うちの子、言葉が遅い? マスクの影響は? 専門家が答えた「1歳児の発達」の真実

【オンラインセミナーレポート】榊原洋一先生「1歳児の発達」を知ろう#2 | Q&A前編

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

Q3 イヤがることを無理やりやらせてもいい?

やりたくないと拒否する行為(歯磨きなど)に対して、がんばろうねと根気強く伝えるのですが、あまりにも泣いているのに無理やりやっているとトラウマになるのでは? と心配です。

A3 拒否も成長の証。大らかな気持ちで対応を

1歳児の終わりごろになると言うことを聞かなくなることがあります。そして2歳の年に入っていくのですが、「恐るべき2歳児」、英語で「terrible two」と言われる年齢となります。親の言うことを拒否することが多くなるんです。

この拒否という行為は、「イヤだ」という判断をしている表れです。これはとても重要です。

もし一切拒否せず、言われたとおりにやるとすれば、自分で何も判断していないということになってしまいますから。

1歳になって自分で移動できるようになり、手で細かい操作ができるようになると、だんだん自己主張が出てきます。親が言ったこととは違った自己主張が出てくると、親としては拒絶されたとか反抗されたと感じるかもしれません。

しかし、この自己主張は、お子さんがいずれ独立した人間として世の中に出ていくために不可欠な能力なのです。拒否する行為は、物事を判断する能力の芽生えであると認識していただきたいです。

「イヤだ」と言えるようになったということは大きな成長の証です。 写真:アフロ

子育てスタイルについて有名な研究があります。

子育てを「懲罰的子育て」「受容的子育て」「対応的子育て」の3つのスタイルに分けます。

「懲罰的子育て」は「こうしなさい。これはダメ」と厳格に言い聞かせるスタイルです。「受容的子育て」は何でも好きなようにさせるスタイル。「対応的子育て」は状況に応じて対応を変えるスタイルです。

この3つのスタイルで育った子どもの成長を見ると、「懲罰的子育て」で育った子は社会性や共感性などに少し課題が出てきます。

いちばんいいのは「対応的子育て」です。すべてを認めるわけではないけれど、自己主張も聞いてあげる。「言いたいことは一応お聞きします」というスタンスで育てた子が最もよく育つんです。

「受容的子育て」では、何をしていい、してはいけないという社会のルールがなかなか身に付かないことがわかっています。

子どもが癇癪を起こしていてもダメなものはダメと教える。それによって社会のルールを学んでいくからです。

全部否定するのもよくないし、全部を受け入れるのもよくない。

でも、言うは易く行うは難し、ですよね。

こんなふうに考えてみてはいかがでしょう? 拒否という行為は、お子さんの「これをやりたいんだ」という自己主張のエネルギーが出ている状態。そのエネルギーはできるだけ大らかな気持ちで受け止めてあげよう、と。

実際には、大変な状況もあるでしょうし、判断に困ることもあるでしょう。しかし、お子さんの成長の証として大らかに受け止めてあげたいところです。

もし歯磨きをしたくないと癇癪を起こしてしまったら、どうすればよいか? 

ケースバイケースですが、私が親ならその日の歯磨きはパスするかもしれません。良い悪いと白黒つけるだけでなく、何事も幅を持たせて考えたほうがいいと思います。

歯医者さんは毎日磨かないといけないと言うかもしれません。

ですが、小児科医としては無理強いしてお子さんがパニックになるくらいなら、ちょっとくらい歯磨きを休んでもいいと考えます。いい加減な親だと思われるかもしれませんが、私ならそうしますね。

Q4 限られた時間の中で何を優先すべきか

子どもと触れ合う時間が平日夜や土日などに限られてしまいます。何を優先して接してあげればよいでしょうか?

A4 むずかしく考えず、自然体でいい

保育園に行っている時間は離れて過ごすことになり、さみしいと感じる親御さんは多いと思います。共働きの場合は、とくにそうですよね。

昔、「3歳児神話」という考え方がありました。子どもは産みの親、とくに母親との愛着関係が3歳になるまでにないと、青年期になって社会性や共感性の問題が起こるという説が、イギリスのボウルビィという精神科医によって提唱されました。愛着関係を結ぶのは産みの親でなければいけないとされたのです。

ところが、その後の研究で、必ずしも産みの親でなくてもいいことがわかってきました。子どもが自分のことを安心して任せることができる大人であれば、じつは誰でもいい。そのような大人が1人もしくは2人いればよく、それは必ずしも親である必要はないことがわかっています。

お子さんが保育園に通っていると、愛着関係を結ぶのは1番目が保育士さんで、2番目がお母さんとなることもしばしばあります。長い時間を一緒に過ごす大人との愛着関係が強くなりますから、それは自然なことです。

親御さんとしてはさみしいと感じるでしょうし、自分が負けてしまって不安に思うかもしれません。

でも安心してください。同じ保育士と10年も一緒にいるわけではなく、長くてもせいぜい2〜3年のこと。一時的には保育士さんのほうが好きだとなっても、結果的には親御さんとの時間のほうがずっと長くなりますから、いずれは1番目の愛着関係になってくれます。

「3歳児神話」はあくまで「神話」であることがわかってきています。  写真:アフロ

ただし、愛着関係を結ぶには、親にも子どもをかわいがる気持ちがなければいけません。触れ合える時間は、愛情たっぷりに接してあげてください。

触れ合う時間は限られていますが、その時間に何を優先した方がいいということはとくにありません。子どもが安全に過ごせる環境をつくって見守り、食事やお風呂など基本的なお世話をしてあげるだけでいいんです。

いわゆる「なつく」相手は、4人くらいまでが一般的です。いずれは親御さんのことを一番好きになってくれますから、焦らずに面倒をみることできる人たちで協力し合って、気長に育てていきましょう。

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