子どもの「脳の発達」と「習い事」の意外な関係 「早く習い事を始めるのがよい」とは言えない理由を専門家が解説
【セミナーレポート】「うちの子、遅れてる?」を専門家が解説! 「0・1・2・3歳児の発達を知ろう」#3
2023.11.16
小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一
子どもと接したらいいのか〔質問9〕
1歳の子どもにどの程度相手をして構ってあげるといいのか教えていただきたいです。以前のセミナーで、赤ちゃんは安心、安全の環境を整え、普段のお世話の中で与える刺激で十分と教えていただきましたが、1歳以降はどうなのでしょうか。
物を手にとって渡す素振りなど、子どもがコンタクトを取ろうとする仕草が増えてきましたが、忙しいときに適当に応対していることも多く、罪悪感を感じます。
できる範囲の対応で十分です〔回答9〕
罪悪感を感じる必要はありません。安心、安全の環境を整えて、普段のお世話をすればいいというのは、1歳以降、2歳、3歳も変わりません。
その後、日本で育つ子は幼稚園、小学校の社会的な生活に入っていき、学びのシステムの中で読み書きなどの基本的なことを全員が身につけていきます。
幼稚園以前の対応は、家庭それぞれ別個の対応であって構わないんです。忙しい方は忙しいなりにできる範囲でやればいいし、時間があってじっくり関わりたいという方はじっくりやればいいんです。
すべてをほったらかし、子どもが呼んでもいても無視するといった極端な放置状態はネグレクトにあたり、発達にも悪影響を及ぼします。
しかし、忙しいときに子どもに対応してあげられないというレベルは、普通の対応の範囲です。もちろん時間があるときには読み聞かせをしたり、お話ししたりしてあげてほしいと思いますが、この際にもどれくらい何をしなければいけないということはありません。
無理のない範囲で好きなことをなさって結構です。子どもをかわいいという気持ちがあって、関われる範囲で関わる。それで十分です。
多動は落ち着くのか〔質問10〕
2歳の子が1歳半健診で発語なしと多動で引っかかり、療育に通っています。近々大きな病院を受診予定で、まだ診断名はついていません。この先、多動は落ち着く可能性はあるのか、先生にお聞きしたいです。
十分にあります〔回答10〕
カナダで2万人の子を対象にした大規模な実験が行われました。それによると、2歳の時点ではおよそ半分の子がまだ非常に落ち着きのない行動をしています。
それが追跡調査を続けていくと、4歳くらいから多動がおさまっていき、だいたいの子が6歳までに多動が見られなくなりました。
6歳を過ぎても多動がおさまらなかったのは全体の7〜8%。これはアメリカでのADHD(注意欠如多動症)の発生率の数字とも重なります。
2歳の子はたいてい多動です。それが普通なんです。ですから、2歳でADHDを疑うのは早すぎるというのが私の感覚です。
1歳半で発語がないというのは一般的な個人差の範囲ですし、2歳になってからやっと発語があるというのもざらです。
私は東大病院時代に発語外来を担当していたことがありましたが、そこでは「3歳になっても発語がなかったら何か医学的な原因がある」と、医師たちの間で共通認識を持っていました。現在の2歳で発語がないとしても、まだ焦る必要はありません。
そして、2歳の段階では大半の子がまだ多動ですから、診断名がつかないのも無理はありません。大半の子は多動はなくなっていくけれど、日本の場合は5%の子が多動がおさまらずにADHDと診断されます。
療育を勧められたとすれば、多動がおさまらずADHDである可能性もあるから、早めに準備しておきましょうというアドバイスからだと思います。「多動が落ち着く可能性はありますか」というご質問には、「十分にあります」とお答えいたします。