子育て中は、日々、悩みや困りごとがありますね。そこで、「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いしました。ちょっとした工夫で、子どもたちに大きな変化が起こるモンテッソーリの考え方は、目からうろこが落ちることがいっぱいです。子育て中の人、必読です!
※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。
ごっこ遊びばかりで、一人遊びができません
2歳と5歳の娘がいます。5歳の娘は小さい頃から一人遊びが苦手です。何をするにも、「一緒にやろう」と私を誘います。特にごっこ遊びが大好きで、自分が赤ちゃんや動物になり、物語を考えて、私に指示をだしてきます。
私が家事などをしている間は、ずっとテレビを見ていて、消すように促しても「一人じゃ遊べないから~」の一点張り。何かの記事で、一人遊びができないのは、親の過干渉が原因とあり、私が色々先回り育児をしすぎ、過干渉になっていたのかなと反省しています。
「お仕事」をいくつかつくってみたのですが、「私もやりたい!」とはなるものの、一人で集中するのではなく、一緒にやりたいと言われます。これから娘が一人でも楽しめるようには、どう関わっていけばよいのでしょうか。
5歳にもなったのだから、そろそろ親の手を煩わさないで、一人遊びをしてほしい、下にも手のかかる子がいるのだから、ごっこ遊びばかりしないで、「お仕事」に集中してほしい。そんなお気持ちを抱かれるのも無理はありません。
質問者さんはその原因として、先回り育児をし過ぎたのかも、過干渉になっていたのかも、とお心当たりがあるようですね。第5回で「モンテッソーリ教育では、いつも子どもが出発点です。大人がやらせたいことではなく、子どもが何をやりたいのかをよく観察して準備しましょう」
と書きましたように、大人が主導せず、子どもが主体であることは、とても大切です。もし、思い当たることがあるようでしたら、これまでの連載をお読みになり、子どもが主体という意味を確認してみることをお勧めします。
子どもが選ぶ、自分の成長に役立つもの
さて、一般的には、ごっこ遊びやおままごとは、奨励されているものです。そのメリットとして
・言葉のやり取りによって言語力や表現力が身につく
・社会性や協調性が身につく
・見立てあそびや目の前にないものを自由に発想する力が育ち豊かな想像力が育まれる
といったことが挙げられています。
モンテッソーリ自身も、最初は「子どもはおもちゃやおままごとが好き」という先入観を持っていました。そのことを自身の著書に記載しています。
「わたしらの学校には、ほんとうに素晴らしいおもちゃが、子どもらに使うに任せてあったのですが、ひとりもそれに見向きもしませんでした。このことはわたしにはあまりに意外でしたので、自分で乗り出して、子どもといっしょにおもちゃを使い、小さなままごとと器物はどう取り扱うのか、人形台所のかまどはどうして火をつけるかなどをしてみせました。子どもはちょっとの間興味を見せましたが、それから遠ざかって、これらの物を自分から遊ぶ道具として選びませんでした。このことからわたしはこういう考えに到達しました。子どもの生活では遊びは二の次で、もっとましな、高く評価できることが何もないときだけ、間に合わせにするものだということです。」(『幼児の秘密』マリア・モンテッソーリ著 鼓常良訳 国土社)
なぜ、モンテッソーリが見ていた子どもたちは、おもちゃやおままごとを選ばなかったのか、おわかりでしょうか。そこには、 本物があったからです。
子どもの手に合った小さいサイズのものでありながら、本当に切れる包丁、本当に水を使って洗える洗濯板 、本当に縫える糸と針。シンプルで質の良い、美しく魅力的な本物が、すぐに使える状態で準備され、先生が丁寧に扱い方を見せてくれていました。子どもにとっては、そちらのほうがずっと魅力的だったのです。
子どもの使命は自ら成長することであり、自分の成長に役立つものかどうかを、自分で判断します。そのため、子どもは自らの精神の集中につながる本物を選ぶ、ということをモンテッソーリは発見したのです。
ごっこ遊びが好きという思い込み
ご家庭では、子どもが本物を扱う環境を整えることは簡単ではありません。余計な手間暇もかかるし、きちんと扱い方を教えないと怪我するし、陶器やガラスを割られたらもったいないといった大人の都合が優先されます。モンテッソーリの言う「もっとましな、高く評価できることが何もない」のが普通の状態です。
ですから、質問者さんと同じように、一人で遊べない、お仕事には見向きもしない、落ち着かない、集中しないというご相談は、よくいただきます。
「丁寧さに欠け、少しうまくいかないとすぐに投げ出してしまいます。空想ごっこが多く、ぼうっとしたり、やることがないといって、ゴロゴロしているのを見ると、私がイライラします」(4歳3ヵ月 女)
「子どもに遊びを任せると、いつも同じ遊びばかりします(お店屋さんごっこ、レストランごっこ)。今の私は、子どもと一緒にいることが苦痛です。子どもが一人で集中することが少なく、すぐ「ままごとしよう」ぬいぐるみを抱えて「えーんって泣いて」と、同じことを繰り返し「させられる」のです。ほかのお仕事に目をむけさせようとしても、たいてい失敗に終わります」(3歳5ヵ月 女)
子どもが望んでいるのは、「ごっこ」ではなく「本物」だということに、大人はなかなか気づけません。大人が「まだできないから」「危険だから」「あとがめんどうだから」と、させてあげることがないからです。
それよりも、おままごとやおもちゃ、ごっこ遊びを「子どもが好んでいる」と思い込んで、それらを準備したり、つきあったりしています。ところが本来の子どもは、それを望んでいませんので、なかなか満足することがなく、「精神的な飢え」が生じることがあるのです。
