男の子を「21世紀型のいい男」に育てる方法とは!? 教育ジャーナリストが解説

「これからの時代を生きる男の子たちへ」 #3 「ケア」のある生活の大切さ

教育ジャーナリスト:おおたとしまさ

「勉強より、家事手伝いが大事」とおおたさんは言いますが、その理由とは? 写真:アフロ
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教育ジャーナリスト・おおたとしまささんによる、「21世紀を生きる男の子」への提言。前回では、男の子がこれからの時代を生き抜くために必要な3つの力について教えていただきました。

最終回となる今回は、男の子の人生は「競争」だけではなく、「ケア」のある豊かな人生が大切ということについて、解説していただきます。

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おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験も。

21世紀型“いい男”の条件とは

──昔は女性が結婚相手として選ぶ“いい男”の条件は、3高(背が高い、学歴が高い、収入が高い)と言われていました。しかし、今は共働き家庭が当たり前の世の中です。おおたさんが著書の中で語っている「女性が将来の結婚相手を選ぶ際の価値観は変化し、視野も広がっている」ことについて、もう少し詳しく教えてください。

おおたとしまささん(以下、おおたさん):パートナーを選ぶ際に「経済力」以上に、「家事」や「育児」ができることがモノサシとして加わったことです。また、自分の仕事や自己実現に対して、相手がどれだけ理解を示してくれるかの比重が大きくなっています。

後者に関しては、妻のキャリアに理解があるだけでなく、それを実際にサポートできる男性です。日本はすでに一人の稼ぎで一家を養えるような社会ではありませんし、妻が出産や育児のために専業主婦になって仕事を辞めれば、世帯収入も激減します。

──しかし、親や祖父母世代の中には、「息子は外で目一杯働いているのに、家に帰ったら家事や育児もやらなきゃならないの?」と不満に思う人もなかにはいるかと思います。

おおたさん:結婚すれば男は家事をしなくて済み、仕事に専念できるという考え自体が間違っているんです。今も親世代の一定数は、「男は稼いで一家を支え、女が家庭を守る」という、昭和的な価値観を刷り込まれ、無意識に引きずってしまっています。
 
男も家事や育児をする分、仕事に割く時間を少なくすればいい。その分パートナーにも経済力を持ってもらいたいし、キャリアアップも応援すればいい。性別に関係なく、お互いの個性を尊重しながら支え合うのが、これからの時代は当たり前になります。

そもそも人間は生きていれば食べなければならないし、生活すれば家も汚れるから清潔にしなきゃいけない。そして、食べて出したらお尻を拭きますよね。それと同じで、その延長線上に家事があるだけです。それを人にやってもらっているのは、いつまでも親にお尻を拭いてもらっているのと同じ。パートナーに押し付けている状態はおかしいでしょう。

でも、それを役割分担という形で制度化してしまうのも、本当は不自然ですよね。効率のために洗濯機を一緒に回すとか、掃除機を出したら自分だけでなく他の人の部屋もついでに掃除するなど、家族というチームの中でシェアしていくのが、あるべき姿だと思っています。本来、家事はもっとあいまいなものなんですよ。

「男らしさ」や「男のくせに」の偏見から自由になるために

──それを自然にできるようになるには、男の子も幼いうちから家事に参加させる、ということが大切になってきますよね。

おおたさん:そうですね。たまに「お手伝いなんてしなくていいから、勉強しなさい」と、勉強ができるほうが、家事ができるよりも価値があると思っている親御さんがいます。男の子を育てる親が特に意識しなければならないポイントでしょう。

日本社会では、いまだに「男」か、「女」かで、かかってくる圧力が違います。男は常に「競争」をしなさい、という圧。女性は常に「ケア」をしなさいという圧です。海外でもその点は似たようなものだと思いますが。

ソーシャルワーカーや保育士など「ケア」に関わる仕事に男性が就いている場合、日本の平均収入と比較すると低い傾向にあります。 出世や収入といった「競争」が上等で、「ケア」は競争とは無縁で無駄なものだと思われている。そうした“圧”は、子どものころから存在します。
 
例えば受験でも、女の子は「そんなに無理をしなくていいんじゃない?」と言われて安全圏の学校を受験し、男の子は「諦めるなよ」と先生から言われて偏差値が少しでも高い学校を受けさせられることが多いですよね。

「競争」することに人生の本質はない

おおたさん:私が男の子に伝えたいのは、「競争することに人生の本質はないよ」ということです。

過度な競争圧力に勇気をもって抗いながら、一方で意識して「ケア」の意味を見出してほしいと思っています。

「ケア」というのは、子育てはもちろん、老人や弱者へのケア、あるいは愛する人へのケアを意味します。「お世話をする」のではなく、「気にかける」ということです。

「ケア」に対する社会的な捉え方が変わり、「我々はケアし合うために生きているんだ」と、「ケア」の重要性が認知されれば、男女の賃金格差やジェンダーギャップだって少しずつ解消されていくはずです。

同様に、女の子だってもっと競争をしていいし、とことん働いたっていい。これからは女性の側の意識の変化も必要です。

「競争とケア」のバランスがとれた、本当に豊かな人生を、これからの時代を生きる男の子には歩んでほしいなと思います。

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全3回にわたって、おおたとしまささんに「男の子の育て方」についてお話しいただきました。わが子がこれからの不透明な時代をたくましく生き抜くだけでなく、関わり合うさまざまな人の個性を尊重してケアし合い、豊かな人生を送れるように、まずは私たち親の意識を見直したいと思いました。

取材・文/鈴木美和

おおたとしまささんの「男の子の子育て」連載は全3回。
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『勇者たちの中学受験~わが子が本気になったとき、私の目が覚めたとき』著:おおたとしまさ(大和書房)
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おおたとしまさ

教育ジャーナリスト

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。