「子どもの発達障害」普通学級と特別支援学級どちらを選ぶ? 発達障害研究の専門家の見解とは
[セミナーレポート]榊原洋一先生【もっと知りたい! 「子どもの発達障害」】#3(Q&A後編)
2023.08.25
小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一
講談社コクリコCLUB主催のオンラインセミナー【もっと知りたい! 子どもの発達障害】(2023年5月19日開催)のセミナーレポート第3回です。
子どもの発達研究の第一人者で、今も現場で子どもたちの診察を続けている榊原洋一先生に、子どもの発達障害について、保護者の皆様から寄せられた切実な悩みにお答えいただきます。
質疑応答編の後編では、前編(Q1〜Q3)に続いて、4つの質問が登場します。
(全3回の3回目/#1、#2を読む)
榊原洋一先生プロフィール
Q4 知能テストの結果が思わしくないが、診断を受けるべきか
WISC(ウィスク)の得点のばらつきが大きいという結果が出ました。でも、本人は困っていないようで、学校にも楽しく通っています。診断を受けるべきか迷っているのですが……。
A4 どうか気にせずに。診断も必要ないでしょう
WISCとは、Wechsler Intelligence Scale for Childrenという知能検査の略語です。
Wechslerはテストの開発者の名前で、「ウィクスラー式児童用知能検査」といった意味になります。
WISCは全体的な認知能力を測るIQ検査と、「言語理解」や「処理速度」など4つの指標を表す小項目の検査で構成されています。
このWISCは、子どもの発達状況を確認し、得意なことと苦手なことを把握するために参考になります。例えば、言語理解の得点が低いようなら、読み聞かせをしてあげるなど必要なサポート内容が具体的に見えるという利点があります。
この検査では、得意・不得意の凸凹が見えてきます。
誰の結果も凸凹しています。凸凹の差が大きいからといって発達障害であるとは限りません。医師などの専門家もWISCの結果を一つの参考にはしますが、これによって診断することはありません。
さまざまな研究がなされていますが、WISCの結果から発達障害の可能性を判断することは難しいとされています。
お子さんが元気に学校に通われているようなら、何も問題ないと思います。WISCの結果を発達障害に結びつける必要はありません。気にしないほうがいいですよ。
Q5 普通学級か特別支援学級か 誰が決める?
普通学級(通常学級)と特別支援学級のどちらに通わせるかは、誰に決定権があるのですか?
A5 本当は保護者にあります
最終的な決断を下す権利は、日本の法律では親にあることになっています。保護者には子どもを小学校と中学校に通わせる義務があると法律で定められていることに基づきます。
世界の先進国では障害のある子と障害のない子が共に学ぶ「インクルーシブ教育」が主流となっていますが、日本ではいまだ障害のある子を特別支援学級、障害がない子を普通学級に分ける「分離教育」が基本となっています。
お子さんを普通学級に入れるか、特別支援学級に入れるかの決定権は親御さんにありますが、一つ困った問題があります。
教育委員会が実施している「就学相談」の存在です。お子さんに障害がある場合や、発達の面で心配がある場合に、進学についてのアドバイスを受けられる就学相談は心強い仕組みだと言えます。
ところが、就学相談を経ていざ進学先を決めるとなると、親と教育委員会が合意して進学先を決定することになってしまいます。そして、親と教育委員会の意見が異なる場合には、教育委員会の判断が優先されることが多くなります。
普通学級に不安があるような場合にはたいていは教育委員会によって特別支援学級への進学が勧められ、親が同意できなくても、特別支援学級への進学が決まってしまうのです。
これはおかしな話だと思います。相談しに行っただけのはずが、事実上、お子さんが審査され、親の意思とは関係なく学級が決定してしまうのです。
就学相談はあくまで希望者が任意で受けるものですから、私は迷っている親御さんには受けないほうがいいですよとアドバイスしています。
受けないとどうなるか? 普通学級へ進学するように通知が来るので心配要りません。
まずは普通学級へ通わせてみましょう。1学期、2学期と通ってみて、どうしても学習についていけない、通えないという状況になったら特別支援学級に移ればいいのです。
通ってみたら、意外にも普通学級で問題なくやっていけたというケースもあります。
普通学級から特別支援学級へ移るのはむずかしくありませんが、その逆はとても大変で、なかなか認めてもらえません。それだけに、できるだけ普通学級からスタートするほうが、その後の選択肢を広げておくという点でもおすすめです。
質問へのお答えとしては、親に決定権があります。その決定権を行使するためにも就学相談は受けないほうがよい、となります。