“マザーキラー”子宮頸がんを予防「HPVワクチン」の効果・副作用・早期接種の疑問に専門医が回答 

HPVワクチンにまつわる疑問をスッキリ解消 #1

HPVワクチンって何? どんな効果があるの? いつ、どんなペースで接種? 副作用は? 打つべき年齢は? など、気になる疑問に専門医が答えます(写真:アフロ)

20~30代の女性に多く発症することから、別名“マザーキラー”とも呼ばれる、子宮頸がんを防ぐHPVワクチン。

実は、子宮頸がんだけではなく、肛門がんや中咽頭がんなど、男性がかかるがんの予防にもなります。

諸外国で接種が進む中、日本だけが取り残されてきたHPVワクチンについて、産婦人科専門医の稲葉可奈子医学博士(みんパピ代表理事)に教えていただきました。

「子宮頸がんで苦しむ女性を1人でも減らしたい」との思いで活動を続ける、稲葉可奈子先生

【稲葉可奈子(いなば・かなこ)産婦人科専門医・医学博士。京都大医学部卒、東京大大学院博士課程修了。関東中央病院産婦人科医長。HPVワクチンの接種が進まず、多くの女性が子宮頸がんで苦しむのを見て「産婦人科医としてこのまま見過ごすことはできない」と「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」を設立。産婦人科医や小児科医、公衆衛生の専門家らと正しい情報の周知活動に取り組んでいる】

子宮頸がんに加え、さまざまな病気を予防

──はじめにHPVワクチンの概要について教えてください。

稲葉可奈子先生(以下、稲葉):
HPVワクチンとは、子宮頸がんなどの原因となるヒトパピローマウイルスというウイルス感染を防ぐワクチンです。

子宮頸がんだけではなく、肛門がん、腟がん、中咽頭がん、陰茎がん、外陰がんなど、男性もかかるがんを含めた複数のがん、そして尖圭コンジローマという性感染症など、多くの病気の発症に関係しています。

HPVワクチンは子宮頸がんワクチンとも呼ばれますが、「HPVワクチン」が正式名称で、「ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチン」です。

ヒトパピローマウイルスというと1つのウイルスと思いがちですが、実際には200種類以上のタイプがあり、このうち、子宮頸がんの原因になるタイプが、約14種類あることがわかっています。

HPVワクチンは、14種類のウイルスのうち、特にリスクの高いウイルスの感染を防ぐことができます。

2価、4価、9価の3種類があり、「価」の違いによって何種類のHPV型の感染を予防できるかが変わってきます(※)。

(※「2価ワクチン」(サーバリックス)は、2種類のHPV(16型・18型)を予防できる。「4価ワクチン」(ガーダシル)は、4種類のHPV(6型・11型・16型・18型)を予防。「9価ワクチン」(シルガード9)は、9種類のHPV(6型・11型・16型・18型 、31型、 33型、 45型、 52型、 58型)を予防する効果がある。)

接種スケジュール・公費対象は「「小6~高1の女子」

──標準的な接種スケジュールを教えてください。

稲葉:
定期予防接種としてのHPVワクチンは「小6~高1の女子」が対象です。この年齢層ならば公費の対象となり、無料で接種できます。

接種回数は、どのワクチンも全部で3回。

2価ワクチンは初回接種から1ヵ月後、6ヵ月後の合計3回です。

4価・9価ワクチンは、初回接種から2ヵ月後、6ヵ月後の合計3回です。

ただし、9価については、1回目の接種を15歳になるまでに受ける場合は、初回接種とその6ヵ月後の2回の接種でいいことになっています。

▲HPVワクチンの標準的な一般的な接種スケジュール
3種類いずれも、1年以内に接種を終えることが望ましい。(厚生労働省「HPVワクチンについて知ってください」をもとに作成)

後回しにするメリットはゼロ! 早めの接種で最大限の効果を獲得

──初回接種を14歳までに受ける場合と15歳になってからでは、何が違うのですか?

稲葉:
14歳までに初回接種を受けると、2回で十分な効果が得られます。

これは、若いうちに接種したほうが免疫がつきやすいことと、初めての性交渉より前に接種したほうが、最もHPV感染予防効果が高いことが理由です。

よく「うちの子にはまだ早い」という親御さんがいますが、後回しにするメリットは一つもありません。反対に、早めに打つメリットは数多くあるのです。

ひとくちにワクチンといっても、効果はさまざま。たとえば、コロナワクチンのように「重症化を防ぐ」ものから、破傷風ワクチンのように「菌が体内に入ってから打っても病気の発症を予防するもの」まであります。

HPVワクチンは、接種することで、それ以降の対応するタイプのHPVウイルス感染を、ほぼ100%防ぐことができます。だからこそ、初めての性交渉より前に、接種を済ませておくことがとても重要です。

──高校2年生以上は接種しても意味がないのですか?

稲葉:
そんなことはありません。高校2年生以上でも、すでに性交渉の経験があったとしても、接種する意味は十分にあります。

子宮頸がんを引き起こすタイプは約14種類ありますが、すでに性交渉の経験があったとしても、そのすべての種類のウイルスに感染していることはほとんどないからです。

高校2年生以上でも、まだ感染していない種類のウイルス感染を防ぐ効果が期待できますから、できるだけ早いうちに接種しましょう。

定期予防接種期間を過ぎた場合の「キャッチアップ接種」

稲葉:ただし、定期予防接種期間を過ぎると全額自費になります。費用は医療機関によって異なりますが、全3回の接種をするには9価のHPVワクチンで合計約10万円ぐらい。

厚生労働省は現在、接種の機会を逃した人を対象に「キャッチアップ接種」を実施しています。

キャッチアップ接種の対象者

・1997年4月2日~2007年4月1日生まれ
・過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない


この条件にあてはまる人は「キャッチアップ」の対象となり、2025年3月まで公費で接種できます。ぜひこの機会に接種してほしいと思います。

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