「グループLINEから抜けられない」悩みどうする? 精神保健師・鴻巣麻里香さんインタビュー

親子で考える「バウンダリー」②SNS・ネットの向き合い方

永見 薫

SNSとバウンダリーの関係

SNSやスマートフォンとの付き合い方は、大人でも本当に難しいもの。

鴻巣さんは「オンライン上のコミュニケーションで子どもが苦しめられている状況は、『バウンダリー(心の境界線)の侵害』にあたります」と説明してくれました。

ネット上で、「いつでもどこでも」コミュニケーションを取ることのできる現代社会。家に帰っても、おかまいなしに通知が届きます。

このように、SNSなどを通じて、社会・集団から離れて一人になれるはずの家や部屋の中にまで「外のつながり」が踏み込んでくる環境は、自分と外界を区別する「バウンダリー」が保たれていない状態なのです。

「今の大人が子どものころは、SNSやスマートフォン、携帯電話が未発達でしたよね。だからこうした問題は起きませんでした。おうちに帰れば、学校や友達とはいったん切り離されて、自分一人ですごす時間ができる。こうやって、子ども同士の関係にもある程度バウンダリーは引かれていたのです」

「もちろん、昔も『家で友達と長電話する』などのコミュニケーションはありましたが、それも限定的なものでしたよね。しかし今は、SNSなどをとおして、家の中にいても、学校や外での人間関係が、常に、そして不用意に入ってきます」

「今の子どもたちの生活は、家・部屋というパーソナルな空間で、自分だけのために持つはずの時間に、外の関係が割り込んでくる状態なのです」

親世代が経験してこなかった困難さに、令和の子どもたちは直面しています。

鴻巣さんは「大人である私たちの子ども時代と違い、今の子どもたちは『ほぼプライバシーがない状態におかれている』ということを理解するのが大切」と話します。

▲SNSなどを通じて、常に外の世界と繫がっている生活は、ほぼプライバシーがない状態。それはバウンダリーが侵害されている状況だと解説する鴻巣さん。
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「家に一人でいるのに、友達とのグループLINEがポンポン通知されている。その状況を大人が理解して、『線引き』をする必要があります。たとえ子どもたちにとって、その状況が当たり前になってしまっていたとしてもです」

「というのも、そういう状況を当然として続けていると、やがて自分のバウンダリーがあいまいになってしまうからです。プライバシーがないということは、バウンダリーが侵害されているということ。この状況を、大人がはっきりと理解し、子どもにもきちんと説明し、バウンダリーを引き直す必要があります」

「インスタライブやストーリーズでの発信なども、気をつけたいポイントです。一人でいても、SNSを通じて、わざわざ外に向かって発信する。それって、一人だけれどもひとりじゃない、という状況ですよね」

「大人の見えないところで『子どものプライベートな時間』が、常に、外とのつながりのために消費されている。こういう状況を放っておくと、逸脱的な行動が起きやすくなり、トラブルに発展する場合もあります」

「たとえば、SNS上での発信から、住んでいる場所、誰といるのか、どこにいるのかなどの個人情報が流出しやすいのも問題です」

「トラブルが起きた時ときや、危険なことが起きたときにはじめて対処するのではなく、こうしたリスクがあることを、まずは大人がよく理解した上で、子どもに教え、線引きする必要があります」

大人の責任・悩みへの寄り添い方

こうした問題は、子どもたちだけでなく、社会や大人の問題でもあります。

「スマートフォンなどのツールを買い与えるのは大人です。大人が承認して、それらを家に持ち込んだ時点で、その子のプライバシーの境界線(バウンダリー)が揺らぐ。そのことを、大人はきちんと自覚をしておきましょう」

「そういった理解も説明も無いままに買い与えたとして、いざ大きなトラブルが起きたときには子どもを責めたり𠮟ったりする、それは無責任なことです」

「子どもからすれば、スマホやSNSがバウンダリーに与えるリスクを事前に説明されることなく、困ったことが起きたときにいきなり責められたら納得いかないですよね。『もっとちゃんと知っていれば、違ったのかもしれないのに』と思うわけです」


スマートフォンやSNSに関しては、他のコミュニケーションと異なり「自分で決めて選ぶ」が通用しないものだと鴻巣さんは説明します。それって、どういうことでしょうか?

「“スマホを見なければいい”、“SNSをやめればいい”と単純に済む問題ではないのです。ネット上のコミュニケーションをめぐる仕組みは、ユーザーの興味や関心を常に惹きつけるようなシステムで出来ていますよね。『もうやめなければ』とわかっているのに、ついのめり込んで画面を見続けてしまう、ということもよく起きるわけです」

「大人でさえ、それらと適切な距離を取ることは難しい。子どもなら尚更です。ですから、上手に距離をとるために、子どもにとって負荷の少ない、心地よいポジションを探す手伝い・ルール作りを、大人が率先して行ってほしいです」


鴻巣さんは、子どもたちに対して「自身のプライバシーを守る大切さ」を伝える活動もしています。

「講演会で『いつも誰かとつながり続けるのではなく、おうちで一人の時間を大事にするのは必要なこと』と、子どもたちに伝えています」

「今の時代、スマホを持っていれば、ニュースやSNSで発信される情報や人とのつながりが絶えません。実はそのことを『苦しい』と感じていないだろうか? と自分の気持ちを確認することが大事。ときにはスマホから距離を置いて、一人で過ごす時間を作るよう、意識することが必要です」


「ですから、子どもたちには『大人になったときに、一人で過ごす時間をちゃんと自分のために使える人になってほしいな。それが心の健康を支えてくれるんだよ』と訴えています」

「すると、『やっぱり一人の時間を大事にしたいと思います』、『自分にとって大事にしたかった時間やものが何か、ということに気づけました』など、ポジティブな反応が返ってくるんです。子どもたちは、自分の時間に他者が介入してきていることに、無意識のうちに疲れや苦しみを感じているのだと思います」

「大人は、『子どもが一人の時間を得ることができなくて、苦しんでいるかもしれない』と想像し、子どもたちをケアしてあげてほしいです。また、子どもだけでなく大人自身も、SNSやスマホとの向き合い方を意識して、自分のプライバシーが守られる時間を大切にしてほしいですね」

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「バウンダリー」について鴻巣麻里香さんに伺う連載は全3回。「心を守るバウンダリーの重要性」について伺った第1回に続き、今回の第2回では、「インターネットを通して常に他者や外の世界と繋がっている状況がバウンダリーに影響を与えていること」を解説いただきつつ、「大人自身がSNSやスマホとの向き合い方を理解し、そのリ適切な距離を子どもに伝えるのが大切」だと教えていただきました。

次回の、連載最後となる第3回では、性的同意の重要性、デートDVなど、深刻なバウンダリー侵害の問題について解説します。

撮影/安田光優

わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方(著:鴻巣麻里香 リトル・モア刊)
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こうのす まりか

鴻巣 麻里香

Marika Kohnosu
精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー

KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。 1979年生まれ。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著作に『思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題』(2023年、平凡社)、共編著に『ソーシャルアクション! あなたが社会を変えよう!』(2019年、ミネルヴァ書房)、『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(リトル・モア)がある。

KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。 1979年生まれ。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著作に『思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題』(2023年、平凡社)、共編著に『ソーシャルアクション! あなたが社会を変えよう!』(2019年、ミネルヴァ書房)、『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(リトル・モア)がある。

ながみ かおる

永見 薫

Kaoru Nagami
ライター

複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm

複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm