子どもを伸ばす「ほめ方」の効果とは? 「自己肯定感」がほめるだけでは育たない理由〔心理学博士が解説〕

「子どもを伸ばす」ほめ方・𠮟り方②

佐藤 美由紀

ほめるだけでは「自己肯定感」は育たない

「子どもはほめて育てよう」という意識は、日本における子育てや教育の現場で浸透しています。

自信がつき、そのことで自己肯定感が高くなり、何事にもポジティブになれて、人間関係が円滑になったり、さまざまなことにチャレンジできるようになったりして、結果的に、より良い人生になる──。

これが、ほめて育てることの効果とされています。誰でも、我が子にはそんな人生を送ってほしいと願うはず。その願いから、「ほめて育てる」を実践している人は多いのではないでしょうか。

「もし、ほめさえすれば自己肯定感が高まるのであれば、ほめる子育てや教育が日本中に広まった1990年代以降の子どもたちは、それ以前の子どもたちに比べると、当然、自己肯定感が高くなっているはずです」

「ところが実際は、さまざまな調査結果を見てみると、ほめて育てることが自己肯定感を高めるどころか、自己肯定感の低さに悩む人を増やしていることがわかります」


こう言うのは、『自己肯定感という呪縛』『ほめると子どもはダメになる』などの著者で、心理学博士の榎本博明先生です。

ちなみに、「自己肯定感」という言葉は、2000年代になってから、榎本先生たちのグループが最初に使った言葉。それ以前は、心理学の世界では、「自尊感情」が同じ意味で用いられていたといいます。

▲ほめるだけでは「自己肯定感」は育たない、意識調査で明らかになった結果とは?(写真:アフロ)
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「例えば、日本青少年研究所による、日本・アメリカ・韓国・中国の高校生の意識調査では、『自分はダメな人間だ』という項目に『よく当てはまる』と答えた日本の高校生は、“ほめて育てる”以前の1980年には12.9%でしたが、“ほめて育てる”が主流になってきた2014年には25.5%と約2倍になっているのです」

「『まあそう思う』を含めれば、2014年は、日本の高校生の72.5%が『自分はダメな人間だと思う』と答えていることになります。これが自己肯定感の高低をあらわす項目だとするなら、“ほめて育てる”を実践したところで、自己肯定感は高まっておらず、むしろ、大きく低下していると言わざるを得ません」

ほめて育てても自己肯定感は高まらないどころか、むしろ低下する。そうであるならば、自己肯定感を高め、子どもたちによりよい人生を送らせてあげるために、親として、できることは何なのでしょうか。

「子どもが学校を出てから厳しい社会を乗り越えていけるように、ときに厳しくしてでも、子どもの心を鍛えて社会性を身につけさせてあげることが大事です」

「日本人は〝間柄の文化〟で生きていますから、周囲に溶け込み、周囲から認められることが、自己肯定感の向上につながります。ですから、わがままな子にならないように、社会にちゃんと適応できるように、育てること。それには、ほめるだけの育児や教育ではなく、叱ることが重要になってくるんですね()」

「目先のことだけ見るのではなく、20年後の我が子のことを考えれば、親として、今、やるべきことがわかるはずです」

逆効果になる「NGのほめ方」

ほめられれば誰でも嬉しいし、ほめられたことで自信がついたりします。そう考えると、「子どもはとにかくほめておこう」と思う親の気持ちもわからなくはありません。でも……。

「育児や教育雑誌の特集などを見ていると、ほめ言葉をたくさん身につけよう、とか、スキルを学んでほめ上手になろう、というような記事が目につきますが、どうも勘違いがあるような気がしてなりません。何でもかんでもほめればいいわけではないのです」

教育心理学の領域では、「ほめる」ことは「言語的報酬を与える」ことだと考えられています。その言語的報酬がモチベーションに与える影響はさまざま研究されていて、言語的報酬の与え方(ほめ方)によっては、逆効果になることも証明されています。

「例えば、易しい課題をクリアしたときにほめると、子どもは“この程度でいいんだ”と努力をしなくなったりします。また、“自分は大目に見てもらわないといけないくらい実力がないのか”と思ったり、“どうせ期待されていないんだ”といった感覚が生まれたりして、かえって自信がなくなる可能性もあるのです」

モチベーションを高めるという意味では、明確な根拠なしにほめたり、「あなたは本当にすごい!」などと、過度に一般化しすぎたほめ方をしたりするのも、逆効果だと榎本先生は指摘します。

「さらに、“100点満点取ったあなたはえらい。ご褒美に○○を買ってあげる”というようなほめ方もNGです」

「このようなほめ方をすると、子どもはほめてほしくて、また、ご褒美がほしくて頑張るようになったとしても、心のどこかで“やらされている感”を持つようになって、モチベーションが下がることが、実験でもわかっています」

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