0歳児の食物アレルギー予防は「生後6ヵ月から少しずつ摂取」を専門医が推奨

アレルギー専門医・岡本光宏先生「子どもの食物アレルギー最新事情」#2〜0歳からの食物アレルギー〜

兵庫県立丹波医療センター小児科医長・アレルギー専門医:岡本 光宏

「うちの子、もしかしたら食物アレルギーかもしれない」と思うと、つい食べさせるのを控えてしまうこともあります。  写真:アフロ
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人は生まれた時から食物アレルギーと無縁ではありません。親として、アレルギー症状に苦しむ赤ん坊の姿を見るのはとても辛いものです。

しかし、子どもの食物アレルギーを恐れるあまり、安全だとわかっている食材だけを食べさせていると、かえって食物アレルギーの発症リスクを高めてしまう可能性があることをご存知でしょうか。

子どもの食物アレルギーの最新事情を紹介する本連載。第2回では、0歳から3歳までの乳幼児における、アレルギー検査・対応の現状や予防法をお伝えします。引き続き、兵庫県立丹波医療センター・小児科医長でアレルギー専門医の岡本光宏医師に伺いました。

※#1を読む

食物アレルギーがもっとも判明しやすいのは0歳

「食物アレルギーがもっとも判明しやすい年齢は0歳です」と岡本先生は言います。いったいどういうことでしょうか。

「食物アレルギーの多くは、その食物を初めて食べたとき、または食べる量を増やしているときに発症します。0歳の時に食物アレルギーが見つかりやすいのは、『離乳食でさまざまな食品を初めて口にする機会が多い=食物アレルギーを発症する機会が多い』からです。

一方、小学校の高学年や中学生くらいから発症する食物アレルギーもあります。たとえば『今までリンゴを食べられていたのに久しぶりに食べたら口がかゆくなった』などといったケースです。

代表的な食材は、先に挙げたリンゴやモモなどの果物に加え、トマトやセロリなどの野菜も含まれます。これらは花粉症を発症している人によく見られるため、『花粉-食物アレルギー症候群』とも呼ばれます」(岡本先生)

食物アレルギーの り患に影響する『念のため除去』

近年、子どもの食物アレルギーの、り患率に変化が見られる、と岡本先生は言います。

「じつは、3歳までの食物アレルギーの、り患率が低下しているのです。

東京都健康安全研究センターが令和2年に行った『アレルギー疾患に関する3歳児全都調査』のグラフによると、2014年度(平成26年度)には17.1%だった食物アレルギーの、り患率が、2019年度(令和元年度)には14.9%まで下がっていることがわかります」(岡本先生)

各アレルギー疾患のり患状況の推移(3歳までにアレルギー疾患と診断された児の割合)。  出典:東京都健康安全研究センター「アレルギー疾患に関する3歳児全都調査(概要版)」

3歳までの食物アレルギー疾患の、り患率低下には、どのような背景があるのでしょうか。

「詳しくは後で述べますが、国内外のさまざまな検証結果から、食物アレルギーの常識が変わっていることが関係していると考えられます。

食物アレルギーの、り患率低下を説明する前に、まずは増加した時期とその背景についてお話しします。

先ほど紹介したグラフの2004年度(平成16年度)から2014年度(平成26年度)にかけての食物アレルギーの、り患率は14.4%から17.1%に増えています。

この増加の背景として、私は、不適切な食物除去、いわゆる『念のため除去』が関係していると考えています。

食物アレルギーの診断のためには、問診や血液検査を行うことが一般的です。最近では、あらかじめ子どもの食物アレルギーを知っておきたいと、検査を受ける保護者が増えてきました。

しかし、明確なアレルギー症状が出ていない場合や問診で聞いた内容が不明確な場合など、問診や血液検査だけでは食物アレルギーを特定できないケースもあるのです。

アレルギーの診断は厳密には『食物経口負荷試験(※1)』によって判断することができますが、実際にその試験を実施できる医師は限られています。

医療現場では、問診や血液検査だけではアレルギーと診断できないケースもあることから、医師が『アレルギーかもしれないから、食べさせるのをやめておきましょう』と結論づけることが度々あります。これが『念のため除去』と呼ばれるものです。

また、アレルギーが疑われる食品の摂取を、保護者の判断で『念のため除去』するケースもあります。『食物アレルギーが怖いので、念のため卵を食べさせていませんでした』という親御さんには、私もアレルギー外来でよく遭遇しました」(岡本先生)
※1=食物経口負荷試験

『念のため除去』がむしろアレルギーを引き起こす?

この「念のため除去」は、アメリカでも行われていた方法です。しかし、驚くべき結果を引き起こしていました。

「2000年にアメリカ小児科学会が『ピーナッツはアレルギーの危険性があるから3歳まではやめておきましょう』という指針を出しました。

ところが、この8年後にピーナッツアレルギーが2倍に増える事態になったのです。これは離乳食期に念のためにピーナッツを除去したことが余計にアレルギーを引き起こしていたのではないかと推測されました」(岡本先生)

この推測が正しいと裏付けられたのが、2015年にアメリカで行われた『LEAP(リープ)スタディ』という試験です。岡本先生が解説します。

「このテストでは、ピーナッツアレルギーを発症していない生後4〜11ヵ月の乳児に対し、少量のピーナッツの経口摂取を行い、その後のアレルギーの発症の有無を調べました。

すると生後11ヵ月までにピーナッツを食べることでむしろアレルギーのリスクが5分の1になることがわかったのです。

しかも、これはピーナッツに限ったことではありませんでした。2017年に日本の国立成育医療研究センターが発表した研究『PETIT(プチ)スタディ』では、生後6ヵ月から卵を少量食べていくことで、卵アレルギーの発症リスクが4分の1になることが示されました。

こうした研究調査の成果からアレルギー医療の現場では、離乳食初期から卵や乳、小麦を少しずつ摂取させるようになってきています。

厚生労働省が2019年に発行した『授乳・離乳の支援ガイド』でも、生後5〜6ヵ月ごろから固ゆでした卵黄を食べ始めるとよいと記載されています。

このように、食物アレルギーの常識が変わったことでアレルゲンとなる食材との向き合い方が見直された結果、近年の食物アレルギー発症率の低下につながっていると考えられます」(岡本先生)

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