【子どものチック症状】睡眠不足、ゲームのやりすぎ、「やめなさい!」はNG 様子見より早期介入を

子どものチック症・トゥレット症#2「家庭での対応と治療法」

小児神経科医、瀬川記念小児神経学クリニック理事長:星野 恭子

「チックは、親の怒りすぎが原因で発症することはないけれど、親が褒めることは治る近道かもしれません」と小児神経科医の星野恭子先生。  イメージ写真:アフロ
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本人の意思とは関係なく、まばたきが増える、肩をすくめる、風邪ではないのに咳払いをする、フンフン言う……。一過性のものを含めれば、子どもの約5人に1人になんらかの症状があるかもしれないという「チック症」。

子どもに珍しくない症状のため、「様子を見る」という家庭も多々ある中で、「チック症は早期介入が大切」と瀬川記念小児神経学クリニック理事長で小児神経科医の星野恭子先生は訴えます。

今回は受診の目安や実際の治療、家庭でできることなどについて、引き続き星野先生に伺います。

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星野 恭子(ほしのきょうこ)PROFILE
瀬川記念小児神経学クリニック理事長。日本小児科学会専門医。日本小児神経学会専門医。医学博士。社会と共に子どもの睡眠を守る会発起人。2021年「日本医師会赤ひげ大賞赤ひげ功労賞」受賞。

20年以上、チック症を診ている小児神経科医で瀬川記念小児神経学クリニック理事長の星野恭子先生。  写真提供:星野 恭子

家庭では【褒める・早寝早起き・ゲーム制限】

子どもに「チックかもしれない」という症状が出たときに、皆さんはどうしますか。ただ様子を見るだけではなく、「まず日常生活を見直してほしい」と星野恭子先生は話します。

①子どもを褒める
「お子さんのこと、褒めていますか? 発症の原因は生まれつきの脳の仕組みによるものと考えられているため、ストレスや心の病、育て方の問題ではありません。とはいっても、たくさん褒めてあげると気持ちが安定するので、良い方向へ向かうはずです。チックが出たときには、『ゆっくり、深呼吸しようね』という言葉がけもいいでしょう」

②生活を見直す
「早寝、早起きを心がけてください。チックの原因である脳は、睡眠のリズムや質に深く関わっています。生活が不規則だと自律神経系も不安定となり、悪い影響を与えます。未就学児も小学生も21時には寝られるように、生活リズムを工夫しましょう」

③ゲームはルールを決める
「ゲームのやりすぎはチックを増悪させることがわかっています。ストレスは発症の原因にはなりませんが、誘因にはなります。そのため本人にストレスをかけないよう、ゲームなど好きなことを好きなだけさせる親御さんもいますが、その対応は不適切と言えます。絶対禁止ではありませんが、過剰にやりすぎないよう親御さんと本人でルールを決めてください」

チック症の症状は数ヵ月続いたのち、いつの間にか消えるというケースが多いといいます。では病院へ行く目安とは?

「日常生活に支障が出るような頻度や強さ、また音声チックが出てきたら受診をすすめます」(星野先生)

まずは小児科へ相談し、病状次第で小児神経科に紹介してもらうという流れが一般的といえるでしょう。

早期介入で成人まで症状を持ち越さない

1年以上続く慢性チックで、顔・体の動きがある運動チックと、発声や言語による音声チックの両者が1年以上続く場合「トゥレット症」となるケースもあります。

「それらの一般的な経過としては、幼児期から小学校低学年ごろからまばたきなどの単純運動チックが始まり、咳払い、鼻を鳴らすなどの単純音声チックが表れ、飛び跳ねたり体を叩くなどの複雑運動チック、『ばか』『しね』などの汚言症がある複雑音声チックが出てきます。

1つ消えるとまた違うチックが出たりと症状は固定せず、強くなったり弱くなったりしながら小学校高学年から中学2~3年生ごろにピークを迎えます。治療をしている子どもは、思春期を越えたころに改善していくケースが多いですね。

チック症・トゥレット症は成人まで持ち越してしまうと改善しにくい疾患です。ですから単純チックのうちに手を打つことが重要。早期に治療をすれば、経験上、多くの子どもに改善が見られています」(星野先生)

治療は、ドパミン(dopamine)の働きを調整する薬物療法とあわせて、近年では包括的行動的介入「CBIT(シービット)」なども取り入れられています。

「欧米では第1選択として広く普及している『CBIT』ですが、当院では、自身もトゥレット症である木田哲郎氏がCBITをベースに改良・開発した『キダメソッド』を取り入れています。

