抜け毛の原因はホルモンバランスの変化
──なぜ、産後に髪が抜けてしまうのでしょうか。
富坂先生 おもな原因は、女性ホルモンの分泌量の変化です。妊娠中は女性ホルモンの分泌が盛んで、髪の成長を促すホルモン「エストロゲン」(※2)、髪の寿命を延ばすホルモン「プロゲステロン」(※3)のどちらも強く作用します。
すると、髪が生え変わるサイクル「毛周期」が長くなるため、本来自然に抜け落ちるはずの髪が抜けにくい状態に。それが、産後は分泌量が一気に減少して元に戻るので、どうしても脱毛が起きてしまうのです。
さらに、生活環境の変化も原因のひとつと考えられています。慣れない育児による疲れやストレス、夜間の授乳や赤ちゃんの夜泣きによる睡眠不足、授乳中で栄養が必要なのにもかかわらず、食事が十分にとれていないなども、髪や頭皮の状態を悪化させてしまいます。
脱毛がホルモンバランスの変化だけによるものなら、1年ぐらいで元に戻る方が多いですね。
──髪が抜ける以外にも「新しく生えてきた毛がすべて白髪だった」「直毛だったのにクセ毛になってしまった」などという声も聞きます。これも、1年程度で戻るのでしょうか。
富坂先生 白髪やクセ毛になった要因に育児の疲れやストレス、睡眠不足が含まれていると何とも言えないのですが、ホルモン分泌量の低下によるものなら一過性のことも多いです。私が患者さんを診ている限りの個人的な見解ですと、白髪は黒髪に戻っている方も多い印象ですね。
ただ、脱毛は1年以上同じ状態が続くようでしたら、注意したいところです。自分では産後脱毛症だと思っていたけれど、実は円形脱毛症だったケースもありますし、ほかの何らかの病気が潜んでいることも。
人によっては、たんぱく質やビタミンB群、亜鉛などの栄養が足りていないことも考えられます。後編でもお話ししますが、ほかの要因が絡んでいる可能性も考えて、一度病院へ相談に行くのがよいと思います。
妊娠中に育児のサポート体制を整えておくのも手
──産後の一時的なこととはいえ、できるだけ抜け毛は減らしたいものですが、妊娠中にできる予防策はあるでしょうか。
富坂先生 たんぱく質、ビタミンB群、亜鉛は、髪に必要な栄養素です。バランスのいい食生活を心掛けて、この3つをしっかりとっておくのが大事ですね。
あとは、抜け毛の原因にもなる育児中の疲れ・ストレスをどれだけ軽減できるか。体の疲れはもちろん、メンタルヘルスは髪や頭皮の状態に影響しますし、過大なストレスがかかると、ほかの病気を発症することもあります。
産後、少しでもママ自身が自分のケアに費やせる時間を取るのは、とても重要です。できるだけママの負担を減らせるように、パパや周りの家族がどうサポートしていくか、妊娠中に話し合っておけるといいですね。
特に最近は、高齢出産や不妊治療を経ての出産も増えていて“出産がゴール”になっていることも多く、妊娠中に産後のイメージができている方は意外と少ないかもしれません。
そうすると、産後、想定していなかったことがたくさん起きてしまい、一気にストレスを抱えることになります。出産前に育児のサポート体制を整え、忙しい中でも自分の時間をどうやって作るか計画しておくことが、髪のためにも大事ではないでしょうか。
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後編も引き続き、富坂先生に「産後脱毛症」について伺います。
取材・文/星野早百合
【脚注】
※1=「シャンプーのたびごっそり」意外と多い「産後の抜け毛」割合は? 驚愕のエピソードとは?(ベビーカレンダー)
※2「エストロゲン」=女性らしい体をつくるホルモン。肌や髪を健やかに保つ役割もある
※3「プロゲステロン」=基礎体温を上げるなど、妊娠しやすい状態をつくるホルモン。髪が成長する時期を維持し、髪の寿命を延ばす働きがある
星野 早百合
編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。
編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。
富坂 美織
産婦人科医、医学博士。順天堂大学医学部卒業、東京大学医学部研修医、愛育病院産婦人科医を経て、ハーバード大学大学院へ留学。卒業後は、マッキンゼーにてコンサルティング業務に携わる。 現在は不妊治療が専門で「さくらウィメンズクリニック」に勤務するほか、順天堂大学医学部産婦人科教室非常勤講師、テレビや雑誌などの幅広いメディアでも活躍。 著書に『「2人」で知っておきたい 妊娠・出産・不妊のリアル』(ダイヤモンド社)など。 ●富坂美織 オフィシャルサイト ●Twitter @mioritomi
産婦人科医、医学博士。順天堂大学医学部卒業、東京大学医学部研修医、愛育病院産婦人科医を経て、ハーバード大学大学院へ留学。卒業後は、マッキンゼーにてコンサルティング業務に携わる。 現在は不妊治療が専門で「さくらウィメンズクリニック」に勤務するほか、順天堂大学医学部産婦人科教室非常勤講師、テレビや雑誌などの幅広いメディアでも活躍。 著書に『「2人」で知っておきたい 妊娠・出産・不妊のリアル』(ダイヤモンド社)など。 ●富坂美織 オフィシャルサイト ●Twitter @mioritomi