「自宅でモンテッソーリを実践できますか」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!

第16回

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

適切な提示

今回の問題点を整理すると、
1 子どもが提示を見てくれないので、結果的にできるようにならない
2 親だと甘えてしまって、できることもしない
の2つだと思います。

まず、提示についてですが、すでにポイントなどは第4回でも触れましたので、会員の方からいただいたレポートをお読みいただくと、子どもが見てくれない理由がおわかりになると思います。

「相良先生の本などを読んで”提示”という言葉自体は知っていましたが、実際の提示を見て大変に驚きました。所作の美しさ、正確さ、無駄のなさ、空間感覚の鋭敏さ、合理的な動き。
翻って自分の提示は行き当たりばったりで子どもには大層わかりにくかったと思います。ズボンが裏返ってしまった時の直し方を提示しましたが、ゆっくりと、はっきりと、どこがポイントかを心がけたところ、子供が熱心に見て、自分で行っていました」(2歳5ヵ月 男 一般保育園 0歳5ヵ月 男)

「提示を見ないから聞いてくれないから怒るのはナンセンスですね。まずは、相手をしっかり観察して、提示の時期を見極めないといけません。
提示はただ相手に見せるという行為と思っていましたが、大まちがい、とても奥深いものでした。相手のことを、こちらがしっかり見ないといけませんね。そしてわかりやすく動きを細分化して環境に配慮してから初めて”見ててね”と言えます」(2歳 男 一般保育園 0歳2ヵ月 女 家庭)

「本での知識があっても最初に先生の提示を拝見したときは”は!?  なにこれ!?”と声が出るほど驚きました。こんなにゆっくり? 信じられない…と衝撃です。
初めに提示をした時は”やる! やる!”と手を出そうとした長女も、今では”見てればやり方がわかる”ことを理解しているので、じーっと見ては、こちらが確認のためちらと見るとうなずく、という真剣な様子が見られます。口癖は”まずどうするの?”になりました。」(5歳2ヵ月 女 2歳10ヵ月 女 一般保育園)

いかがでしょうか。提示は簡単なようでも、やはり一定の準備や技術が必要になります。見よう見まねではうまくいかないことが多々あるのです。

でも少し学べば、このようにごく普通のお母様でもしっかりとお子さんに伝えることができるようになります。提示のポイントを意識して、準備と練習をしてから提示してみましょう。

名称やお約束を伝えて視線を集中させる
子どもに見やすい位置や動かし方など提示のポイントがある

モンテッソーリ教室で素晴らしい提示が見られるのであれば、その先生から学ぶのも一つの方法です。

そのようにして適切な提示ができるようになり、同時に子ども自身が「見て学ぶ力」を身につけていけば、必ず見てくれるようにもなります。

低年齢からいろいろな習い事にひっぱりまわさなくても、本当に自分で好きなことを選び、集中してあっという間に習得するようになるでしょう。

良き援助者になるには

もう1つの、一人でできるのにしようとしない、「できない」「ママ、やって!」というのは、モンテッソーリ教育に限らず、日々の生活の中でよくご相談があることです。

親は、一度できるようになったことは、やって当たり前、と思っていますね。でも、質問者さんも書いてくださった通り、子どもには甘えもありますから、それが不満なのです。子どもは、いつまでも「できたこと」に感動してほしいのです。

「やって」と言われたら「ほんと? やってあげてもいいの?」と喜んでしまいましょう。

でも全部すぐにやってあげてはいけません。それは甘やかしになってしまいます。全工程を細分化して、ほんの入り口だけやってあげて、「ほら、ここまでできたよ。次はできるかなあ?」と促しましょう。

日々の生活の中にチャンスがある カレー作り 3歳5ヵ月
おうちだからできる窓ふき 2歳10ヵ月
みんなに食べてもらいたい 餃子作り 2歳5ヵ月

そして、1つできたら、「できたねえ」と共感してあげて、「じゃあ、次は?」と提示の動作を分析し、その1つずつをともにしていくつもりでやりましょう。
そこで「もう、できるでしょう」となげてしまったり、代わってやってあげてしまったりしないで下さい。スモールステップで子どもはできるようになるのです。

まだ3歳にもならない子どもにとっては、小さな動きひとつでも大変なことです。「やった!」「できた!」という満足感、達成感が子どもの成長につながっていきます。

日本ではモンテッソーリ教育というと、幼児期のみの教育のように思われていますが、実は24歳までを視野に入れて確立された教育方法であり、そこには普遍的な理念があります。
最近では認知症の高齢者の援助にも役立つと言われているほどです。

ですから、一番身近で一番お子さんを愛しているお母様が、提示や教具といった目先のことだけではなく、人間教育、人格の形成という深いところまで学ぶことで、お子さんの援助者となることができるのです。
どうかあきらめないで、目の前のお子さんのために良き援助を続けていってください。

今すぐ役に立つ実例を年齢別に豊富に掲載。カラー口絵つき。
『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(著:田中昌子)

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たなか まさこ

田中 昌子

Masako Tanaka
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。  

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。