ランドセルで防災 登下校中の子どもを「地震・水難・事故」から守れ! 小学生に覚えてほしい「使い方」

子どもを守る“ランドセル防災”#1 ~ランドセルでの身の守り方編~

ライター:遠藤 るりこ

頑丈ながら水に浮くランドセルは救命具にもなります。ピンチ時にどう使うか、子どもと練習しておきましょう。  写真提供:株式会社村瀬鞄行
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2011年3月11日に発生した、東日本大震災から今年(2024年)で13年。現在の小学生はみな震災後に誕生した子どもたちとなり、当時の様子を知らない世代です。

今年1月1日に発生した能登半島地震も記憶に新しく、私たちは改めてたくさんの備えをし、子どもたちに命の守り方を伝えていかなければならないと強く感じます。

東日本大震災以降は、小学校でもさまざまな防災教育が行われています。一方で、家でも学校でもない、登下校中はどう身を守るのか。実は、子どもたちにもっとも身近な存在であるランドセルが、いざというときの味方になってくれるのです。

全国ランドセルメーカーが集い、正しい知識を発信する「ランドセルくらぶ研究室」の運営元・一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会に、災害や事故から身を守る、ランドセルの正しい使い方を聞きました。

※1回目/全2回

ランドセルの起源は軍用鞄

ランドセルが1887年に誕生してから、今年で137年目。日本の伝統的な文化であるランドセルの知識や使い方を正しく伝えていこうと、2024年1月に発足したのが「ランドセルくらぶ研究室」です。

運営するのは、全国約35以上のランドセルメーカーと問屋が集まった、一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会。同会会員の村瀬靖人(むらせ・やすひと)さんは、ランドセルの由来を語ります。

「ランドセルはもともと、軍人が背負う袋の背囊(はいのう)をアレンジした鞄でした。子どもたちの体力を付けるためと、自分のものは自分で持つ習慣が教育として広がり、当時の内閣総理大臣である伊藤博文が、後の大正天皇(当時の皇太子)が学習院初等科へ入学するお祝いとして、革製で箱形の鞄を献上したものがランドセルの原型です」(村瀬さん)

その形や素材の特性から、中のものを守るという構造であるのはもちろん、「背負っている子どもたちの身を守る存在でもある」と、村瀬さん。

「私たち工業会のもとへは、年間数件、ランドセルが子どもたちを守ってくれたというエピソードが届きます。『転倒時、ランドセルがクッションになって頭を打つことがなかった』、『交通事故に遭ったけれど、ランドセルを背負っていたので軽傷で済んだ』という話は多いですね。丈夫な素材と箱型の形状が、いざというときに子どもたちの身を守ってくれるのでしょう」(村瀬さん)

人気ランドセルメーカーの開発者などが、ラン活先生として出演する公式YouTubeチャンネル「ランドセルくらぶ研究室」。写真左がむらっち先生こと、村瀬靖人さん。  写真提供:ランドセルくらぶ研究室

従来のランドセルが使い続けられる理由

近年、教材など荷物の重さが問題となり、軽量化が叫ばれるランドセル。ナイロン素材や、リュック型の軽いものも続々と登場していますが、大切なのは子どもの負担を軽減することです。

「子どもたちのことを考え、軽量化や多機能化が進んでいるのは良いことだと思います。しかし、ランドセルはやはり丈夫でないと意味がないんですね。

厚みや重さがあるからこそ、子どもたちを守れる。ランドセルには、子どもたちが安定した体幹を保つことができる技術が詰まっているんです」(村瀬さん)

では、登下校時に地震が発生したら、ランドセルを使ってどう身を守るのでしょう。

「登下校時、小学生のそばにあるのはランドセルだけという状況も大いにありえます。そんなときは、『防災頭巾やヘルメットの代わりに、ランドセルが使えるんだよ』と子どもたちに教えてください」(村瀬さん)

