幼児教育 親が陥りがちな「5つの思い込み」 あなたは大丈夫?
『やりすぎ教育』著者・武田信子が警鐘を鳴らす「その教育、本当に子どものため?」 #2
2021.09.10
親の思い込み例④「高額な木の知育玩具を与えればかしこくなりそう」
確かに、子どもの五感を育てるためには、水や本物の木などにできるだけ多く触れる機会を作ることが大切です。例えば木の場合、木目の美しさ、でこぼこした触感、種類によっては匂いまで、五感を働かせて発達させる要素がそろっています。
ただ、だからといって、木でできた高額な玩具を買い与える必要はありません。お散歩先で見つけた、大小さまざまな松ぼっくりや木の枝で十分です。
また、すべての遊び道具を木など自然のものにそろえる必要もありません。使わなくなったキッチン用品、新聞紙、ラップの芯などなど、身近に転がっている廃材も立派な遊びの材料になります。
お金をかけること、よいといわれている自然素材のものを使うことが、すなわちいい育児とは限りません。身近な材料でいかに楽しく遊べる工夫を身につけるか。その方が大事ではないでしょうか。
親の思い込み例⑤「一人でしっかり育てなきゃ」
「自分でなんとかしなきゃ」という思い込みを持つ親は多いです。
多くの親が「自立しなさい」と言われて育てられてきたのですから、無理もないでしょう。ワンオペで頑張っている人たちには声援を送りたいです。
私の場合は、シングルマザーだったので、日本では本当に大変でした。でも、カナダやオランダで仕事をしていた時期には、知人家族にずいぶん助けてもらうことができました。日本はみんなが忙しすぎて、支え合う余裕がないように思います。
我が家は父親がいない家族でしたが、知人家族と過ごすことで、子どもたちに父親という姿を見せられました。
「両親がそろっていて仲がいい家族ってこういうイメージ」というのを見せるにはその家に行くのが一番でしたし、キャンプやBBQなどの体験も、家族ぐるみでおつきしていれば可能になります。
「子どもはみんなで育てる」という意識で、自分が困っているときは思いきって人に頼ること。援助を受ける力が親も子も生きるうえで必要です。
そして他のご家庭が大変そうなら今度は自分がお手伝いさせていただく。意外と、自分の子には手がかかるものの、他のお子さんなら接しやすいということはあるんです。
1対1の育児になるより、大勢の人の中で育つ方が、実は子どもにとって有益なんです。
音楽ひとつとっても、クラシックが好きな人、演歌が好きな人など、多様な人たちに囲まれる方が、その中から好きな音楽をチョイスできる幅と余裕が、その子に生まれます。
また、子どもはいろんな大人を見ることで、「こういう生き方もあるんだ」という気づきを得られ、それが生きる力へとつながります。
子どもと1対1の関係になりやすい人ほど、意識して多くの人とコミュニケーションを取るようにしてみましょう。
PROFILE
武田信子(たけだのぶこ)
臨床心理士・一般社団法人ジェイス代表理事。武蔵大学教授、東京大学非常勤講師、トロント大学・アムステルダム自由大学大学院客員教授、日本教師教育学会理事などを歴任。心理、教育、福祉の観点から、体と心と脳のウェルビーイングな発達を保障する養育環境の実現と、マルトリートメント(子どもに対する教育上の不適切な対応)の予防のために対人援助職の専門性開発に力を注ぐ。
『やりすぎ教育 商品化する子どもたち』(ポプラ新書)、『育つ・つながる子育て支援』(チャイルド本社,共著)、『社会で子どもを育てる』(平凡社新書)、『保育者のための子育て支援ガイドブック』(中央法規出版)など著書多数。
※第3回は、21年9月13日公開です(公開日時までリンク無効)
脳と心が育つ“お金がいらない遊び”について伺います。
構成/桜田容子