急増する「子どもロコモ」を放置… 心身の成長に与える「悪影響」〔専門医が解説〕

整形外科医・林承弘先生に聞く「子どものロコモティブシンドローム」 #2 子どもロコモの対策方法

整形外科医:林 承弘

「子どもロコモ」は放置しておくと、どうなるのでしょうか?  写真:アフロ
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子どもが、体の使い方を学ぶ機会を失ったまま放置しておくと「転倒してもとっさに手が出ない。すぐ疲れてしまい、さらに体を動かすのが億劫になるなど、心身の成長に悪影響を与える可能性があります」とは、林整形外科院長・林承弘先生。

さらに大人になったときには、生活習慣病への懸念もあるといいます。

林先生に聞く子どもロコモ。2回目では、子どもロコモを放置したまま成長するリスクと対策について伺いました。

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運動の減少によってケガのリスクが増加

──1回目では、子どもロコモが起きる原因と症状、チェック項目についてお話いただきましたが、部活で本格的にスポーツを始める中高生のころになると、ロコモの症状は改善されるのでしょうか?

林承弘先生(以下、林先生):工業高校の養護教諭の先生が以前、「体前屈ができない生徒が一定数いる」「最近の高校生は、小・中学生のころにあまりケガの経験がなく、入学後に初めてケガをするケースが多い」とお話しをされていたことがありました。

「靴ひもを結べない」「マット運動で前転したときに船酔いのような気持ち悪さを感じる」なども耳にします。小・中学生のとき、スマホやタブレットゲームばかりして、外遊びをあまりしていないと、中高生になって身体能力の低下に気づく、というケースが多いですね。

また、1970年からの骨折患者でみると、約40年間で保育園児・幼稚園児の骨折はやや減少、小学生で増加し、中高生では3倍に増えています。

幼稚園や保育園で骨折の件数が少ないのはなぜかというと、「危ないから……」といった理由で、外遊びをさせる機会が減ってしまったことが考えられます。ケガをすると子どもへの対応に加えて、親御さんへの対応も必要ですから。

しかし、保育園や幼稚園のころの3~5歳ぐらいは、バランス能力や空間認知能力がもっとも伸びる時期です。この時期に外遊びをしないと、小さなケガをしたり、痛みを感じたりする機会がなく、「危険回避能力」が身につかないことになります。

危険回避能力がないまま、中高生になって、いきなり激しい部活を始めると、先ほどの話のように大きなケガをしたり、骨折したりしやすくなります。

ほかにも、2023年2月にさいたま市のN小学校で「コロナ禍の子どもロコモ」というタイトルで講演会に行ったときの話です。養護教諭の先生に「廊下を歩いていると生徒同士がぶつかってしまうんです」という話をお聞きしました。

──「空間認知能力」がないため、相手を避けられないということでしょうか?

林先生:はい、特に低学年に多く見られるとおっしゃっていました。今の低学年の子どもたちは、コロナの自粛生活のときが3~5歳前後。空間認知能力を獲得する時期に体をほとんど動かしていないため、運動機能が低下したままきてしまったというのが原因と考えられます。

林整形外科院長・林承弘先生。  画像提供:林承弘

子どもロコモ対策には適度な運動と外遊びが大切

──子どもロコモの対策として、サッカーや野球など、スポーツ系の習い事をするのは効果的でしょうか?

林先生:習い事で運動をしていても、必ずしも運動機能がいいとは限りません。原因はうまく体を動かせていないこと。運動をしている子も、していない子と同じように、子どもロコモの兆候が出ていることがあります。

例えば、「肩を上げなさい」「体前屈しなさい」と言っても、必ずしもすべての子どもができるとは限りません。運動をやりすぎることで、体の硬さやバランスにひずみが出てしまうこともあるので、ほどよい運動、外遊びが大事です。

──具体的にどのような外遊びがおすすめでしょうか?

