“シングルの親=子育てに悪影響”ではない明らかな理由を人生相談の賢者から学ぶ

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室【19】「シングルでの子育ては難しいのか」

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

冬の公園で孫のF菜ちゃんと遊ぶ石原ジイジこと石原壮一郎氏。  写真:いしはらなつか
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パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。

500冊を超える人生相談本コレクターで、3歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回は、夫の浮気が原因で1年前に離婚して、ひとりで5歳の息子を育てている35歳のママからの相談。

「息子が最近、言うことを聞かなくなってきました。やっぱり子どもには父親が必要なんでしょうか」と悩んでいる。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)PROFILE
コラムニスト&人生相談本コレクター。1963年三重県生まれ。1993年のデビュー作『大人養成講座』がベストセラーに。以降、『大人力検定』など著作100冊以上。現在(2022年)、3歳女児の現役ジイジ。

離婚後は親も子も大出血! 手だけ離さず泣いていい

周囲を見わたしても、シングルでの子育てはぜんぜん珍しくない。離婚、死別、未婚の母など、理由はさまざまである。ひとりでふたり分の役割を担うのは、たいへんなことも多いだろう。

世間からの露骨な「特別視」は減ったとはいえ、ほかならぬ当事者が「親がシングルだと、やっぱり子どもに悪い影響があるのだろうか……」と思ってしまうこともありそうじゃ。人生相談は、悩めるシングルの親にどんな言葉をかけているのか。

1年前に離婚して、小学生の子どもを育てている30代の女性。それ以来、子どもが不安定になって、平気でうそをついたり人のせいにしたりするようになったという。

自分も必要以上に怒って、「子どもの前では言わないと決めていた元夫の悪口まで口走って」しまうことや、「つい手が出る」こともあるとか。

「ひどい母親です」と自分を責める相談者に、自らも離婚経験者である詩人の伊藤比呂美さんは「ひどい母親なんかじゃちっともありませんよ」と言いつつ、力強い励ましの言葉をかける。

〈離婚っていうのは、表面的にはそんなふうに見えなくとも、人ひとり、切られたりぶん殴られたりするのと同じかそれ以上。痛くて血だらけになるんです。(中略)

あなたが痛くて血まみれなのと同じように、子どもも痛くて血まみれです。(中略)

2人とも傷ついたばっかりなんですから、痛い痛いとじたばたして泣いていい。そして子どもには、ある程度そのじたばたも泣いているとこも見せちゃっていい。

でも絶対子どもの手を離したらだめだ。そしたら、いつか苦しみはなくなる。そして大きくなったときに、人ってのは痛いときには泣いていいんだということを伝えてやれる〉

(引用:「西日本新聞」連載「比呂美の万事OK」2010年2月~2012年1月掲載分より。引用:伊藤比呂美著『人生相談 比呂美の万事OK』2012年、西日本新聞社)

じたばた苦しんでいる今だからこそ、離婚した親だからこそ、子どもに伝えられることがある。伊藤さんは、そう前向きに解釈すればいいと言ってくれている。

シングルに限った話ではなく、どんな親だって「理想的な親」にはなれぬ。それぞれの状況と制約の中で、せいいっぱい子育てしていくしかない。

親の側が「こういう自分だからこそできることがある」と開き直ってくれたほうが、子どもにとってはきっとありがたいじゃろう。

子どもは“愛されている実感”があれば大丈夫

続いては、1年前に未婚で男の子を産んだ21歳の女性からの相談。相手の男性は突然行方をくらまして、認知もしていないという。

子どもが大きくなったときに父親のことをどう説明すればいいのかと悩み、「父親は死んだ」とウソを教えたほうがいいのか、真実を伝えたほうがいいのかと迷っている。

作家の落合恵子さんは「わたしもあなたのお子さんと同じ生まれです」と自らの体験を語りつつ、「あるがままに話しても問題はないと思います」とアドバイス。

〈昔、母は言いました。「お母さんはあなたが欲しくてならなかった。早く出ておいで、一緒に暮らそうよと毎日、声をかけていたの」

「欲しがられ、待たれ、望まれた子なのだ」という言葉は、小さなわたしに安堵感と自信を植えつけてくれました。

不満だったのは、わたしを父のない子にしてしまったという後ろめたさを母が引きずっていたことです。(中略)

お母さん、自分の選択に誇りを持って! それが子どもの願いでした。大方の子は、いま目の前にいる大人(親や養育者)に心から愛されている実感があれば、事実を受け入れることはできるはずです〉

(初出:「読売新聞」連載「人生案内」より。引用:読売新聞生活部著『きょうも誰かが悩んでる 「人生案内」100年分』2015年、中央公論新社)

「あとはあなたが生き生きと暮らすこと。それが、お子さんへの最高のプレゼントではないでしょうか」とも。

人生に後悔は付きものだが、子どもに関わる後悔を当人に見せるのは全力で我慢したい。後ろめたさもしかり。

しかし「至らない自分を大目に見て」という言い訳のつもりなのか、親が子どもに「シングルの親でごめんね」的な態度を見せてしまうケースもある。

子どもとしては、親の沈んだ表情を自分の責任のように感じてしまうかもしれん。無理してでも、明るく笑って「生き生きと暮らす」という姿勢を貫きたいものじゃ。

“子どもの問題行動=親がシングルのせい”は間違い

3人目は、高校1年の息子を持つシングルマザーからの相談。息子が1歳のときに離婚し、それ以来、父親とは会わせていないという。

「自分で選んだ工業高校に通っていますが、敏感で悩みがちで、不登校ぎみ」という息子と、母親としてどう接していけばいいのかと悩んでおる。作家の瀬戸内寂聴さんは、やや厳しめの口調でこう答える。

〈離婚してお父さんがいないことと、不登校は関係ないと思いますよ。お母さんは全部、自分が別れたことに原因があると思っているでしょう。それがいけないんです。

お父さんがいないということをあまり意識しないで、𠮟るときは𠮟ったほうがいい。息子さんはもう高校生なのだから、シングルマザーになった理由をちゃんと話してあげたらいいと思います。(中略)

息子が父親に会いに行ける年齢になったら、止めたって会いに行くものです。実際に会ってみて失望するなり、このお父さんでよかったと思うなり、それは息子さん自身が選ぶことです〉

(引用:瀬戸内寂聴著『97歳の悩み相談 17歳の特別教室』2019年、講談社)

子どもが困った行動に出るなどしたときに、「親がシングルだから」というところに原因を求めるのは、あえて失礼な表現を使うと「安易」である。

親には親の事情や感情があり、自分の人生にとっての「より良い選択」として離婚を選んだはずじゃ。それは仕方ないし、引け目を感じることでもない。

ただ、親の選択が子どもにとっても「より良い選択」だったと言えるように全力を尽くすという基本は、常に忘れてはならぬ。そこのところは、シングルの親もそうではない親も同じである。

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