「外では話せない」場面緘黙症の子どもに起きる不登校や引きこもり可能性 「改善方法」を専門家が解説
家では話すのに学校では話せない──子どもの場面緘黙症#1「程度や症状」
2024.06.03
場面かんもく相談室「いちりづか」代表:高木 潤野
家ではごく普通に会話ができるのに、学校や幼稚園など特定の場所に行くと全く話さなくなってしまう──。
そんな子どもを心配して、「人見知り いつまで」「緊張 話さない」などとネット検索したことのある親御さんもいるのではないでしょうか。
「それは、『場面緘黙(ばめんかんもく)』かもしれません」と話すのは、場面かんもく相談室「いちりづか」の高木潤野先生。
軽い、重いにかかわらず、すべてのケースに適切な支援が必要だと話します。場面緘黙症とはどのような症状なのか、高木先生に伺いました。
※1回目/全3回
PROFILE 高木 潤野(たかぎ・じゅんや)
場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。
「話さない」のではなく「話せない」
場面緘黙(ばめんかんもく)症は、アメリカ精神医学会による世界的な診断基準「DSM‐5」において、下記のように定義されています。
〈ほかの状況で話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例 学校)において、話すことが一貫してできない〉
医学的には不安症の一つであり、日本の法令では発達障害者支援法における発達障害の一つとされ、また学校教育においては情緒障害に分類され「特別支援教育」の対象となっています。
「場面緘黙の大事なポイントは、“もともと話すことができる”ことです。自宅など安心できる場所では普通に話せるというのが大きな特徴です」と、場面かんもく相談室「いちりづか」の高木潤野先生は話します。
本人の意思で「話さない」のではなく、状況によって「話せなくなる」という場面緘黙症。どのようにして発症するのか、その原因やメカニズムは明らかになっていません。
一般的には不安や緊張を感じやすい気質が影響しているといわれますが、「それが唯一の原因ではない。本人の気質に加え、話すことそのものやコミュニケーションの苦手さ、環境要因など複数の要素が重なって生じる」と高木先生は考えています。
また、親のしつけや家庭の環境が悪いのでは? といった見解については、「それが場面緘黙のおもな原因だとは考えられていません」と高木先生は断言します。
発症する年齢は2~5歳が多いとされていますが、高木先生によると小学生で症状が出る子どもも少なくないとのこと。
「小学生ではおおむね500人に1人の割合で、場面緘黙が見られるという調査結果もあります。症状の出現は特定のきっかけがないことも多いです。
もともと不安や緊張を感じやすい子どもが、環境が変わり集団生活が始まると話せない状態になったといったケースですね。
場面緘黙は、ある日突然発症するのではなく、もともとあったその子の気質や体質が『話せない』というかたちで表に出てきたと考えるほうがよいでしょう」(高木先生)
“歩けない 鉛筆が持てない”などの行動の抑制も
場面緘黙症の主症状は「家などでは普通に話せるのに、学校など特定の社会状況において話すことができない」ですが、その状況や程度は人それぞれに違います。
「家以外では誰とも話せない子もいますし、学校で友達や先生など限られた相手となら話せる子もいます。また相手によって普通に話せたり、小声でささやくようにしか話せなかったりと、話し方もさまざまです。症状が重く、家族とも話せなくなってしまう子もいます。症状にはかなりの個人差があります」(高木先生)
また、体が思うように動かせず固まってしまうといった行動の抑制が起こりやすいのも特徴だと高木先生は続けます。
「行動の抑制は、医学的には場面緘黙の症状ではないのですが、出現する人のほうが多いですね。
例えば、歩けない、鉛筆が持てない、文字が書けない、着替えができない、運動ができないなどです。なかでも、食事やトイレなど生理的な行動に抑制が出るケースが多いと思います」(高木先生)
ASDと併存する場合も
場面緘黙症の症状は、自閉スペクトラム症(ASD)と似ている点がありますが、「両者は異なります」と高木先生。
「ASDの特徴は、『社会的コミュニケーションの障害』と『限定された反復する様式の行動や興味』です。場面に関係なく症状が出るのが場面緘黙との違いです。ただ、場面緘黙の背景に、ASDの症状が関わっている子どももいます」(高木先生)
場面緘黙に詳しい小児科医・金原洋治氏によると、自院を受診した場面緘黙の子どもについて、190人のうち自閉症(疑い・傾向含む)は74人いたそうです(参考:『場面緘黙支援入門』/2022年、学苑社)。
「まだまだ理解度は低い」(高木先生)という場面緘黙。そのために、「話せない」状態にもかかわらず、「人見知り」「おとなしい子」と受け取られ、周囲の理解を得られていない子どもが、今もいるのではないかと考えられています。
次回は、自分の子どもが場面緘黙症かもしれないと思ったときにするべき大切なことについて、引き続き高木先生に伺っていきます。
取材・文/稲葉美映子
※「子どもの場面緘黙症」は全3回(公開日までリンク無効)。
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稲葉 美映子
フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。
フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。
高木 潤野
場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。 東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。これまで1000人以上の場面緘黙の当事者や保護者に相談や助言、カウンセリングを行っている。 ●場面かんもく相談室「いちりづか」
場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。 東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。これまで1000人以上の場面緘黙の当事者や保護者に相談や助言、カウンセリングを行っている。 ●場面かんもく相談室「いちりづか」