「きょうだい児」の弁護士が教える“選択の自由“とは? 「障がいのある子もその兄弟姉妹も好きに生き親は自身を幸せに」

弁護士・藤木和子先生が教える“きょうだい児”の見守り方 #3 きょうだい児を幸せに育てる心得

弁護士:藤木 和子

法律は「自由」きょうだい児は自分の“好き”を選べる

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──今年(2024年)3月、著書『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)を出版されましたが、法律の視点できょうだい児の悩み・疑問に応えた本は、国内初だと聞きました。どんな思いが込められているのでしょうか。

藤木先生 私は子どものころからずっと、きょうだい児としてプレッシャーにさらされてきましたが、あるとき、弁護士の先輩から「あなたは自由だよ。誰の許可もいらないよ」と言われてすごく腑に落ちました。

法律は「自由」を大事にします。憲法では「個人の尊重(自由)」「幸福追求権」「自己決定権」によって、「あなたの意見を尊重する」「あなたは幸福を求める権利がある」と認められているのです。

障がいのある兄弟姉妹の世話をするか否か、結婚・出産、住む場所、進路や職業もすべて自分の意思で選ぶことができて、義務や強制はありません。

先輩の言葉をきっかけに、私が本当の意味で「自由」と思えるようになるまで、弁護士になってから数年かかってしまいましたが、同じ悩みを持つきょうだい児に「あなたが決めていいんだよ」「あなたは自由なんだよ」と。

障がいのある兄弟姉妹の将来や親の期待、他人の評価などいろいろあるけれど、まずは自分の幸せを第一に考えようと。そう伝えたいと思いました。

──きょうだい児当事者の反響は、いかがでしたか?

藤木先生 「自由だとわかってよかった」という意見がすごく多いです。扶養義務に関しては、「自分を犠牲にしてまで兄弟姉妹を助けなくていいのだと知って安心した」と。

兄弟姉妹と距離を置きたい人がそう思うのは想像していたのですが、意外だったのは、ある程度関わりたい気持ちを持っているきょうだい児からも「義務や強制ではないことに安心した」と言われたこと。私もホッとしましたし、嬉しかったですね。

親御さんの立場からは「“法律では自由”と知って、どうしたらいいのかむしろ困っている」「きょうだい児に扶養義務があるのかないのか、決めてほしい」という方もいらっしゃいました。

たしかに自由というのは、答えがあるようでないのです。親御さんも障がいのある子もきょうだい児も、家族みんなの幸せを願う気持ちは最終的に一致すると思うのですが……難しいところですね。「もう十分がんばっているから、背負いすぎないで」と伝えたいです。

正解はないですが、互いを尊重して率直に話し合うこと、家族内で抱え込まずに相談すること、助けを求めることが大事だと思います。

──先生のご家族の反応はいかがでしたか?

藤木先生 弟も父も母も、私のきょうだい児としての活動を応援してくれてはいるものの、複雑な思いを持ってはいます。私が子どものころから誰にも言えず抱えていた思いが、本にまでなってしまったのですから。

だからこそ、受け止めて応援してもらえるのは嬉しいですし、その分、私も家族に関わりたいと思えているところもありますね。

──最後に、きょうだい児の親へメッセージをお願いします。

藤木先生 私はまず、親御さんに幸せになってほしいと思っています。その姿から、子どもたちが学ぶこともたくさんあるからです。そのうえで、きょうだい児も障がいのある子も、何が幸せかを決めるのは自分自身。大事なのは、軌道修正も含めて「自分でいい選択ができた」と思えるかどうかです。

親御さんには、ご自分の考えや思いを押し付けるのではなく、本人の自由や意思を尊重していただきたいと思います。そのためには、日頃からオープンなコミュニケーションが大切です。小さいうちからきょうだい児がちょっとした違和感を伝えられる関係性を築き、思いを受け止め、常に味方であってほしいと思います。

この記事や私の本を読んで「きょうだい児はこんな悩みを抱えていたのか」と、ショックを受ける親御さんもいらっしゃるかもしれません。でも、悲観するのではなく、ご家族の希望のために活用していただけたら嬉しいです。

─・─・─・─・─・─・

「障がいのある子どもを育てている」と聞くと、親や障がい児本人の苦労や困難ばかりに着目してしまいがちですが、そこにはさまざまな思いを抱えるきょうだい児の存在もあります。さらに、親や障がい児には充実した支援がある一方で、きょうだい児への支援はまだ少ないという現実も。

親の理解や受け止めはもちろん、周囲の大人たちもきょうだい児を理解し、サポートする必要があるのだと強く感じました。きょうだい児が子どもらしく、自分らしく、幸せになれるように。私たちができることを探していきたいと思います。


取材・文/星野早百合

きょうだい児の疑問や不安について、法律の視点から回答した国内初の本『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)。弁護士できょうだい児当事者の藤木先生がわかりやすく解説。迷うきょうだい児の気持ちに寄り添い、決断の背中を押してくれる一冊です。

編集部おすすめ! きょうだい児の実録コミックエッセイ

複数の障害をもつ弟。カルト宗教にハマってDVを繰り返すほぼ失業者の父。家出と薬物の過剰摂取を繰り返す母。凄絶すぎる家庭環境で著者は、どう自分を守ってきたのか。40年の実体験をつづった『きょうだい児 ドタバタ サバイバル戦記 カルト宗教にハマった毒親と障害を持つ弟に翻弄された私の40年にわたる闘いの記録』(著:平岡葵)
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ふじき かずこ

藤木 和子

Kazuko Fujiki
弁護士

手話通訳士。1982年生まれ。東京大学卒業。5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害がわかり、“きょうだい児”に。きょうだい児の立場の弁護士として活動し、情報の発信や相談を行う。 「聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会」で代表を務めるほか、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)」、「シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト」などの運営に関わる。 また、ヤングケアラー経験者としても、政府や自治体、学校、団体などのヤングケアラー支援に注力している。 著書に『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)、『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』(岩波書店)。 ●note 藤木和子 ●聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会WEBサイト  ●全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)  ●シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト 

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手話通訳士。1982年生まれ。東京大学卒業。5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害がわかり、“きょうだい児”に。きょうだい児の立場の弁護士として活動し、情報の発信や相談を行う。 「聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会」で代表を務めるほか、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)」、「シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト」などの運営に関わる。 また、ヤングケアラー経験者としても、政府や自治体、学校、団体などのヤングケアラー支援に注力している。 著書に『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)、『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』(岩波書店)。 ●note 藤木和子 ●聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会WEBサイト  ●全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)  ●シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト 

ほしの さゆり

星野 早百合

ライター

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。