林先生:鬼ごっこやジャングルジムがいいですね。今は「危ないから」といって、やらせない親御さんも見かけます。しかし、大人が見守っている中であれば危なくないですし、避け続けるといつまでたっても危険回避能力が身につきません。

あとは、素足で行うトランポリンもおすすめですね。バランス能力と姿勢がよくなります。

姿勢を正しく保つことを日ごろから意識すること

──スマホが日常の現代の子どもたちは、操作中の子どもの姿勢についても気になるところです。

林先生:そうですね。大人もですが、スマホをしていると、猫背といった悪い姿勢になりやすい。たとえば、大人の頭の重さを約5kgとして、首を15°前傾すると首にかかる負荷が約10kg、30°だと約15kg、45°だと約20kgの負荷がかかると言われています。真下を向いた姿勢(60°)では小学3年生の体重にあたる27kgもの負荷がかかることに。

そうすると、肩甲骨まわりや股関節がガチガチに固くなってしまい、疲れやすさやイライラするといった体の不調から運動機能全体が落ちてしまいます。

先日、私のクリニックに手を骨折した子どもが来院しました。ドッジボールをしていて、後ろへ下がったときにバランスを崩して手をつき、骨折してしまったのです。

その子を診ると、体が硬いし、しゃがむと尻もちをついてしまう。ドッジボールでもバランスがとれなくて倒れてしまった結果、変な手のつき方をして手首を骨折してしまったんですね。

このように、運動をやっていてもやっていなくても、基本的な姿勢と、肩甲骨と股関節をしっかり動かせるかどうかがとても大切なのです。

──大人も肩甲骨まわりと股関節が固いと、姿勢が悪くなって腰痛や肩こりの症状が出ますよね。何か、効果がある取り組みはありますか?

林先生:良い姿勢がとれるか、維持できるかがとても重要です。良い姿勢を保ちながら、肩甲骨と股関節の動きをよくする。これが運動機能を改善・維持するために一番重要な要素です。

取り組みとしては、体育の授業の準備体操でよく行われている、ラジオ体操がおすすめです。ただ、きちんとやらないと効果がありません。数分でいいから、しっかり股関節と肩甲骨を意識してやることによって、ずいぶん変わってきます。

──子どもや親御さんが、現在「子どもロコモ」に危機感を覚えていると感じられますか?

林先生:あまり意識していないように思います。それが一番問題ですね。車で例えると、ガチガチで余裕のないハンドルだと事故を起こしやすいので、ある程度ハンドルにもゆとりが必要です。

体も同じで、関節の可動域も余裕が必要で、可動域が小さいとケガをしやすい傾向にあります。「体が硬い」と言われている子どもは、実はそれほど硬くなくて、体の使い方がわからないことが多い。

例えば、びんの蓋の空け方がわからなかったり、雑巾が絞れなかったりする子どもがいますが、これは一度きちんと教えるとできるようになります。やったことがないものは、想像が付かないからできないわけです。

子どものときには、体のゆとりを最大限に持っておいても、大人になるにつれて体が硬くなってくる。しかし、姿勢を良くしたり、肩甲骨と股関節をしっかり動かしたりすることによって、ある程度の可動域を得られ、すると大人になってもケガのリスクが少なくなるのです。

───◆─────◆───

外遊びが減ったことで、体の使い方がわからない子どもたちが増え、ケガや骨折のリスクが高まっている実情がわかりました。

次回3回目では、親子でやりたい「子どもロコモ体操」や、運動以外に生活習慣で気を付けたいことについて、引き続き林先生に詳しく伺います。

取材・文/岩見真由美(メディペン)

「子どもロコモ」連載は全3回。
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(※3回目は2023年
3回目は2024年1月11日公開。公開日までリンク無効)

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はやし しょうひろ

林 承弘

Hayashi Syohiro
林整形外科院長

林整形外科 院長。 特定非営利活動法人全国ストップ・ザ・ロコモ協議会理事長。子どもの体の変化にいち早く気づき、ロコモ対策に取り組んでいる。 http://www.iwatsuki-med.or.jp/mi/hayshi-orthopedics.html

林整形外科 院長。 特定非営利活動法人全国ストップ・ザ・ロコモ協議会理事長。子どもの体の変化にいち早く気づき、ロコモ対策に取り組んでいる。 http://www.iwatsuki-med.or.jp/mi/hayshi-orthopedics.html

メディペン

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医療ライターズ事務所

医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen

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