「3歳11ヵ月の男の子。保育園で孤立しています。積極的にするには?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!
第27回
2021.07.05
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子
「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いするこの連載。今回は、保育園での息子さんのようすをご心配されているお母さまからのご相談です。
※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。
保育園で孤立する息子。積極的にするには?
3歳11ヵ月の息子は保育園が嫌いなようで、「きょう寝たら、あした保育園?」と確認してきます。たずねてみると、「みんながぼくと遊ばないって言う」とさびしそうにします。この歳で、まさかいじめはないと思いますが、私が悲しくなってしまいました。こういう時、なんと声かけしてあげたら良いのでしょうか。
保育園の先生から聞くふだんの様子では、争いごとが嫌いなようで、おもちゃの奪い合いでは自ら引く、イス取りゲームなどの競争でも勝つ気がないようです。このような性格では集団生活がつらそうです。積極性や好奇心を育てるには、どうしたら良いでしょうか。
保育園に限らず、幼稚園であっても小学校であっても、お子さんが毎日通う場所ですから、そこで楽しい時間を過ごしてほしいというのは、すべての親の願いです。
残念ながら小中学校での不登校は、右肩上がりで増えています。保育園や幼稚園は義務教育ではありませんから、統計調査はありませんが、「登園しぶり」という言葉もよく耳にしますので、行きたくないとうケースは、めずらしいことではありません。
まず、3歳11ヵ月で、お友だちの輪に入れてもらえないという理由を、きちんと話せたのは素晴らしいことであり、お母様との関係がうまくいっている証拠ですからご安心ください。行きたくない原因を知っておくことは問題解決のために必要ですが、なかなか親に言えないことも多いのです。
お子さんが話してくれたときには、「それはさびしいね」「悲しかったね」と共感した上で、「よく話してくれたね。ありがとう」と、話したことを肯定してあげるのがポイントです。
これから先も、困ることは必ず出てきますが、それを打ち明けられる相手がいるというのはとても重要なことです。
今はお母様が一番だと思いますが、お父様だったり、先生だったり、お友だちだったり、成長にしたがって相手は変わっていくでしょう。どの年齢においても一人で抱えこまず、相談しながら問題を解決していくことが必要になります。
また、お母様が保育園の先生にしっかりと様子をうかがったことも、良かったと思います。
ご家庭と園というのは、子どもの成長を支える車の両輪のようなものですから、協力とバランスが欠かせません。これからもよくコミュニケーションを取っていかれることをおすすめいたします。
ありのままのその子を認めて
4歳前後の男の子たちは、戦いごっこをくり広げたり、ゲームで勝敗を競ったりすることがよくあります。
争いごとを好まないお子さんが、そうした中で孤立してしまうのも無理はありません。けれども、それはお子さんが悪いわけではなく、その性格を変えてまで、そこに加わる必要は全くありません。
また、争いに加わらないから、積極性や好奇心が育っていないということもありません。
モンテッソーリ教育では、子どもを競わせたり、優劣をつけたりしない、ということとその理由については、第8回でお伝えしました。
争いごとを好まない、お友だちにゆずってあげる、というお子さんは、なんとやさしい性格の持ち主でしょうか。朝顔の種をまいて肥料をたくさんやれば、百合の花が咲くわけではありません。
それと同じように、もともとお子さんが持っている性格は、根本的に変えることができません。無理に変えようとすると、ゆがみが生じます。
「こうなればいいのに」「こうあってほしい」と別の人格にあてはめようとするのではなく、一個の独立した人格として、ありのままのその子を認めるのがモンテッソーリの考え方です。
ですから、まずはお母様が、お子さんのそうした性格を否定するのではなく、長所として認めてあげてほしいのです。
そして、できれば保育園の先生にも、同じ視点でお子さんを見ていただけるように、時間をかけてお話しましょう。
もちろん、お友だちから「遊ばない」と言われているという事実は、先生にもお伝えしておき、目配りをお願いしておくことも必要です。
お子さんのいう「みんな」が、必ずしも全員という意味ではないこともよくありますので、同じような立場のお友だちや、別のグループと遊べるように配慮していただけるかもしれません。
同時に、お母様もほかのお母様方とコミュニケーションを取るようにしておきましょう。休日に、家族ぐるみで遊べるような機会が持てると、保育園での人間関係も変わることがあります。
手と五感を作った作業で、自己肯定感を高めよう
そしてもうひとつ大切なのは、お子さんの自己肯定感を高めるということです。
自己肯定感は、親の声かけ、言葉がけでは、高めることができません。くり返しお伝えしていますが、手と五感を使った作業を満足するまで行い、「やった!」「できた!」という経験を重ねることが、自信につながります。
質問者さんのお子さんも、好奇心がないのではありません。おもちゃの取り合いや、勝敗を競うゲームなどに興味がないだけなのです。
通っていらっしゃる保育園が、お子さんにふさわしいお仕事が準備されるような環境でなければ、ご自宅でいろいろな家事や手作業を準備しましょう。
好奇心をかき立てるような材料があれば、お子さんも、積極的に興味のあるお仕事を選び、黙々と作業に没頭することでしょう。
真の社会性とは
モンテッソーリ教育を受けた子どもの特徴として、一人でもたじろがない、ということが挙げられます。しっかりと個が確立している子どもは、まわりに流されず、自分で判断して行動します。
集団生活では、なんでもみんなと同じことをさせることで、社会性が発達するという考えが一般的ですが、モンテッソーリは、
「子どもの社会的な生活が、すべての子どもが同じひもを、同時に、みんなで手で握っていることであるならば、一番幸せなのは、刑務所のギャング団であるはずです。」(『モンテッソーリの実践理論―カリフォルニア・レクチュア』マリア・モンテッソーリ著 クラウス・ルーメル 江島正子 共訳 サンパウロ)
と皮肉たっぷりに述べています。
ただ一緒に歌ったり同じように行動したりするのが集団ではなく、しっかりと個を確立させるための活動を通して形成される、愛と調和に満ちあふれるような集団こそが、真の集団であり、そのためには多様性を認めることが大切だといっているのです。
このことは大人の社会に目を向けてもわかります。
人の先頭に立って引っぱっていくことを好む人もいれば、口数は少なく目立たない存在であっても、優れた研究成果を生み出す人もいます。
みんなが我こそは!と競い合うばかりでは、社会は成り立たないのです。いろいろな人がいて、それぞれの役割をきちんと果たすことによって、調和が生み出され、平和な社会が維持されます。
モンテッソーリは子どもを信じ、常に肯定的に見ていました。
争いごとを好まず、平和な心を持ったお子さんは、いつかきっと平和に貢献できる素晴らしい大人になることを信じましょう。
もっと知りたいあなたへ
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田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。