地震発生時、ランドセルを使った身の守り方は2つ。

まずは、カブセ(ランドセルのふたの部分)を開け、身をかがめて頭にかぶせるという方法。とっさに頭を守ることができます。

片手を後ろに回してランドセルを背負ったまま錠前を外し、カブセを前に持ってきて、身をかがめる。友人がいたら協力しあってもいい。  写真:遠藤るりこ
「上から降ってくるガレキなどから身を守りつつ、移動することもある。そんなときは、ランドセルを背負ったままカブセを頭にかぶせてもいいでしょう」(村瀬さん)  写真:遠藤るりこ

「また、背負っているランドセルをおろして、ランドセル自体を頭の上にのせてかがむのも良い方法でしょう。いずれも、一般的な箱型のランドセルであれば、降り注ぐガラスやガレキから身を守れるはずです」(村瀬さん)

ランドセルをおろし、頭の上に横にしてのせる。丈夫な素材のランドセルであれば、しっかりと頭をカバーしてくれるはず。  写真:遠藤るりこ
「小学校で実践したところ、ランドセルの肩紐に腕をかけて頭に乗せ、横から固定したほうが、安定感があったとのこと。子どもたちにも、実際に試してみてほしいです」(村瀬さん)  写真:遠藤るりこ

災害時、これらの方法を知っているのと知らないのとでは大きな違いでしょう。

「この記事を読んだ今日にでも子どもたちに伝え、自宅で一度実践をしてみてほしいです」(村瀬さん)

ランドセルが水に浮く!?

「ランドセルには教科書がたくさん入っているし、感覚的に水に沈みそうと思われていますが、違うんですよ」と、村瀬さん。

「ランドセルは実は水に浮くんです。近年のものは、軽量化のため補強用の芯材に空気を含む素材を使っている場合が多く、特にです。一方、リュックなどは布やナイロン素材なので、水を含むと重くなり、沈んでしまいます。箱型のランドセルは、使い方によっては水難事故の救命具になることもあります」(村瀬さん)

これは、2023年に行われた日本赤十字社神奈川支部との実験でも実証済み。実際に子どもたちにプールに入ってもらい、ランドセルがどの程度、水に浮くかどうかを試しました。その結果、なんと、ランドセルを抱えていれば大人でもきちんと浮くということが判明!

「ランドセルを背負ったままおぼれた場合には、仰向けで手を広げて浮かんだ状態になって救助を待ちます。また、おぼれている人を見つけたときには、ランドセルを投げ入れてあげる、というのも知っていてほしい」(村瀬さん)

重くなるので教科書は抜いたほうが良いと思われがちですが、入れたままでも大丈夫。水の中でのランドセルは、浮き具代わりになるのです。

ランドセルを背負ったまま水中で実験を行った。どのような体勢を取り、救助を待つのかを子どもたちに伝えている。  写真提供:株式会社村瀬鞄行

1秒の判断が生死を分ける水難事故や水害。「ランドセルが水に浮く」というのは、助ける側も救助を待つ側も知っておきたい知識です。

全国の小学生に知ってもらいたい知識

小学生にとって、もっとも身近なランドセル。しかし、災害時の使い方については、まだまだ知らない人が多いのではないでしょうか。

「近年は、防災教育に熱心な教員の方たちと、ランドセルを使った災害時の対応などのディスカッションを重ねています。東日本大震災後、防災教育は進んできていますが、もっともっと多くの方に、ランドセルを使った身の守り方を知っていただきたい。

ラン活のテーマとしても、デザインや色の多様性、軽さの追求などが前面に出てしまいがちですが、『子どもにとって本当に安心・安全なものであるか』を第一に考え、ランドセル選びをしていただけたらと思っています」(村瀬さん)

ランドセル工業会が定める5つの規定をクリアした、日本鞄協会発行の認証マークがついているとより安心。  写真提供:一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会

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次回は、より防災に特化したランドセルを紹介。水難事故が多い沿岸地域で開発されたさらに水に浮きやすいランドセルや、平時からランドセルに備える防災キットを発売した工房系ブランドへ話を聞きました。

取材・文/遠藤るりこ

●取材協力
一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会「ランドセルくらぶ研究室」

●関連リンク
一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会
ランドセルくらぶ研究室公式HP
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note「ランドセルくらぶ研究室/おしえて!ラン活先生」

※防災ランドセルの記事は全2回(公開日までリンク無効)
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えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe