「子どもの入院 親の付き添いで「食事がない」「眠れない」 実体験に基づく過酷実態とは
キープ・ママ・スマイリング代表・光原ゆき氏に聞く「子どもの入院付き添いの実態」 #1 ~子どもの入院付き添いの実態~
2024.12.16
認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング理事長:光原 ゆき
スティックパンで3食過ごすママたち
2度目の付き添いで驚いたのは、病院ごとに付き添い入院の親が置かれている環境とルールはまるで違うということです。
付き添いするか、しないかを選べる病院もありましたが、多くは当然のように親の付き添いが求められました。また、食事やベッド、シャワーなどの生活環境も大きく違いました。
ある病院では、お金を払えば保護者も病院のご飯を食べることができました。当時で1食700円ほどかかりましたが、温かいご飯が食べられるのが何よりもありがたかったのを覚えています。しかし、周囲の付き添いのママたちを見ていると、一日2食だけしか食べていなかったり、スティックパンで3食過ごす人もいました。
いくら子どもの医療費は無料といっても、家庭と病院と2つの場所での生活が長くなると、経済的な負担は小さくありません。そのため、せめて自分の食費は節約しようと思うママたちが多かったのだと思います。
親用のシャワールームがない
シャワーの有無も違いの一つです。ある病院ではシャワールームがなく、入院時に病院近くの銭湯の地図を渡されただけでした。しかし、病気の子どもは少し泣いただけで酸素濃度などが下がってしまうこともあります。
そのような子どもを置いて、銭湯に行くのは至難の業です。結局、その病院に付き添い入院している間は、夜間カーテンの影で体を拭くだけで何日も過ごさなければなりませんでした。
保育士が配置されている病院も
一方で、とてもありがたい環境の病院もありました。それは、小児科病棟に保育士などを配置している病院です。
保育士がいれば、親が医師と治療の話をする間、子どもをみていてもらうことができます。あるいはシャワーを浴びている間など、安心して任せることができます。
病棟に保育士がいるかどうかで、付き添っている親の負担が天と地ほど違うのを実感しました。
次女が生きた証を残したい
こうしてさまざまな病院で付き添い入院をしながら治療に取り組んでいましたが、残念ながら、次女は1歳の誕生日を迎えることなく亡くなってしまいました。それからしばらくの間は、どうやって朝、目が覚めて1日を生き延びたのかもわからないほど、絶望と深い悲しみの中で過ごしました。
悲しみのなかで、「次女が生まれた意味があったと思いたい。その意味をこれから自分で作っていこう」と考えるようになりました。
そこで思い出したのが付き添いの日々です。入院付き添いの過酷な状況を、少しでも改善につなげることにこれからの時間を使おうと思いました。
私自身が体験してわかったことは、付き添い入院の問題は医療の狭間で取りこぼされているということでした。
日本の小児医療は、間違いなく世界でもトップレベルです。実際、非常に難しい病気を持って生まれた長女は、その後元気に成長し、今では中学3年生になりました。
もしも今から20年、30年前だったら、長女の病気も治ることができなかったかもしれません。
自分を責めてしまうママやパパたち
その一方で、付き添い入院の状況は何十年も変化していないのです。
理由の一つは、子どもが病気になってしまったママやパパの多くは、心のどこかで「私のせいだ」と自分を責めてしまうから。私自身、子どもに病気が見つかったときは「私が働きすぎたせいだ」などと自分を責めました。
その結果、親たちが付き添い入院生活の実態について「社会課題」として声をあげることがないまま何十年も過ぎてしまったのです。
だからこそ、実態を知る誰かが伝えなければならない──。そう考えて、NPO法人を立ち上げて活動をスタートしました。
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2人の娘さんの付き添い入院生活から、付き添い入院の過酷さを知ったという光原さん。次回2回目では、どうして子どもの入院に付き添いがこれほど過酷な環境になってしまうのか、子どもの入院環境の背景にある問題について教えていただきます。
取材・文/横井かずえ
子どもの入院付き添い連載は全3回。
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(※公開時よりリンク有効)
横井 かずえ
医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL: https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2
医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL: https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2
光原 ゆき
認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング理事長 1996年一橋大学卒業後、株式会社リクルートへ入社。メディアプロデュース、人事、ダイバーシティ推進業務に従事。先天性疾患を持つ娘を出産後、育児休暇中に亡くした経験から、2014年11月に現団体の設立、理事長に就任。 病児と家族の応援の輪を広げるため、企業や学校、イベントなどで講演も多数行っている。 東京大学医療政策人材養成講座(HSP)3期生、キャリアカウンセラー、認定ファンドレイザー。 キープ・ママ・スマイリング https://momsmile.jp/
認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング理事長 1996年一橋大学卒業後、株式会社リクルートへ入社。メディアプロデュース、人事、ダイバーシティ推進業務に従事。先天性疾患を持つ娘を出産後、育児休暇中に亡くした経験から、2014年11月に現団体の設立、理事長に就任。 病児と家族の応援の輪を広げるため、企業や学校、イベントなどで講演も多数行っている。 東京大学医療政策人材養成講座(HSP)3期生、キャリアカウンセラー、認定ファンドレイザー。 キープ・ママ・スマイリング https://momsmile.jp/