DCD(発達性協調運動障害)の診断と支援 「生活がスムーズにできないほどの不器用」は発達障害の可能性…専門家が解説
DCD(発達性協調運動障害)不器用すぎる子どもを支えるヒント 小児精神科医・古荘純一先生に聞く#2
2024.08.08
ただの不器用に見えるけれど、生活がスムーズにできないほどの不器用さは「発達障害」かもしれません。
DCD(発達性協調運動障害)の子どもは、30人クラスに1~2名の割合でいると言われています。
DCDとは、体の動きをコントロールする「協調」と呼ばれる脳機能の発達がスムーズにいかないため、困りごとが起きている障害のこと。ボールを蹴るのが下手、文字をうまく書けない、身支度にやけに時間がかかるなど「極端な不器用さ」が特徴です。
我が子がDCDかもしれない? そう思ったら、親はどのように向き合えばいいのでしょうか。
「DCDの基礎知識」を解説した第1回に続き、「診断や支援の受け方」について、子どもの発達に詳しい古荘純一先生(小児精神科医・青山学院大学教授)に、現在、自身もDCDの子を育てるライターが取材しました。
【古荘 純一(ふるしょう・じゅんいち)青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。小児の心の病気から心理、支援まで幅広い見識をもち、教職・保育士などへの講演も行っている】
DCDかも?と思ったら相談すべき場所・専門家
周囲が気づきにくいとされるDCD。
自身の経験でも、筆者の子どもは運動機能の発達が遅く、日々の運動や小さな日常動作にサポートが必要ではありました。しかしそれがDCDの症状だとは気づけずに、成長の過程だと思っていました。医師の診察の際に指摘をされて、はじめてDCDであることが発覚したのです。
こうした診断を受けるためにはどうしたら良いのでしょうか?
「まずは最初に行くべきところとして、地域の保健センターや子育て支援センター、発達障害者支援センターや発達外来などが挙げられます。お子さんが小学生であれば、スクールカウンセラーや学校の先生などに相談してみるのも良いでしょう。
診断を受けるために、“まずはこの人に必ず会うべき”という一つだけの正解はありません。その子にとって、問題を解決してくれるヒントをくれるのが誰かは、わからないからです。
例えば小児科でDCDと思わしき困りごとを相談してみても、そもそもDCDについての知識や診断経験が無い医師も多いでしょう。それは学校の先生・精神科医・スクールカウンセラーなども同じです。
だからこそ、DCDかどうか心配であると告げて、納得のいく説明がなければ、2~3ヵ所を回って相談して、DCDに対して理解のある人、知見のある人を探してほしいと思います」(古荘先生)
Web検索を行うといろいろな機関がヒットしますが、直接、問い合わせてみることも大切です。保険の適用外とはなりますが、自由診療を推奨している病院を探すのも一つの手段です。
DCDを専門に診ることができる医師はまだまだ少ない状況です。相談したときに得た見解で、状況の改善が見られない場合は、複数の意見を聞いてみるのも良いでしょう。
受診先は「専門医のいる総合病院」がおすすめ
ところで、DCDに対して医師はどのように判断しているのでしょうか。
「もちろん、国際的な診断基準はあり、そのアセスメント(評価・診断)ツールを医師は診断に用いています。しかしアセスメントツールは日本では普及しておらず、また、それだけで診断確定できないのもまた、DCDの特徴です。
“これはDCDだ”と判断する場合、お子さんの個々の動作や生活全般での行い聞き、医師の過去の経験や知見を持って、アセスメントツール以外の内容から確定する場合もあります」(古荘先生)
というのも、DCDは同じ発達障害の中でも、精神面の障害ではなく神経面の障害であり、小児科の判断だけでは解決できないこともあります。小児科と神経科との両方をまたいだ領域で診断を行う必要があるのです。
こういった複雑な背景から、小児科に受診してもDCDと判断できない場合も多く、一方で、精神科だけを受診しても、小児の発達を専門にしていないクリニックの場合、うまく診断できないケースもあるそうです。
専門医を探す際に参考になるのが、日本小児神経学会のウェブサイト(※)です。発達障害の専門医のリストが診療項目と共に掲載されているため、受診先を検討する指針になります。
【※一般社団法人日本小児神経学会「発達障害診療医師名簿」に掲載の診療項目は、広汎性発達障害(自閉症)、AD/HD、LD、知的障害、言語発達障害、トウレット障害、心身症、被虐待児など。2024年8月現在では、DCDの項目はないため、診断できる専門医がいるかどうかは、各病院に確認する必要があります】
一番おすすめしたいのは「専門医のいる大学病院などの総合病院」だと、古荘先生は話します。
「大学病院などの場合、複数の診療科をまたげるため、横断的に診察を受けることができますね。また、児童精神科や理学療法士、作業療法士、リハビリセンターなどとの連携ができる点も理想的です。幅広い診療科目の専門スタッフが揃っていると、複合的な見解を得ることができるし、サポートもしてもらえます」
「それでも適切な診断・支援が得られない場合、保険の適用外とはなりますが、自由診療を推奨している病院を探すのも一つの手段です」(古荘先生)
親はどう受け止めたらいいの?
