「ワークやデジタル教材について、どう考えたらいいでしょうか?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!

第26回

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いする連載です。今回は、やる気のある娘さんに、ワークやデジタル教材を与えてもいいのか、というお悩みです。

※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。

(イメージ写真/photoAC)
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5歳9ヵ月の女の子です。ワークやデジタル教材について、どう考えたらいいでしょうか?

これまでモンテッソーリ教育を心掛けた子育てをしてきました。もうすぐ6歳で、小学校に上がることも視野に入れる時期です。たまにワークのようなものを与えると非常に喜び、「もっとやりたい」と言います。友人宅にある教育用タブレットにも興味がある様子です。
モンテッソーリ教育では、手を使って実物を扱うということが大切ですが、こうした最近の教材についての考え方を教えてください。具体的な体験があれば、デジタル教材を並行して活用しても良いのでしょうか。

質問者さんは、とても良くモンテッソーリ教育を理解していらっしゃると思います。
モンテッソーリ教育では手と五感を重視していること、紙やデジタルなど平面の世界ではなく、具体の世界や実体験を大切にしていることについては、当連載でも繰り返しお伝えしてきました。そこをきちんとご理解いただいているからこそ、迷われるのでしょう。

実はモンテッソーリ教師の中にも、さまざまな意見を持つ方がいらっしゃいます。コンピューターやアプリ、デジタル機器といったものに否定的な先生が多い一方で、時代の流れなので積極的に取り入れるべしという先生もいらっしゃいます。
マリア・モンテッソーリが生きていた時代には存在していなかったものであり、社会的変化も当時とはくらべものになりませんので、意見が分かれるのも、ある意味当然かもしれません。

児童期の子どもの特徴

では、何を手掛かりに考えていけばいいのでしょうか。

モンテッソーリは、人間がどのような本質を持っていて、どのように発達していくかを研究しました。つまり、人間の普遍的な部分に基づいた教育法ですから、そこに着目すれば、時代や社会の変化に左右されない、いつの時代にも適用できる理論が見つかるはずです。

人間の発達については、第23回「発達の4段階」を紹介しました。そこでもお伝えしましたが、「第1段階」、つまり0歳から6歳の子どもは、手や五感を使う現実の体験がもっとも重要でした。

今回のご質問は、もうすぐ6歳というお子さんですから、「第2段階」である児童期、6歳から12歳の子どもです。この段階についてモンテッソーリが発見したことを、簡単にご紹介します。

モンテッソーリは、児童期の子どもの特徴について、複数の著作の中で述べています。それらをまとめてみるとだいたい以下のようになります。

1 広い世界での社会的経験を求める
2 想像力が発達する
3 抽象的思考ができる(因果関係を知りたいという要求)
4 グループを形成する(群本能)
5 道徳的な善悪の判断についての敏感性


(『人間の可能性を伸ばすために―実りの年 6歳~12歳―』マリア・モンテッソーリ著 田中正浩訳 エンデルレ書店 絶版 青土社 新版、『児童期から思春期へ』マリア・モンテッソーリ著 K.ルーメル 江島正子訳 玉川大学出版部 絶版 より)

これらの特徴は、互いに関連性を持っています。それぞれの特徴についてみていきましょう。

広い世界での社会的経験

最初に、1「広い世界での社会的経験」について。
幼児期の子どもたちは、家庭や子どもの家という小さな保護された社会が必要であり、そこで満足していましたが、児童期になると閉ざされた空間ではなく、より広い社会へと意識が向くようになります。

モンテッソーリは「子どもが外に出ると、世界は子どもにみずからをあらわします。子どもを外へ連れていこうではありませんか。」(前出『児童期から思春期へ』)と述べています。
家の外の自然界には、植物や動物、川や湖などがあり、それらは命というもの、相互依存という関係性を、子どもたちに伝える最高の教材となり、子どもたちの知的要求を高めてくれます。

日本には、モンテッソーリ小学校はまだほとんどありませんが、児童期の子どもたちは、自然の探索によく出かけます。図書館や博物館へ行ったり、必要なものを買いに出かけたりといった社会経験も重要ですから、出かけるための計画を立てるところから、子どもたちが行います。

左:桜の葉の研究をする6歳児 中:虫眼鏡で葉を観察し模写する 右:自然は最高の素材

想像力

ただし、広い世界といっても実際に行ける場所には限りがあります。子どもたちの興味は、この段階では宇宙全体へと広がっていきます。全体を理解するために使われるのが2「想像力」です。

想像力は単なる空想や夢想とよく混同されますが、そうではありません。モンテッソーリは「想像力は真実を基礎とする」「想像力には感覚的基礎しかありません」といった言葉を使い、幼児期の実体験や感覚教育が児童期の想像力の発達を支えていることを説明しています。

身近なものは、見たり聞いたり触ったりという実体験が可能ですが、地球上のあらゆる場所に行けるわけではありませんし、宇宙空間などは実体験できません。でも、児童期になると、過去に蓄えられた印象をもとにして、それらを想像することができるようになるのです。

ですから地学や地理といった分野を学ぶのに適した時期だといえます。地球の内部の構造はどうなっているのか、月や星などにも興味を持ちます。

左:地球の構造(手作り) 右:太陽系の惑星(手作り)

「広い世界」というのは、空間的な広がりだけではなく時間的な広がりも意味します。過去に思いを馳せ、歴史を学ぶことを児童期の子どもたちはとても喜びます。今、現実に目の前になくとも、それを想像することができるからです。太古の生物や化石などに強い興味を示すのは、その好例です。

ですからモンテッソーリ小学校の教室には、膨大な興味に応える具体物や資料が豊富に準備されています。

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