外で話せない〔場面緘黙症〕の子どもに「挨拶しなさい」はNG! 我が子を追い込まない親たちの心得を専門家が解説

家では話すのに学校では話せない──子どもの場面緘黙症#2「親ができること」

場面かんもく相談室「いちりづか」代表:高木 潤野

「苦手なことを無理矢理させないことが大切です」と心理師の高木先生。  イメージ写真:アフロ

家では会話ができるのに、幼稚園や学校など特定の社会的状況において、声を出したり話をすることができない状態が続く「場面緘黙(ばめんかんもく)症」。

家ではごく普通に会話ができるうえ、学校で話ができないことを家で隠したがる子どもも多いことから、親が気づくのは難しい面もあります。

今回は、「うちの子もしかして?」と思ったときに大切なことや、「そもそも場面緘黙症って治るの?」といった疑問について、引き続き、場面かんもく相談室「いちりづか」の高木潤野先生に伺います。

※2回目/全3回(#1を読む

PROFILE  高木 潤野(たかぎ・じゅんや)
場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。

場面かんもく相談室「いちりづか」代表の高木潤野先生。  Zoom取材にて

“困らない子”だから見過ごされがち

新年度は、入園や入学、進級といった大きな環境の変化があります。新しい始まりに胸ふくらませる一方で、環境の変化に戸惑い、不安やストレスを感じやすいことも。

実際、高木潤野先生は「場面緘黙の症状は、新年度など環境が変わるときに現れることがある」と話します。

「緘黙症状に最初に気がつくのは、通常、園や学校の先生です。子どもが園や学校で話していないことに気がついて保護者に連絡する、というケースがもっとも多いと思います。

しかし、先生が『もともと無口な子』『あまりおしゃべりしない子』だと思い込んでしまい、問題視せずに見過ごしてしまうことも。そうすると保護者は緘黙症状に気づくのが遅れてしまいます。

『参観日でのわが子の様子を見て、初めて話していないことに気がついた』というケースも少なくありません」(高木先生)

医学的には不安症の一つであり、日本の法令では発達障害者支援法における発達障害の一つとされ、また学校教育においては情緒障害に分類され「特別支援教育」の対象となっている場面緘黙症。

昨今、「発達障害」に対する理解は進んできているにもかかわらず、発達障害の一つとされる場面緘黙症への理解はなぜ進まないのでしょうか。

「場面緘黙も少しずつ理解は進んできていると思います。ただ学校の先生は対応すべきことが多すぎるので、『おとなしい子』『周りに迷惑をかけない子』に対する専門的な対応まではなかなか手が回らないのではないでしょうか。

また困っていることを自分から発信することができないという、場面緘黙の特徴も関係しています。『困っていない』と思われてしまって、対応が後回しになってしまうことが多いのではないかと考えています」(高木先生)

本来は特別な支援が必要であるにもかかわらず、今も人知れず困り感を抱きながら学校に通っている子どもがいるのではないでしょうか。学校や園と、保護者が早期に連携し、対応していくことが望まれます。

適切な支援があれば場面緘黙症は治る

もし「わが子が場面緘黙症かもしれない……」と思ったときにはどうすればいいのでしょうか。前回(#1)の説明どおり、話せない場面や症状の程度は十人十色です。

素人である我々親が判断できるのでしょうかとの問いに、高木先生は「場面緘黙かどうかを見極めること自体には、あまり意味がありません」と意外な回答を寄せます。

「大事なことは場面緘黙かどうかではなく、その子に支援が必要かどうかを見極めることです。早期にアプローチができれば、その子の困る時間が少なくてすみますよね。

必要があれば適切な対応を行うべきなのであって、『極度の恥ずかしがり屋や人見知り』か、『軽めの場面緘黙』なのかは関係ありません」(高木先生)

さらに、「適切な対応によって、場面緘黙は必ず改善します」と断言する高木先生。

「子どもの場面緘黙がわかれば、まずは学校や園とよく相談しましょう。また発達外来や児童精神科、自治体が運営する保健センターなどの専門機関にかかることもおすすめです。

ただしこのような専門機関でも、場面緘黙についての専門的な知識がなく、適切な対応ができないケースも珍しくありません。

もし今カウンセリングに通っていても症状が改善する見込みがなければ、迷わず別の専門家を探すことをおすすめします。改善の道筋を保護者が納得できるかたちで示してくれる専門家を探してください」(高木先生)

高木先生が主宰する、場面かんもく相談室「いちりづか」では、2023年4月に開所以降、大人も含めて200人以上をカウンセリング。来談者の半数は小学生で、短期間で症状が改善して卒業していった子どももいるといいます。

子どもを困らせる親の誤解

緘黙症状が出ている子どもに対して、親がしがちな誤った対応についても伺いました。いずれも気をつけたいことばかりです。

まず1つ目は「大人になれば話せるようになる」と安易に考えてしまうこと。

「これはあながち誤解でもなく、確かに専門的治療や支援を受けなくても自然と話せるようになる子どもが多いのも事実です。ただ、話せないままの子どももいることを知っていただきたいです。『いつか話せるようになる』と思って何もしないよりも、『なるべく早く話せるようになる』ために積極的な対応をしていくことを強くおすすめします」(高木先生)

2つ目は、「自分で話さないことを選んでいる」という誤解です。家では普通に話せることから、子どもがわざと話さないと考えてしまいがちですが、自分の意思とは関係なく「話せない」状態であることを理解する必要があります。

「緘黙症状が出ている場面で『挨拶しなさい』などと無理矢理に挨拶やお礼、話をさせようとすることがあります。これをやっても本人は困ってしまうだけで、わざわざ失敗経験をさせていることにしかなりません」(高木先生)

3つ目は、「人と関わる経験をたくさんさせれば治るのではないか」と考えることです。

「場面緘黙は『経験不足』から生じているものではありません。塾や習いごと、放課後等デイサービスなどにたくさん通わせても、緘黙症状の改善にはつながりません。

緘黙症状の改善を目指すなら、習いごとや放課後等デイではなく、園や学校としっかり相談することが必要です」(高木先生)

「もしかして……」と感じても、専門機関への相談は、最初は勇気がいるかもしれません。しかし高木先生は「場面緘黙は必ず改善する」と断言します。まずは学校と連携して頼れる専門家を探し、しっかりと改善への計画を立てていくことが大切だといえるでしょう。

もし適切な支援を受けられないまま成長すれば、「引きこもりや不登校などが生じやすくなる」(高木先生)とも。次回は、具体的な治療法や二次的な問題について、引き続き高木先生に伺います。

取材・文/稲葉美映子

※「子どもの場面緘黙症」は全3回(公開日までリンク無効)。
#1
#3

たかぎ じゅんや

高木 潤野

Junya Takagi
場面かんもく相談室「いちりづか」代表

場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。 東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。これまで1000人以上の場面緘黙の当事者や保護者に相談や助言、カウンセリングを行っている。 ●場面かんもく相談室「いちりづか」

場面かんもく相談室「いちりづか」代表。博士(教育学)、公認心理師。 東京学芸大学大学院(博士課程)修了後、東京都立あきる野学園、長野大学などを経て、2023年に「いちりづか」設立。これまで1000人以上の場面緘黙の当事者や保護者に相談や助言、カウンセリングを行っている。 ●場面かんもく相談室「いちりづか」

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。