年間1000人が30代までにがん治療で子宮を失う現実 HPVワクチンで防げる病気は…専門医が解説

HPVワクチンにまつわる疑問をスッキリ解消 #2

横井 かずえ

日本では、毎年約1.1万人の女性が子宮頸がんになり、そのうち約2900人が亡くなっている。30歳代までにがん治療で子宮を失ってしまう人も、1年間に約1000人いる(写真:アフロ)

子宮頸がんを予防するワクチンの印象が強いHPVワクチンですが、実は子宮頸がんだけではなく肛門がんや中咽頭がん、陰茎がん、腟がんをはじめとする複数のがんや、尖圭コンジローマという性感染症も予防できます。

「HPVワクチンの基礎知識」を解説した第1回に続き、HPVワクチンが予防できる病気やワクチンを受けても検診が必要な理由について、産婦人科専門医の稲葉可菜子医学博士(みんパピ代表理事)に教えていただきました。

「子宮頸がんで苦しむ女性を1人でも減らしたい」との思いで活動を続ける、稲葉可菜子先生

【稲葉可菜子(いなば・かなこ)産婦人科専門医・医学博士。京都大医学部卒、東京大大学院博士課程修了。関東中央病院産婦人科医長。HPVワクチンの接種が進まず、多くの女性が子宮頸がんで苦しむのを見て「産婦人科医としてこのまま見過ごすことはできない」と「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」を設立。産婦人科医や小児科医、公衆衛生の専門家らと正しい情報の周知活動に取り組んでいる】

年間約1000人が30歳代までに子宮を失っている現実

──HPVワクチンが防げる病気には、どのようなものがあるのですか?

稲葉可菜子先生(以下、稲葉):
最も知られているのは子宮頸がんですが、ほかにも肛門がんや中咽頭がん、陰茎がん、腟がん、外陰がんなど、複数のがんがHPV感染によって引き起こされるといわれています。また、がんだけではなく尖圭コンジローマという性感染症もHPV感染が原因です。

──いろいろながんを予防できるのですね。代表的ながんについて教えてください。

稲葉:
まず子宮頸がんとは、子宮頸部という子宮の出入り口に近い部分にできるがんです。

日本では2000年以降、患者数も死亡者数も増加していて、特に20~30歳代の若い女性の患者が増えています。毎年約1.1万人の女性が子宮頸がんになり、そのうち約2900人が亡くなっています。また、30歳代までにがんの治療で子宮を失ってしまう(妊娠できなくなってしまう)人も、1年間に約1000人いるのです。

HPVに感染しても、すぐに子宮頸がんになるわけではありません。感染しても多くの場合はなにも異常がおきなかったり、自然にウイルスが排除されます。

しかし、10人に1人の割合で、HPVに感染した状態が続き、細胞に異常をきたすことがあり、それが子宮頸がんの前がん病変である子宮頸部異形成です。

▲子宮頸がんの95%以上の原因がHPVウイルス
画像「みんパピ!」WEBサイトより

稲葉:子宮頸がんの前段階である異形成には、軽度、中等度、高度の3段階があります。

異形成になったら必ず進行してしまうわけではなく、中等度から自然に軽度異形成に戻ることもありますし、自然に正常に戻ることもあります。異形成が治る割合や治るまでの時間は、HPVの型(種類)によって異なります。

ハイリスクHPVに感染した場合は、軽度の異形成でおよそ7~8人に1人、中等度の異形成でおよそ3人に1人が5年間のうちに高度異形成に進行すると報告されています。そのため、定期的に病気の進行をチェックすることが重要です。

一方で、高度異形成の患者さんは2年以内に約30%の割合で、子宮頸がんを発症すると報告されているため、早めの治療が必要です。なお、この段階で治療すれば、子宮全部を取らなくてもすむことがほとんどです。

HPVワクチンは肛門がんの予防にも

──肛門がんは、あまり聞いたことがありません。どのようながんなのですか?

稲葉:
食べ物が口からのど、食道、胃、小腸、大腸を通っていく道を「消化管」と呼びますが、消化管の出口が「肛門」です。そして、この肛門周辺にできるがんが「肛門がん」です。消化管にできるがんはとても多く、日本では大腸がんや胃がんが特に多くなっています。これらのがんほど多くはありませんが、肛門にがんができることもあるのです。

肛門がんの原因はいくつかありますが、HPV感染も重要な原因のひとつです。肛門がんの約80~90%にHPV感染が見られることが分かっているからです。子宮頸がんと原因が共通なので、アメリカでは肛門がんと診断された患者さんは子宮頸がんの検査を受けることが推奨されています。

肛門がんに対するHPVワクチンの予防効果については、まだ十分に検証されていないこともあります。しかし、ワクチン接種によって肛門がん発症のリスクを下げられる可能性があることについては、ぜひとも知ってほしいと思います。

▲肛門がんの約80~90%にHPV感染が見られる
画像「みんパピ!」WEBサイトより

男性に多い中咽頭がん、アメリカでは子宮頸がん患者を上回る

──中咽頭がんとは、どこのがんなのですか?

稲葉:
中咽頭がんは、のどの奥にできるがんの一つです。いわゆる扁桃腺と舌の付け根にできる中咽頭がんが、HPVに関連するものといわれています。また、女性より男性に多いという特徴があります。

HPVが引き起こす複数のがんの中でも、中咽頭がんは患者数が多いとされています。アメリカではHPV関連の中咽頭がんは年間1万4000人で、子宮頸がんの1万1000人よりも多いことが問題になっています。また、1万4000人の内訳は男性1万1800人、女性2200人と、男性の発症が女性よりも圧倒的に多いことも分かっているのです。

HPV関連中咽頭がんは、最初にがんになった病変が小さくても、リンパ節などに転移してしまって見つかることが多くなっています。日本人の約5%がのどにHPVが感染しているといわれているので、決して他人事ではありません。

──陰茎がんは、男性がかかるがんなのですか?