これは、チックをする前に起こる『ムズムズする』などの感覚に気づき、『チックをしたい』という衝動が下がるまで、深呼吸しながら拮抗(きっこう)する動作を継続するというもの。

チックを出したいという衝動を抑え込み、その衝動を減らしていくことでチックが出にくくなるようにしていくという行動療法です。当院では、ほぼ完全に症状が消失した事例もあります。まだ行っている施設が少ないのですが、今後、注目すべき治療法です」(星野先生)

また、「鼻呼吸法」も重要だと星野先生は続けます。

「チックは精神的緊張が高いと起こりやすい面もあるため、鼻呼吸によって交感神経の緊張を下げ、副交感神経を活性化させて落ち着いた状態にしていきます。幼児からもできるので、時間を見つけて、一日3回を目安にやってみてください」(星野先生)

鼻呼吸法のやり方

①しっかり口を閉じる

②鼻でゆっくり呼吸する
5秒(3秒でもOK)吸う→2秒そのまま→10秒(短くてもOK)ゆっくり吐く

③上記を2分間続ける

イライラしても𠮟らない 否定しない

子どもにチックの症状が出ていると、親は不安に思うかもしれません。「やめなさい!」と𠮟ってしまう場合もあるでしょう。また、「アッ」「ンンン」など突発的に大きな声を出したり、鼻をすする、咳払いをするなどの音声チックは、「気になる」「イライラしてしまう」という親の声も聞かれます。

「『うるさい』『やめなさい』と𠮟っても、勝手に出てしまうものなので本人にはどうすることもできません。とりわけ音声チックは、正直、親御さんも大変だと思います。だからこそ治療をしてほしいんです。

以前、父親の前でだけ絶叫するという男の子がいましたが、実は、声を出すたびにお父さんがつねっていることがわかりました。その子は、お父さんが近づくだけで緊張が高まり、声を出すようになってしまったんです。

親御さんのネガティブな対応によって、子どもは『チックをやめなければいけない』と思います。子どもがそう思えば思うほど、不安や緊張が高まって、チックは増悪していきます。まさに悪循環です。親御さんも不安だけど、症状が出ている子どもはもっと不安です。ちゃんと治療をして、治していきましょう」(星野先生)

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本人を追い詰めることがないように、周囲がチック症・トゥレット症を正しく理解することは大切です。子どもを褒めているか、生活リズムは乱れていないか、ゲームはやりすぎていないか……まずは生活を見直すこと。これは、治療をしていても大切なポイントとなるでしょう。

また、子ども自身が「恥ずかしい」「友達にからかわれる」など、症状のために気にしていることがあるかどうかも気をつけて見ていきたいところです。

次回は、「うんこ」や「しね」、卑猥な言葉などを発してしまうというトゥレット症の一つである「汚言症」について、引き続き星野先生に伺っていきます。

取材・文/稲葉美映子

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ほしの きょうこ

星野 恭子

Kyoko Hoshino
小児神経科医、瀬川記念小児神経学クリニック理事長

瀬川小児神経学研究所所長。日本小児科学会専門医。日本小児神経学会専門医。医学博士。関東の病院、早稲田大学にて時計遺伝子研究、南和歌山医療センターなどを経て2017年より現職。チック症、トゥレット症候群などに関する豊富な臨床経験を持つ。 また、子どもの睡眠の大切さを啓発する「社会と共に子どもの睡眠を守る会」を開設するなど幅広い活動が評価され、2021年に「日本医師会赤ひげ大賞赤ひげ功労賞」受賞。著書に『チック・トゥレット症の子どもたち』(合同出版)。 ●瀬川記念小児神経学クリニック

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瀬川小児神経学研究所所長。日本小児科学会専門医。日本小児神経学会専門医。医学博士。関東の病院、早稲田大学にて時計遺伝子研究、南和歌山医療センターなどを経て2017年より現職。チック症、トゥレット症候群などに関する豊富な臨床経験を持つ。 また、子どもの睡眠の大切さを啓発する「社会と共に子どもの睡眠を守る会」を開設するなど幅広い活動が評価され、2021年に「日本医師会赤ひげ大賞赤ひげ功労賞」受賞。著書に『チック・トゥレット症の子どもたち』(合同出版)。 ●瀬川記念小児神経学クリニック

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。