新生児ですが、将来、自分の意思を表現するための準備はしているんですね。そんな新生児期において、我が子に接する親が意識すると良いことを、坂上教授が教えてくれました。

「初めての育児であれば、わからないことがあるのは当たり前。大切なのは、とにかく“試行錯誤”して、我が子が発するサインを知ろうとすることです。

例えば、『赤ちゃんの泣き声は原因によって種類が異なる』と研究でわかっています。赤ちゃんそれぞれに個性はあるものの、泣き声の種類には基本的なパターンがあります。私が授業の一環で、学生に赤ちゃんの数種類の泣き声を聞かせるクイズを出すと、全問正解する学生はほとんどいません。

では、彼らが親になったときに赤ちゃんの泣き声の原因が分からず困ってしまうのか? というと、そんなことはないと思っています。赤ちゃんの泣き声の原因は、“泣き声だけ”で判断するものではないからです。

赤ちゃんが泣き出すと、親はまず抱き上げてあやしますよね。そのときに、『おなかが張っているから、ガスがたまっているのかも?』『手が温かいから、眠くなっているのかも?』などと、五感を駆使して赤ちゃんからのサインを読み取ろうとします。このように、赤ちゃんは泣き声だけではなくて、全身を介して大人にいろいろなことを伝えているのです。

赤ちゃんの行動においてパターンや事例はあるものの、それがすべて我が子に当てはまるとは限りません。だからこそ、我が子の体のリズムや発しているサイン、返ってくるリアクションを“知る”ことが大事なのです」(坂上教授)

「赤ちゃんが『ワーッ』と泣き出したときは、同じボリュームから徐々にトーンダウンするように『わぁ! そうだよね、そうだよね……』と声を掛けてあげると、赤ちゃんもそれに合わせて徐々に興奮状態が収まっていきますよ」坂上教授
写真:シーアール

坂上教授に話を聞き、自発的な行動ができない新生児でも、生きていくために必要な情報は自然と自分の中に取り込み、また全身を使って発信していることがわかりました。

そんな新生児を持つ親にとって大切なのは、「なぜ子どもがそのような行動・反応を起こしたのか」を考え込んで悩むのではなく、「こんなときは、こんな反応をするのね」と、じっくり観察しながら我が子についての知識を増やしていくことだと思います。

次回(#2)は、生後1ヵ月~6ヵ月の乳児期の赤ちゃんについてお話を伺います。

取材・文=柳未央(シーアール)

坂上裕子教授のインタビューは全3回。
第2回(#2)は21年12月6日公開予定です(公開日までリンク無効)。

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さかがみ ひろこ

坂上 裕子

青山学院大学教育人間科学部心理学科教授

青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」について。著書に『問いからはじめる発達心理学 -- 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)など。

青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」について。著書に『問いからはじめる発達心理学 -- 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)など。