水深15cmのプールでも子どもは溺れる 水難に備えて子どもと親が覚えておくこと
ため池は危険、プールは安全という誤解 河川・海・ため池・プール「子どもの水難事故」回避マニュアル#3
2022.08.15
ため池での事故は以前から発生しており、昔は子どもが家に帰ってこないならまずはため池を探せといわれていたほどです。
現在はため池の周りに柵が設けられた箇所も見受けられるようになりましたが、それなのに事故は毎年起こっています。
子どもにため池の危険性を教える際は、何が重要なのでしょうか。また、万が一の場合に備えて親は何を教えておくべきなのでしょうか。
水辺のトラブルを紹介している本シリーズ最終回は、ため池と夏の身近な水辺のひとつであるプールでの注意事項などについて、水難学会会長・斎藤秀俊先生に伺います。(全3回の3回目、#1、#2を読む)。
■斎藤秀俊先生のプロフィールーーーーーーー
長岡技術科学大学教授、一般社団法人水難学会会長。工学博士。「水難は神の領域」と考えられていた水域での事件・事故について、工学、医学、教育学、気象学などのさまざまな観点から検証及び研究を行っている。テレビや雑誌、Webにて発表される記事やコメントは、風呂から海、水や雪氷まで実験・現場第一主義に徹したものを公開。全国各地で発生する水難事故の調査や水難偽装・業務上過失事件での科学捜査においても多数の実績を誇る。
【主な著書や監修書】
『最新版 ういてまて(水難学会指定指導法準拠テキスト)』(新潟日報事業社)など
ため池は全国各地に15万ヵ所以上もある
子どもの水難事故の多発場所として「ため池」という言葉をよく聞きますが、どのような用途で作られ、日本全国にどのくらい存在しているかご存知でしょうか。
ため池は降水量が少なく、大きな河川に恵まれない地域などで農業用水を確保するために人工的に造成された池のことです。農林水産省によるとその数は全国で15万4000ヵ所も存在し、西日本に多く分布しています。
また、築造年代が「江戸時代以前及び不明」が69%を占めており、近くにある水辺として昔から私たちの生活に密着しているといえます。
「2022年の今年は、4月からため池での子どもの水難事故が立て続けに起きました。
・4月5日 宮城県栗原市にて発生
・4月11日 大阪府枚方市にて発生
・5月10日 青森県弘前市にて発生
このうち宮城県栗原市の事故は典型的なケースです。当時、市内に住む小学生5〜6人のグループで釣りをしていたとのことですが、遊んでいる最中に誤って1人がため池に転落したとみられています。
小学1年生の男の子を助けようと、小学5年生のお兄ちゃんが池に入りました。付近にいた70代の男性が最終的に2人を池から引き上げましたが、小学1年生の男の子は心肺停止の状態で病院に搬送され、その後、死亡が確認されました。
助けに入ったお兄ちゃんと70代の男性には意識があり命に別状はありませんでしたが、低体温状態だったそうです。
水難事故はこのように、助けようとして2人目、3人目の犠牲者が出かねないケースが多いのです」(斎藤先生)
事故に遭わないように、子どもには何を教えればいい?
ため池に柵が設けられている箇所もありますが、壊されていたり、そもそも柵が設置されていないところもまだまだ多くあります。子どもが危険な目に遭わないように、親は子どもに、何をどのように教えればいいのでしょうか。
「河川でも海でも、ため池でも、まずはむやみに近づかないことをお子さんには言い聞かせてください。これが危険を回避する防止策です。
とはいえ、行ってはいけない、入ってはいけないというと、その向こうにきっといいものがあると思って禁止区域に入ってしまう子はいます。
そういう万が一のことを考えると、子どもには119番通報を教えましょう。今はほとんどの子が携帯電話を持っていますし、グループで遊びに行ったなら誰かしら電話を持っているので通報できるはずです。
もし、誰かが水に落ちたなら、大人を呼びに行く時間なんてまったくありません。大人を探している間に、友達が溺れてしまう可能性が高まります。できるだけ早く、大人を待たずに119番通報するように教えましょう。
消防につながったら『助けて!』というだけでも大丈夫です。GPS機能を有効にしていれば、消防で感知して救助隊を向かわせてくれます」(斎藤先生)
もし、我が子がため池に落ちた場合について
「静かに浮いて待つ、それが最善の策です(#2を読む)。ため池の場合、洋服を着て滑落することが多いと思いますが、バタバタと水の中でもがくと洋服の中の空気がどんどん抜けて、服が水を吸って重くなってしまいます。
服で水に落ちたなら、ジタバタせずに浮くことが大切です。子どもの靴は浮くようにできています。ですから、靴を履いていたら脱がないことも教えておきましょう」(斎藤先生)
仮に大人が近くにいた場合、子どもがため池に落ちたら救助のために水に入るはずです。その場合の対処法を斎藤先生はこう話します。
「厳しいことをいうと、簡単に救助できると思ってはいけません。水難は容易に助けられないと思ってください。
大人も水に入ってしまったなら、子どもと一緒に背浮きで浮いて救助を待ちましょう(#2を読む)。子どもには浮いて待てと声をかけてあげてください」(斎藤先生)
ため池では陸が目の前に見えているので這い上がれそうに思えますが、実際は斜面で滑ってしまい、陸に上がるどころか、再び池の中に戻されてしまいます。
ため池には近づかないことが大前提ですが、もし落ちたら119番通報をして、救助を浮いて待つのが正解です。