ベストセラー童話「おばけずかん」は うなぎ屋さんの帰り道で生まれた⁉︎

映画公開スペシャル!「おばけずかん」の原作者・斉藤洋による書き下ろしエッセイ

童話作家:斉藤 洋

祝・映画公開! 原作者オリジナルエッセイ

すべての画像を見る(全4枚)
©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

7月22日にいよいよ公開となる映画「ゴーストブック おばけずかん」。
その原作となったのは、シリーズ150万部(2022年7月現在)に達するベストセラー童話、「おばけずかん」シリーズ(講談社)だ。

ここでは、実写映画公開を記念して、原作者である斉藤洋による書き下ろしエッセイも大公開! 
シリーズがスタートしたのは、2013年6月、『うみのおばけずかん』『やまのおばけずかん』からだが、その作品が生まれた意外なきっかけとは……? 

斉藤洋(「おばけずかん」シリーズ原作者)

えーっ? なに、それ……。

もう十年もたつでしょうか。

ある晩、うなぎ屋さんのカウンター席でかば焼きにかじりついていたとき、講談社の担当編集者にいきなり、

「子どものときって、どんな本を読まれましたか?」

ときかれ、私は即答しました。

「図鑑と伝記!」


すると、担当編集者は、

「へえ、図鑑と伝記ねえ……。」

と言ったきり

「で、どんな図鑑?」

とか、

「どんな人の伝記?」

とは突っこんではこず、その話はそれでおしまいになったのです。

ところが、うなぎ屋さんを出て、ちょっと歩いたあと、路地があったので、私が立ちどまってその暗がりを指さし、

「ねえ、ねえ。知ってる? おばけとか、幽霊ってああいう所に出るんだよ。出たら怖いんじゃないか? ワーッて近づいてきたりしてさ。」

と言うと、担当編集者も立ちどまり、あたりまえのことですが、別段怖がりもせず、

「そうですか。じゃあ、どうです? おばけの図鑑なんて?」

と臆面もなく言ったのです! 

私はすぐに反論しました。

「えーっ? なに、それ! 図鑑って、動物とか植物とか、乗り物とか、じっさいに存在してるものをあつかうんだよ。おばけなんて、実体がないじゃないか。図鑑なんて、ありえないよ。」

すると、担当編集者はこう言ったのです。

「だって、今、『おばけとか、幽霊ってああいう所に出るんだよ。』って、おっしゃったし、『出たら怖いんじゃないか。』とも言われましたよね。」

それで、私が、

「そりゃあ、そう言ったけど、おもしろがってそう言っただけで……。」

と言いかけると、担当編集者は、ここが勝機とばかりに、

「ね? ほら、おもしろがれるってことですよ。しかも怖い! でも、怖いものでも、それに対処できる知識があれば、だいじょうぶ。そういう知識や、防衛のハウツーを教えるのが図鑑の役割でもあるわけです。ほら、きのこの図鑑なんかに、毒きのこの見わけかたなんか載ってるじゃないですか。」

と言い、あっけにとられている私に、勝ち誇った顔でいいはなちました。

「あれですよ、あれ! あれ、やりましょ、おばけで。最初は、山とか海とかから攻めて、うまくいったら、ほかの場所のもやって。だって、ほら、路地の暗がりに出るおばけがいるんでしょ。」

「えーっ? なに、それ……。」

とつぶやいたものの、わたしは、

「なに、それ……。」

のあと、

〈……って、おもしろいかも……。

と思いはじめていたのです。
それが「おばけずかんシリーズ」の発芽の瞬間です。

そんなわけで、シリーズがはじまることになったのですが、7月刊行の『がっこうのおばけずかん げたげたばこ』で、32巻目になります。

これはなんと言っても、うなぎ屋さんからの帰り道に、

「じゃあ、どうです? おばけの図鑑なんて?」

と臆面もなく言った担当編集者ほか、出版関係の皆様、書籍販売流通関係の皆様、なにより応援してくださる読者の皆様のおかげであります。

また、このたび、山崎貴監督の映画、「ゴーストブック おばけずかん」にも、ちょっとせりふのある校長先生役で出してもらい、まことにもって、うれしいかぎりであります。

皆様、どうもありがとうございます。今後とも、「おばけずかんシリーズ」をよろしくお願いいたします。

斉藤 洋

こうして、うなぎ屋さんの帰り道で誕生した「おばけずかん」は、ベストセラー童話に成長。
7月22日から実写映画も大ヒット公開中だ。

おばけずかんを手に入れる子どもたちに抜擢されたのは、城桧吏を始めとしたオーディションで選ばれた運命の子どもたち。子どもたちと一緒に冒険をする先生役を新垣結衣、物語の鍵を握る謎の人物を神木隆之介が演じている。
日本を代表する映画監督・山崎貴の手によって、大人にも楽しめる作品に仕上がった。

さらに、本人のエッセイにもあったように、原作者の斉藤洋が校長先生を演じている。はたしてあなたは、作品の中にその姿を見つけることができるだろうか……? 

斉藤洋(「おばけずかん」シリーズ原作者)
この記事の画像をもっと見る(全4枚)
さいとう ひろし

斉藤 洋

作家

1952年、東京都生まれ。幼年童話に「ペンギン」シリーズ、「おばけずかん」シリーズ、児童文学に「ルドルフとイッパイアッテナ」シリーズなど多数。

1952年、東京都生まれ。幼年童話に「ペンギン」シリーズ、「おばけずかん」シリーズ、児童文学に「ルドルフとイッパイアッテナ」シリーズなど多数。