稲葉:
はい。陰茎がんは亀頭部や包皮に発生するがんです。HPVワクチンは、男女共にかかる肛門がん、中咽頭がんなどに加えて、男性の陰茎がん、女性の子宮頸がん、腟がん、外陰がんなど多くのがんのリスクを下げることが期待できます。

男女共に感染する尖圭コンジローマも予防

──尖圭(せんけい)コンジローマという性感染症についても教えてください。

稲葉:
尖圭コンジローマは外陰部や腟、陰茎、肛門などの生殖器およびその周辺に、にわとりのトサカのような、あるいはカリフラワーのような小さなイボができる病気です。性感染症なので、女性も男性も同じように感染します。

治療法はありますが、状態によっては手術が必要になることもありますし、治療しても約4分の1は再発するといわれていて、治すのが難しい病気でもあります。

今、クラミジアや淋菌、梅毒など多くの性感染症が増加していて、特に梅毒は2022年には患者報告数の調査が始まって以来、最も多い1万例を超える報告がありました。「自分は遊び人ではないから関係ない」などと思わずに、性感染症は身近な誰でもかかる病気であると知ってほしいと思います。

9価のHPVワクチンであれば約90%の感染を予防

──HPVワクチンには2価、4価、9価という種類がありますが、何が違うのですか?

稲葉:
「価」の違いは「何種類のHPV型の感染を予防できるか」です。

HPVには200種類以上のタイプ(遺伝子型)があり、子宮頸がんなどの「がん」の原因となるものを「ハイリスクHPV」、尖圭コンジローマなどの良性のイボの原因となる(=「がん」の原因にはならない)ものを「ローリスクHPV」と呼びます。200種類以上あるタイプのうち、約14種類ががんを引き起こすことが分かっています(※)。

※ハイリスクHPVの代表的なタイプ:16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、66、68型
 ローリスクHPVの代表的なタイプ:6、11、42、43、44型


それぞれの「価」が防ぐことのできるHPVの型は、次のとおりです。

2価 HPV16、18
4価 HPV6、11、16、18
9価 HPV6、11、16、18、31、33、45、52、58

▲ワクチンの効果があるHPVの型

稲葉:2価で予防できるのは、子宮頸がんの原因として最もハイリスクのHPV16、18型で、子宮頸がんの原因HPVのうち約6~7割の感染を予防できます。

4価は2価に加えて、尖圭コンジローマの原因となるHPV6、11型の感染を予防できます。9価は、4価に加えて、子宮頸がんの原因となりうるHPV型をさらに5種類予防できるため、子宮頸がんの原因HPVのうち約9割の感染を予防できるといわれています。

病気の予防という意味では、16歳までに4価HPVワクチンを接種することで子宮頸がんを88%予防できると分かっています。また、これから接種する人はほとんどが9価ワクチンになりますが、9価HPVワクチンのほうが新しいため、4価よりもさらに予防効果が高いことが予想されます。

ワクチンを接種しても健診が必要な理由

──HPVワクチンさえ接種すれば、もう子宮頸がん検診は受けなくてもいいのでしょうか?

稲葉:
それは違います。HPVワクチンも子宮頸がん検診も、両方受けることが重要です。なぜなら、ワクチンと検診を組み合わせることで、最も効果的に子宮頸がんを防ぐことができるからです。

HPVワクチンは約90%の子宮頸がんを予防するなど、子宮頸がんのリスクを大きく下げることができます。しかし、100%予防できるわけではありません。HPVワクチンで予防できないHPV型による子宮頸がんのリスクがあります。だからこそ、HPVワクチンを接種した人も、20歳を過ぎたら子宮頸がん検診を受けることがとても重要です。

子宮頸がん検診を受けていれば、がんになる前の異形成の段階で早期発見ができます。

ただ、異形成の段階で見つかったとしても、定期的に内診台で出血を伴う検査を受けなければなりませんし、「進行していたらどうしよう」という不安にも駆られます。

ワクチンを接種すればそもそも感染を予防できるので、異形成も防ぐことができます。これは非常に大きなメリットです。ですので、子宮頸がん検診だけでよいというわけでもありません。両方大事なのです。

「ワクチンだけで100%防げない」というネガティブな捉え方ではなく、「HPVワクチンと子宮頸がん検診を組み合わせることで、子宮頸がんにならずにすむ」と捉えて、ぜひ接種を検討してみてくださいね。

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この記事のまとめ

「子宮頸がんを防ぐワクチン」のイメージが強いHPVワクチンですが、意外なことに、男性がかかるがんも含めて多くのがんのリスクを下げられることを教えていただきました。

また、子宮頸がんは、ワクチン接種と検診を受けることで、で「ほぼ発症しないですむがん」です。子宮頸がん検診は20歳以上の女性は2年に1回、受けることが推奨されています。自治体の補助もあるので、ぜひ忘れずに受けておきたいですね。

【「HPVワクチンにまつわる疑問をスッキリ解消」連載は全3回。「HPVワクチンの基礎知識」を解説した第1回に続き、第2回では「ワクチンで防げる病気・ワクチンを打っても健診が必要な理由」、第3回は「男性にもHPVワクチンが必要な理由・現状」を、それぞれ詳しく掘り下げて解説します】

参考・引用・出典
厚生労働省「HPVワクチンについて知ってください」
みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト

取材・文/横井かずえ
イラスト・図表/みんパピ!、山口陽菜

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、...