水深15cmのプールでも子どもは溺れる 水難に備えて子どもと親が覚えておくこと

ため池は危険、プールは安全という誤解 河川・海・ため池・プール「子どもの水難事故」回避マニュアル#3

「ボク、先に行ってるね」が一番危険!

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学校のプールでもレジャープールでも、プールは監視員もいるし、たくさんの人の目もあるので危険は少ないと思う方は多いはずです。しかし、そんな中でも水難は起こります。

「警察庁から発表された水難の概況でみると、2016年~2020年までの間でプールで溺れて亡くなった方は計21名です。そのうち中学生以下の子どもは7名で、その1/3を占めています。

プールの水難は馴染みのある学校プールよりも、レジャープールで起こることが多いのです。行ったことのない、あるいは学校プールよりも遊んだ経験が少ないレジャープールは水の深さがわからないことが災いします。足が底につかない深いプールでの事故は、次のようなケースです。

6歳と2歳の男の子、母親の3人で、何度か行ったことのあるレジャープールへ行きました。男の子たちは母親と一緒に女子更衣室で着替えたのですが、6歳の子はさっさと自分で水着に着替え、弟と母親の着替えが待ちきれなくなりました。

ついに男の子は、母親に『じゃあ、先に行ってるね』といい、母親も『いいよ』と答えたので更衣室を飛び出していきました。

男の子は母親がいない間に、いつもは遊ばせてもらえない50mプールに飛び込みました。50mプールは水深1.3mのため、男の子は足が底につかず、呼吸ができなくて水没してしまったのです。

この事例では、プールサイドを巡回中のベテラン監視員が異変に気づいて救助に入ることができ、最悪の事態を回避できましたが、このように一瞬の隙が事故につながります。

プールでの鉄則は、プールに子どもだけで先に行かせないことと、出るときも子どもより先に親が更衣室に入らないことです。とにかく我が子から離れてはいけません」(斎藤先生)

プールでの事故は、1人でプールサイドに出て、走り飛び込むパターンが多いそう。  写真:アフロ

浅いプールも家庭用プールも安心してはダメ

たとえ水かさがなくても、鼻と口が覆われれば人は溺れてしまうという話はよく耳にします。

「そうです。15cm程度の水深でも、人は容易に溺れます。ですから、水深が浅く、背が立つようなプールでも安心はできません。特に乳幼児の場合は、たくさんの子どもたちが周囲で遊んでいるからといっても、親は子どもから離れてはいけません。

自宅で、家庭用プールで子どもを遊ばせるときも同様です。たとえば、兄弟2人で遊ばせていて『お兄ちゃんがいるから、ちょっとぐらい離れても大丈夫』はもってのほかです。

ちょっとだけという行動が、『こんな浅いプールでどうして……』という事故を招きます」(斎藤先生)

プールでの水難から子どもを守るには、どうすればいいのでしょうか。

「ここは取り違えないでほしいのですが、『子どもから目を離さない』ではなく、『子どもと一緒に遊ぶ』ことが大切です。近くにいても、親がスマホを横目で操作しているなら目を離しているのと同じです。

これが一緒に遊んでいるなら、子どもから目が離せない状況を作ります」(斎藤先生)


斎藤先生はシリーズを通して、水難事故を防ぐには、水辺にはむやみに近づかないことが重要だと何度も繰り返し、親が子どもの行動を管理・監視することも大切だと話します。

しかし、その一方で水辺ではルールを守って遊ぶこと、事故に遭った場合は119番通報と「浮いて待て」を基本にすることも重要だといいます。

連日の猛暑で、大人も子どもも水辺の涼しさが恋しくなっています。遊ぶときは注意すべきことは肝に銘じ、ルールの範囲以内や安全を最優先にすることが家族のいい思い出作りを後押ししてくれるでしょう。


取材・文/梶原知恵

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さいとう ひでとし

斎藤 秀俊

Hidetoshi Saito
長岡技術科学大学教授・工学博士

長岡技術科学大学教授、一般社団法人水難学会会長。工学博士。 「水難は神の領域」と考えられていた水域での事件・事故について、工学、医学、教育学、気象学などのさまざまな観点から検証及び研究を行っている。 テレビや雑誌、Webにて発表される記事やコメントは、風呂から海、水や雪氷まで実験・現場第一主義に徹したものを公開。全国各地で発生する水難事故の調査や水難偽装・業務上過失事件での科学捜査においても多数の実績を誇る。 【主な著書や監修書】 『最新版 ういてまて(水難学会指定指導法準拠テキスト)』(新潟日報事業社)など

長岡技術科学大学教授、一般社団法人水難学会会長。工学博士。 「水難は神の領域」と考えられていた水域での事件・事故について、工学、医学、教育学、気象学などのさまざまな観点から検証及び研究を行っている。 テレビや雑誌、Webにて発表される記事やコメントは、風呂から海、水や雪氷まで実験・現場第一主義に徹したものを公開。全国各地で発生する水難事故の調査や水難偽装・業務上過失事件での科学捜査においても多数の実績を誇る。 【主な著書や監修書】 『最新版 ういてまて(水難学会指定指導法準拠テキスト)』(新潟日報事業社)など

かじわら ちえ

梶原 知恵

KAJIWARA CHIE
企画・編集・ライター

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。