手と五感を使う作業が、子どもを成長させるものですが、切れない包丁では、よそ見をしても問題がないので、注意力や集中力がなかなか育ちません。匂いもない手触りも均一のプラスチックの野菜や果物ばかりに触っていますと、感覚器官は洗練されません。
ですから、ぜひ、おままごとではない子どもサイズの家庭用品を取りそろえて、家事のすべてを一緒になさることをお勧めします。モンテッソーリ教育では1歳半からすべての家事に取り組みますので、3歳過ぎには家事ができるようになり、4~5歳では、ほぼお母様の代わりができるようになります。
準備をしてから誘う
お母様が家事をしている間はテレビを見ているとのこと。また、一人遊びができるようになってほしいとのご希望ですが、そうではなく、一緒に家事をすることから始めるのがポイントです。
お作りになったという「お仕事」は、もしかすると生活から切り離された内容だったのではないでしょうか。生活の中で「お仕事」をする工夫は、私が監修した本 『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』にも具体例がのっています。5歳のお子さんならば、自分で読んで始めることもよくあります。
いきなりできるようにはなりませんし、最初は誘ってもあまり気が向かないこともあります。ですので、準備が欠かせません。
一人で着脱ができるエプロンや、コックさんの帽子。さらに、専用のまな板に包丁、洗濯物を入れる籠や専用の洗濯バサミなどを、お子さんとご一緒に買いにいくことから始めるといいでしょう。すべて子どもが扱えるサイズを選びます。そして、使いやすいもの、また自分専用、という点がとても重要です。
購入する際も、これでこういったことをしましょう、とさまざまな想像をしながら買うことです。そして条件に合ったいくつかの中から、本人に選ばせることも大切です。
そうした準備をしてから、誘ってみましょう。皮を剥く、野菜をちぎる、匂いや形や大きさについて、言葉でも表現してみると、おままごととはくらべものにならないほど、言語力や表現力が身につくでしょう。
実際にやってみた会員さんのレポートを紹介します。
「おままごとについては、むしろ積極的にした方が良いと思っていたので知ったときはショックでしたが、直接体験とは正反対のものだということに気づき本当に良かったです。
家事をするときは”一緒にやってみる?”とその都度、誘いかけるようにし、一緒にできることを見つけてするように心がけました。そうしてみると実体験の大切さを改めて感じました。子どもが生き生きと作業するのがわかります。
私が切った野菜をボールに入れたり、酢の物をスプーンで小鉢に取り分けてもらったり(ちゃんと出したお皿の数に分けるのに驚きました)、一緒にできることがこんなにあるのだと自分でも驚き、そして今までの時間を反省しました。
今では、私が台所にたつと「見たい」といって走ってくるようになりました。野菜も1つ1つ匂いがあるのですね。私自身も子どもと一緒にかいでみて、すごく楽しかったです。また一緒に家事をすると、どういう作業が好きなのか、どういう作業が難しいのかということが、おもちゃで遊んでいる様子をみるより断然わかります」(2歳0ヵ月 男)
なぜごっこ遊びをするのか
もうひとつ、気になるのは、お子さんが赤ちゃんや動物になるような物語を考えてお母様に指示を出すような、ごっこ遊びをする点です。
モンテッソーリは空想と想像力は全く別のものであり、空想の世界にひたる子ども、というのは、大人が自分たちのために作った世界から逃げようとしている状態、「逃避行」と述べています。
赤ちゃんになりたい、動物になりたい、というのは、もしかすると現実の状態に満足していない、心が満たされていないということなのかもしれません。特に下にお子さんが生まれてから、そういった空想の物語を考えることが増えたようでしたら、赤ちゃん返りの一種ともいえます。
こちらについても、対応は同じです。実体験が少ないと空想の世界に入り込みやすくなってしまいます。ですから、ごっこ遊びではない 本物のお仕事に導いてあげましょう。
自ら毎日やりたいと思えるために
ただし、以下の三つの点で配慮が必要です。
(1)結果を求めない
お手伝いとは文字通り、大人の手伝いをして役に立つこと、です。でも、子どもの目的は洗うという行為、ちぎるという動作そのものにあります。ときには汚れが残ってしまい、洗い直さなければ、ということもありますが、目の前で洗い直したり、「ほらよけいに手間がかかる」と思わないようにしましょう。
(2)最初から最後までさせる
お手伝いというと、ほんのつまみぐいになりがちですね。年齢にもよりますが、なるべく準備から片付けまでさせてあげましょう。モンテッソーリ教育では、すべてのお仕事が準備から片付けまでを含むと考えます。年齢が上がったら、お休みの日には、一食は買い物から任せるなどしても、達成感のある良いお仕事になります。
(3)強制しない
役に立つようになると、どうしても「あなたのお仕事だから」と毎日決まってすることを強要しがちですが、モンテッソーリのお仕事は、強制労働ではないのです。「ありがとう。助かるわ」という言葉がけが、毎日やろう、という気持ちにつながります。また自ら毎日やりたいと思える雰囲気や環境を整えるのが大人の腕の見せ所です。
そして、一人でなにごとも取り組める
もちろん大人に比べたら、何倍も時間はかかりますし、上手にできないこともたくさんあります。
でも、できないからこそやってみたい、お母さんと同じことを体験してみたいのです。そして、遊びではなく、お仕事だからこそ、注意力や集中力が養われ、できたときの達成感は遊びとは比べ物になりません。
そして、道具を使いこなせた、一人前にできる、といった自信や自己肯定感が育てば、そのときこそ初めて、お母様から離れ、一人でなにごとにも取り組むことができるようになるでしょう。
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田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。