いざ我が子がDCDと診断されたら──。親の私たちはどう受け止めたらいいのでしょう。
「まず心に留めておきたいことは、DCDの診断は「治療をして治す」ことを目指すものではないことです。診断を受けることは、困りごとを確定し、その困りごとを少しでも解消できるような状態を目指すこと。そして、子どもが周囲とよりよく手を取り合い生きていけるよう、必要な場面で合理的な配慮を受けられるようにするためのものです」(古荘先生)
ついつい「周りのお友達は○○ができているのに、うちの子はどうしてできないのだろう」「教えているのに、どうしてこんなこともできないの?」「時間ばかりかかってイライラする」などと思うこともあるかもしれません。
育児をしていると親は「これでいいのかな」「間違っていないのかな」「ちゃんと成長しているのだろうか」と周囲の子どもと比べてしまいがち。誰しもが悩むことなのでしょう。
ですが、先生は「親御さんはまずは、お子さんの心の傷を癒やすことから始めてほしい」と言います。
「お子さんの成長過程、病院への受診の段階にもよるけれど、日々暮らす中で”自分だけできない””どうしてできないのだろう”と葛藤し、時にはお友達や先生などから揶揄されてきたこともあるでしょう。たくさんがんばってきて、もう十分なほど傷ついています。だから、お子さんの意欲を取り戻すために、まずは受け止めてあげてださい」(古荘先生)
その上で、一つひとつの動作や行動を成功させるために、課題のハードルを下げて関わることをすすめています。
「苦手意識をなくし、楽しくやることが一番の目標です。少しでもできたら、たくさんほめてあげましょう。小さな成功体験の積み重ねが、やる気を生み出し、苦手と感じることを少しずつ無くしていくのです」
普通とは一体なんなのでしょうか。親だけではなく、社会全体でこの疑問については常に考えさせられます。
「“普通は……”と考えたり、口にすること自体が、すでに人と比べているのです」と、先生は指摘します。
「どうか、その子自身がどう成長できたかで物事を見つめ、できるようになっているか? と向きあってほしいですね。比べない勇気を持つことは、人としてとても大変なこと。じゃあ親は何を支えに生きていけばいいのか、と焦燥するかもしれません」
「そういうときこそ、周囲からのサポートを得てください。親子と伴走してくれる医師やスクールカウンセラー、福祉関係の支援者でもかまいません。第三者の客観的な視点や助言をもとに成長を実感してほしいです。そして、何よりまずは家庭内で親同士が事情を理解をし、子どもをサポートしてほしいですね」(古荘先生)
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DCDかもしれないと思ったときに、誰に相談し、どう判断をあおぎ、親はどうするべきか?くわしくお話を伺いました。全ては子どもが過ごしやすく、少しでも困りごとを少なくするための行動です。それでもうまくいかないこともあります。実はそのために動作や行動をサポートする以外の方法、合理的な配慮という選択肢も存在しています。
次回は、この「合理的配慮」とはどういうことなのか、また困りごとを抱えたお子さんだけでなく、大人になったとき生活にどのような影響があるのかなど、実際のエピソードをもとにお話を伺います。
【発達性協調運動障害(DCD)について、発達障害の専門家・古荘純一先生に伺う連載は全3回。「DCDの基礎知識」について解説した第1回に続き、この第2回では「DCDかな?と思ったら・DCDの診断」について教えて頂きました。最後の第3回では、「DCDの二次障害や大人のDCD、その支援」についてを解説します】
写真/市谷明美
DCD「発達性協調運動障害」について詳しく知る
DCDは、極端に不器用で、日常生活にさまざまな困難さを抱える発達障害の1つです。協調運動の不具合で起こるため、診断がつかずに困難さを抱えたまま学童期を迎えることが多く、周囲からは理解されず、生きづらさを抱えているケースも少なくありません。
本書では、DCDという疾患がどんな症状を呈し、どんな生きづらさを伴っているのかを解説するとともに、実例を多くあげて本人・家族が抱える困難さの現状、支援方法やアドバイスを紹介していきます。
【本書の内容構成】
プロローグ「DCD」という発達障害を知っていますか?
第1章 「不器用」では片づけられない「極端なぎこちなさ」
第2章 まだ知られていない「DCD」という発達障害
第3章 幼児期の「極端なぎこちなさ」に気づいてほしい
第4章 学校でいちばんつらいのは体育の時間
第5章 学校生活のあらゆる場面で困りごとを抱えている
第6章 大人になっても就労や家事でつまずきやすい
第7章 自分なりのライフスタイルをみつける
永見 薫
複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm
複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm
古荘 純一
青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。1984年昭和大学医学部卒、88年同大学院修了。昭和大学医学部小児科学教室講師を経て現職。小児精神医学、小児神経学、てんかん学などが専門。発達障害、トラウマケア、虐待、自己肯定感などの研究を続けながら、教職・保育士などへの講演も行う。小児の心の病気から心理、支援まで幅広い見識をもつ。 主な著書・監修書に『自己肯定感で子どもが伸びる 12歳までの心と脳の育て方』(ダイヤモンド社)、『発達障害サポート入門 幼児から社会人まで』(教文館)、『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか 児童精神科医の現場報告』(光文社新書)、『空気を読みすぎる子どもたち』『ことばの遅れが気になるなら 接し方で子どもは変わる』『DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント』(ともに講談社)など。
青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。1984年昭和大学医学部卒、88年同大学院修了。昭和大学医学部小児科学教室講師を経て現職。小児精神医学、小児神経学、てんかん学などが専門。発達障害、トラウマケア、虐待、自己肯定感などの研究を続けながら、教職・保育士などへの講演も行う。小児の心の病気から心理、支援まで幅広い見識をもつ。 主な著書・監修書に『自己肯定感で子どもが伸びる 12歳までの心と脳の育て方』(ダイヤモンド社)、『発達障害サポート入門 幼児から社会人まで』(教文館)、『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか 児童精神科医の現場報告』(光文社新書)、『空気を読みすぎる子どもたち』『ことばの遅れが気になるなら 接し方で子どもは変わる』『DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント』(ともに講談社)など。