「3歳の女の子。自分のことができないのに、弟の世話を焼きたがります」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!
第29回
2021.07.19
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子
「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いするこの連載。今回は、弟の面倒を見すぎてしまう、やさしいお姉さんの心配をするお母さまからのご相談です。
※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。
3歳の女の子です。1歳8ヵ月の弟がいるのですが、とにかく世話を焼きたがります
自分の着替えが終わっていないのに、弟を着替えさせようとしたり、弟が他のもので遊んでいるのに、自分が良いと思うものを勧めたりします。片付けも自分のものはしないのに、弟のものを手伝っています。
優しいのはうれしいのですが、まずは自分のことをしっかりしてほしいのです。弟が自分でしたいのにおせっかいをしたり、集中しているのを邪魔したりしないでほしいと思うので、「まずは自分のことをして」と毎回きつく注意してしまうのですが、言うことを聞きません。どう対処すべきなのでしょうか。
とても優しくて面倒見の良いお姉さんなのですね。下の子をいじめて困る、きょうだい喧嘩が絶えない、といったご相談も多い中、微笑ましいご相談かと思います。
一般的な子育て相談でしたら、きっと「気にせず放っておきましょう」という回答になるのではないかと思います。
でも、質問者さんもこれまでの連載をお読みいただき、モンテッソーリ教育について理解を深められ、自分ですることや集中力の重要性を感じていらっしゃるので、ご心配になられたのでしょう。
確かに、しっかりと歩けるようになり、環境を探索しようとしている1歳児にとって 、邪魔されずに自分で手を動かして作業をすることは、人格の形成に直結する大切なことです。これはモンテッソーリの偉大な発見であり、今も多くの大人が見過ごしている問題であることは、繰り返しお伝えしてきました。
どう対処すべきかについて、ヒントになることがあります。第8回でモンテッソーリ園の縦割りクラスの様子をご紹介しましたが、年長児は年少児をよく手伝います。ただ、その手伝い方が絶妙であるというご報告をたくさんいただいているのです。
「娘の通う幼稚園では、年長さんが年下の子を手伝うことがよくありますが、感心するのは”手伝い過ぎない”ということです。大人はおぼつかない手つきの子どもを見ると、ついついすべてをやってあげてしまいますが、年長児の手伝い方が素晴らしいのです。
たとえばボタンがかけられない小さい子がどこで困っているのかを瞬時に見極め、穴を広げてあげたり、下から半分押してその子に引っ張らせてあげたりします。ゼリーの蓋が固いときには、少しだけめくってあげたり、引き出しがひっぱりにくいときには、指をかけられるようにほんの少し出して、あとはさせてあげたりするのです。
まさに”一人でできるように手伝う”様子は、とても勉強になります」(4歳半 モンテッソーリ園に通う女の子の母)
年長児たちは、かつて自分がそのように扱ってもらった、それがとても心地よかった、うれしかったという記憶があるので、このような接し方が可能になるのです。
子どもは、環境からすべてを学びます。環境というと、物的環境ばかりを気にしがちですが、人的環境も同じくらい重要です 。人としてどのようにふるまうのかということは、すべて身近な人から学びます 。
3歳のお子さんが1歳くらいのとき、お母様はもしかすると、上のお子さんが今、弟さんにしているように、一生懸命にお世話をしてこられたのかもしれません。お母様が自分にしてくれたことを、今度は弟さんにしてあげようとしている、そう考えると、怒ることはできませんね。
でも、子どもが自分ですることの大切さを知ったお母様が、なんとか1歳のお子さん自身にやらせてあげたいというお気持ちになるのもよくわかります。ではどうすれば良いのか、それについてもこんなレポートが参考になるでしょう。
「モンテッソーリ園に通う長女は、なんでも次女に提示してくれるのでとても助かっています。”見ていてね”と声をかけてからゆっくりとピッチャーから水を注いだり、靴下を広げてから足を入れるところを見せたりしてくれます。
私よりもずっと良い提示だし、妹もお姉ちゃんのすることには興味津々なので、よく見て一生懸命真似しようとしています」 (4歳2ヵ月 と 1歳10ヵ月 女の子の母)
まずは上のお子さんに、弟さんはお姉ちゃんが大好きで、なんでもお姉ちゃんの真似をするから、お手本を見せてあげてほしいと伝えましょう。
自分の着替えの途中で弟を着替えさせようとしたときには、「どうやって靴下をはくのか見せてあげられるかしら?」と具体的にしてほしい動きを伝えてみてください。
弟さんのものを片付けようとしたときには、上のお子さんが片付けていないものを指さして、「これをどうやって片付けるか、A君に見せてあげられるかしら?」と伝えましょう。
そして上のお子さんがその動作を終えたらすかさず、「じゃあ、今度はA君の番だから、できるかどうか、一緒に見てみましょうね」と手を出さずに、一緒に見守るようにしましょう。
弟さんができたときには、「あなたがお手本を見せてくれたから、A君も自分でできたね!」と言ってあげます。
うまくできなかったときには、「じゃあ、もう一度見せてあげてくれるかしら?」と何度でも動きを繰り返すように促すことで、上のお子さんも上手に提示ができるようになります。
モンテッソーリも
「5歳児の心はわれわれのより3歳児の心にずっと近いのです。だから小さい子はわれわれが伝えにくいと思うはずのことをらくに覚えます。2人の間にはおとなと小さい子との間にはめったに見られない連絡や調和があります。どの教師も3歳児には伝えられないたくさんのことがありますが、5歳児には極めてらくにそれができます。彼らの間には自然な精神的滲透があります。」(『子どもの心~吸収する心』マリア・モンテッソーリ著 鼓常良訳 国土社)
と述べています。
次に、下のお子さんの集中を妨げてほしくないという問題ですが、そういうときこそ、上のお子さんに対して新しい提示をするチャンスです。
上のお子さんをキッチンに誘って、包丁で食材を切ったり 、お米を研いだりするなど、下のお子さんがいると、できないことをやってみせるのです。その際には、下のお子さんの目線に入らない場所であること、上のお子さんには、提示のしかたを提示するつもりで、ゆっくりはっきりやってみせるのがポイントです。
それによって下のお子さんは邪魔されずに集中できますし、上のお子さんも手や五感を使いながら、自分でできることが増えていきますので、心が満足します。
そのためには、お母様が、上のお子さんを日頃から観察し、何をしたがっているのか、どのようにしたらできないことができるようになるのかを、あらかじめ把握しておきましょう。
下のお子さんにはまだ危なくても、上のお子さんには扱えるものがあります。その場ですぐに対応することは難しいので、事前にある程度準備しておくとスムーズです。
お子さんはまだ3歳と1歳ですし、すぐにはうまくいかないかもしれません 。
けれども、言葉で咎めたり指示したりするのではなく、なにごとも実際にやって見せることで、子どもたちに伝えていきましょう 。それが、モンテッソーリ教育なのです。
第8回でも家庭内で縦割りの良さを活かす方法をお伝えしていますので、ぜひ参考になさってください。
心優しく面倒見の良いお姉さんですから、一度うまくいけばきっと、今回ご紹介したレポートにあったような、素敵な提示ができるように なり、良い循環が生まれることでしょう。
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田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。