「子育ての考えが合わない!」夫婦喧嘩の前にやるべき耳の傾け方

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室〔12〕「夫と子育ての考え方が合わない」

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

現代の“失礼”の正体に石原ジイジが斬り込む『週刊新潮』の連載「令和の失礼研究所 #これってアウト?」も大好評です。写真:おおしたなつか

パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。

500冊を超える人生相談本コレクターで、3歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回は、「夫と子育ての考え方が合わない」というママ(6歳男児の母36歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

子どもを探れば解決策が見えてくると尾木ママ

「どんな子どもに育ってほしいか」「お受験をさせるかさせないか」「悪いことをしたときにどう叱るか」……。

子育てには常にいろんな意見や選択肢がある。相談者は子育てに関して、夫と「ことごとく考え方が合わない」と言う。「私がいくら『こうしたほうがいい』と説明しても自分の考えを変えようとしない」と憤っている。ケンカが増えて家の中がギスギスしているとも。

同じ悩みを持つママの相談から解決の糸口を探ってみよう。

最初に紹介するのは、娘にピアノ、スイミング、バレエを習わせているママ。夫はそのことに対して、以前から消極的な態度を取っていた。

ある日、夫から「親は学校での学びや家庭のしつけに気をつけていればよくて、あとは本人に任せればいい」と言われてしまう。

「私が娘に対して取り組んできたことをすべて否定されたようで、むなしくなってしまいました」と落ち込んでいる相談者に、教育評論家の尾木直樹さんは「ママもパパも考え方としては間違っていないわ」と言いつつ、こうアドバイスする。

〈ここで大切なのは、娘さんが「やめたい」と言ったとき、それが本心なのかどうか……ってこと。(中略)子どもが「つまらない」と言い出したら、「どんなところがつまらないのかな?」と、一歩踏み込んで聞いてみましょう。裏に隠された気持ちをくみとり、受け止めた会話ができるようになるといいですね。そうすれば、子どもの言動に振り回されることはないし、パパとも自信をもって話し合うことができるようになりますよ〉
(初出:雑誌「小学一年生」の連載より。引用:尾木直樹著『尾木ママ小学一年生 子育て、学校のお悩み、ぜ~んぶ大丈夫!』2017年、小学館)

考え方が合わないことより、相談者が自分を否定されたように感じて落ち込んでいることのほうが問題の根は深そうじゃ。尾木さんが言うように、正解も間違いもない。どちらかが、あるいは両方が自分の考え方に固執すると、事態はどんどん悪化していく。

配偶者の意見にも子どもの意見にも、まずは自分自身が聞く耳を持ちたいものである。

「甘やかしすぎ」の指摘には子どもに助けを求める手も

次は、中学二年生の長女がテレビが大好きで、いつまでも見ていることを夫に責められるという42歳主婦からの相談。

夫は「君が子どもを甘やかしているからだ。このままにしていると子どもがダメになる」と憤っている。しかし相談者は、長女がテレビ大好きなことをそれほど気にしていない。

カウンセラーの榎本千賀子さんは、こう答える。

〈あなたはまず夫に「長女がテレビを見るのは長女の問題ですから、もし心配だったら、なぜ心配なのかを長女と冷静に話し合ってください」と頼んでみることですね。もし夫が「そんな態度が子どもを甘やかすことになるのだ」と言うようでしたら、娘さんに「あなたがテレビを見過ぎるのは、私が甘やかしているからだとお父さんが言うので困っているの。相談に乗ってくれない」と助けを求めてみてください。この場合、あなたがしてはならないことは、夫とは娘さんの悪口を言うこと、娘さんとは父親の悪口を言うことです〉
(引用:榎本千賀子著『あなたはひとりで悩みすぎ――榎本千賀子の人生相談』1997年、すずさわ書店)

四半世紀前の本なので「テレビ」が問題になっているが、今もYouTubeやゲームで同じ対立が起きているに違いない。榎本さんは「夫も娘さんも信頼して、あなたの意見を伝えてみてください」と言う。

たしかに、実際には「夫にも娘にもいい顔をする」ということをやってしまう人も多そうじゃ。甘い誘惑を振り切って、夫婦の考え方の違いに正面から向き合わないと、事態は改善しないし子どもは混乱するばかりである。

子どもへの思いが「強制」や「勝ち負け」になっていないか

最後は、「子どもに対しての躾(しつけ)が厳しい」という理由で、夫から離婚を申し立てられているという35歳のママからの相談。

夫は「子どもが大きくなって直せばいい」という考え方だが、自分は納得できず「できるだけ厳しく」しているとか。「愛情をもってやっていることを、どうしたら、わかってもらえるのでしょうか?」と尋ねる相談者に、僧侶でアナウンサーの川村妙慶さんは「早めの躾」の大切さには同意しつつも、こう諭します。

〈しかし、あなたは「躾」と言いながら、「こうしなければならない」と厳しさだけを与えていませんか? それがご主人にとっても締め付けられる思いがするのかもしれません。あくまでも支えであって、強制ではないということを知ってほしいのです。自ら動くのは子どもさんなのですから。くげぐれも「押しつけ」にならないよう気をつけたいものです〉
(引用:川村妙慶著『女の覚悟――ひとり悩むあなたへ贈る言葉』2011年、講談社)

「正しい」と信じる行動をするとき、人はけっこう暴力的になる。この相談は躾に関してだが、お受験に対する意見の違いが、離婚の原因になってしまうケースは多いと聞く。

どの親も「子どものためを思って」がスタートであることに違いはないが、いつの間にか夫婦間での「勝ち負け」の問題になってまう。本末転倒とは、まさにこのことじゃ。

パパとママがいつもケンカばかりしていたら、どんな方針の躾も苦労して取り組んだお受験も、長い目で見て子どもの糧(かて)になるのは難しそうである。

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