「家ではおしゃべりだけど外では話せない子」が不登校や引きこもりに!? 改善をさまたげる親の“やりすぎ支援”とは

家では話すのに学校では話せない──子どもの場面緘黙症#3「改善方法と二次的な問題」

場面かんもく相談室「いちりづか」代表:高木 潤野

「場面緘黙は適切な対応で改善させることができるが、周りの“支援のしすぎ”によって『話さない子』になってしまうこともある」と高木先生。  イメージ写真:アフロ

家ではごく普通に会話ができるのに、幼稚園や学校など特定の社会的状況において、声を出したり話をすることができない状態が続く「場面緘黙(ばめんかんもく)症」。

世の中の理解が進んでいないこと、また一見困ってなさそうに見えるため見過ごされがちなのも現状です。

「場面緘黙の症状は適切な対応によって改善させることができる」と、場面かんもく相談室「いちりづか」の高木潤野先生は話します。

改善の仕方や、また適切な支援を受けられないことによって起こり得る二次的な問題について、高木先生に伺っていきます。

※3回目/全3回(#1#2を読む)

PROFILE  高木 潤野(たかぎ・じゅんや)
場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。

場面かんもく相談室「いちりづか」代表の高木潤野先生。  Zoom取材にて

改善のカギは「スモールステップ」

高木潤野先生が主宰する、場面かんもく相談室「いちりづか」は、場面緘黙や関連する症状のある人への相談や助言、カウンセリングを行うところです。2023年4月に開所して以降、200人以上の相談があります。

「来談者の半数は小学生で、緘黙症状が早期に改善した子もいます」(高木先生)

緘黙症状の改善とは、学校など家庭の外でも話せるようになること。症状は十人十色のため、どうすれば話せるようになるかも人それぞれに異なります。

高木先生は、「学校との連携が不可欠」としたうえで、もっとも効果のある治療として「段階的エクスポージャー」を挙げます。

「これは、不安などの原因になる刺激に段階的に触れることで少しずつ慣れていくという方法です。少しずつ話せる相手や場面を増やしていく方法だと思ってください。話す練習を計画する際には、本人とよく相談しながら一人ひとりに合ったメニューを考えていくことが必要です。

私の場合は、『誰と話せるようになりたいか』『どんな場面で声が出せたらいいか』を本人と一緒に考えて、練習の目標を決めます。『担任の先生と話せるようになりたい』『友だちと学校で話せるようになりたい』という子もいます。

練習方法もその子にあったものを考えます。放課後に学校で先生と話す、友だちと家で遊ぶ、お店で買い物をするときに声を出す、録音した音声を相手に聞かせるなど方法もさまざま。また練習を行うときの相手や人数・場所・時間・話す内容などの条件もいろいろです。

どのような方法で練習するのがよいかは人によって異なるので、本人の意見を聞きながら慎重に計画していく必要があります」(高木先生)

さらに、「話す練習を進めるうえで避けるべきことが2つある」と高木先生は続けます。

「1つ目は、無計画に練習させること。『今日は挨拶しようね』など、その場の思いつきで声を出させようとしても上手くいきません。緘黙症状改善までの道のりをしっかりイメージして、計画的に進めましょう。

2つ目は、本人の意見を聞かないで進めること。目標を考えるのは本人にしかできません。本人の意思と関係なく練習をさせようと思っても失敗することが多いと思います」(高木先生)

症状の程度や練習の回数などにもよりますが、「3ヵ月ほどで成果が出る子もいます。初回でうまくいくケースもありますよ」と高木先生。

本人に合った計画を立て、スモールステップを踏んでいけば改善していくものということがわかります。

場面緘黙児の約7人に1人が不登校

医学的には不安症の一つであり、日本の法令では発達障害者支援法における発達障害の一つとされ、また学校教育においては情緒障害に分類され「特別支援教育」の対象となっている場面緘黙症。

もし適切な支援を受けられずに成長した場合は、どのようなことが考えられるのでしょうか。

「最悪のケースは、しゃべれないまま大人になることです。話せなければ社会生活で困ることが多いです。当然、引きこもりになるリスクも考えられます。

社会とのつながりが途切れると、そこからの改善はとても難しくなります。場合によっては親とも話せなくなることもあります。『20年間子どもの声を聞いていない』という親御さんもいます」(高木先生)

また、不登校との関連性も見逃せません。

「不登校になる子どもは非常に多いです。小学生では、場面緘黙症の子どもが不登校になるリスクは、そうでない子どもと比べて約14倍高いというデータもあります。

これは、『場面緘黙があるから不登校になる』というよりは、緘黙症状の背景にある要因が、今度は『学校に行きづらい』というかたちでも出てきたと捉えるのがいいと思います」(高木先生)

先回りしすぎず毎日楽しく過ごすことが大切

「支援のしすぎにも注意が必要」と高木先生は強調します。学校で音読も日直もすべてしなくてOKというように、「話さなくても困らない」環境を先回りしてつくってしまうことです。

「緘黙症状の改善には本人の『話せるようになりたい』という気持ちが大切です。支援されすぎている子どもに話す練習をうながしても『全然困ってないから大丈夫』となってしまうケースがあります。

学校の先生の中には、話さなくても学校生活が送れるようにという視点での支援を重視してしまう方もいます。確かに学校で、どこまで声を出すことを求めていいのかの判断は非常に難しいです。場面緘黙に詳しい専門家の意見を聞きながら、慎重に計画を考えていくことをおすすめします。

場面緘黙は改善できます。生涯付き合っていくものではなく、治せるものだと考えてください。基本的には安心して学校生活を送れるような配慮をしつつも、緘黙症状の改善を目指すという対応を行っていくべきだと考えています」(高木先生)

話せないこと自体が困りごとなので、そこにアプローチしないことには本来の支援にはなりません。環境を整えすぎることはかえって逆効果になることも知っておく必要があるでしょう。

また、緘黙症状がある子どもの親は、「いつ治るのだろうか」などと不安な気持ちを抱えているかもしれません。そんな親御さんに高木先生は、「とにかく日々楽しく過ごすことが大切です」と伝えています。

「本人が乗り気でないにもかかわらず、人との関わりを増やす目的で放課後等デイサービス(障害のある就学児をサポートする通所施設)や習いごとに行かせる親御さんもいますが、学校の友達と遊ぶ機会を作ってあげるほうが効果的なことも多いです。

友達と話せるようになることが、緘黙症状改善への一番の近道だと私は考えています。本人が楽しいと思えることをさせてください」(高木先生)

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親は「なんで話さないの!?」と焦ってしまうこともあるかもしれません。しかし、場面緘黙症を正しく知り、きちんと計画を立てて進めれば改善するものだと理解すれば、状況の捉え方も変わることでしょう。

人知れず話せなくて困っている子どもが見過ごされないために、家庭や学校など周囲の理解が不可欠ではないでしょうか。

取材・文/稲葉美映子

※「子どもの場面緘黙症」は全3回。
#1
#2

たかぎ じゅんや

高木 潤野

Junya Takagi
場面かんもく相談室「いちりづか」代表

場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。 東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。これまで1000人以上の場面緘黙の当事者や保護者に相談や助言、カウンセリングを行っている。 ●場面かんもく相談室「いちりづか」

場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。 東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。これまで1000人以上の場面緘黙の当事者や保護者に相談や助言、カウンセリングを行っている。 ●場面かんもく相談室「いちりづか」

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。