「勉強の価値がわからない」という親 貧困の連鎖を断ち切る無料塾の挑戦

子どもの居場所 ルポルタージュ #3‐3 東京都『日野すみれ塾』

ジャーナリスト:なかの かおり

学校との連携が課題

「日野すみれ塾」は、卒業した子も立ち寄れて、勉強はもちろん、食事のサポートもあり、コロナ禍でも続けられていて、理想的な居場所に見えます。これからは、どんな課題があるのでしょうか。

「学校との連携が必要だと思います。学校でチラシを渡したいけれど、NGだと言われていて……。そうすると、口コミに頼る以外、ありません。口コミで来るのは、意識が高く教育に関心がある家庭です。

でも、自分から情報を取りにいけない、忙しくて調べることができない人たちにこそ、届けたい。子どもが健やかに生きるためのサポートの情報は、平等であるべきだと思っています。あとから『無料塾をもっと早く知っていれば……』という声を聞くのは心が痛いです」(仁藤さん)

もちろん、「生活に困っていないけれど、無料だから利用したい」という目的の家庭には、利用を断っています。

夏合宿の合間、気分転換に、外遊びも楽しみました。  写真提供:日野すみれ塾

楽しい助け合いの関係を

仁藤さん自身は講師をしていなくて、勉強は教えません。運営、講師、食事作りなど、それぞれの得意なことで、子どもたちを応援し、ボランティアを楽しんでいます。

「裕福なのに、自分は心から幸せと思える大人って、あまり多くないように感じます。満員電車で、疲れた顔をしている人を見ると、疲れない別の生き方でも、いいんじゃないかと思ってしまいます。

塾の日に、2歳の末っ子を預かってくれるボランティアの方がいるんです。『小さい子と遊びたいから』という気持ちから預かってくれるのですが、本当にやりたくてやることは、幸せや喜びの質が大きく変わってくると思うんです」(仁藤さん)

仁藤さんは、「お金が稼げなくても、人とのつながりがある」と表現します。確かに、「日野すみれ塾」では、お金では買えない、心豊かな関係があります。

「私が以前、体調を崩したときに生徒のお母さんたちが、おかずを作って、順番に持ってきてくれました。ふだん、お世話になっているからって。

今後はすみれ塾を拡大するより、他に無料塾をやりたいという人が出てきたら、嬉しいですね。こんな幸せな人間関係や、助け合いの文化が、自然に増えていったらいいなと思っています」(仁藤さん)

食事の支度をする、ボランティアスタッフのみなさん。  写真提供:日野すみれ塾

食事と学習支援で最強の居場所に

筆者は子育てのさまざまな段階で、「つながりの貧困」を感じることがあります。わが家より、もっと大変な状況の家庭が多くあるのは自覚していますが……。

産後は近くに頼れる身内がなく、助成を利用してシッターさんを探し、試行錯誤。会社に復職したら、子どもの病気の多さに有給休暇を使い果たし、職場に居づらくなりました。

保育園は、手作りの食事や季節の行事、長時間の預かりが、ありがたかった。でも小学校に入ると、今度は放課後の居場所に悩む「小1の壁」に直面。

それでも地域のスポーツ活動を通して、つながりができたころ、コロナ禍に。特に休校中は、学びと食事のケアを模索しました。安定した居場所は、いまだに見つかりません。

今回、取材した「日野すみれ塾」のように、「学習+食事」のサポートがある居場所は、子どもはもちろん、親にとっても最強だと思いました。

ちなみに、名前となっている「すみれ」は、「smile」からとりました。5周年感謝祭で出会った、塾に関わる皆さんの、マスク越しの笑顔が浮かんできます。

取材・文/なかのかおり

1回目 密着取材 貧困家庭を救う「無料塾」は勉強だけでなく食事も支援 
2回目 無料塾の代表・3児のママは貧困家庭で育ったヤングケアラーだった

なかのかおり
​ジャーナリスト。早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。
主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』(デザインエッグ社)が2022年10月22日発売。

なかのかおりさん最新『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』(デザインエッグ社)が2022年10月22日発売。
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なかの かおり

ジャーナリスト

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki