
生まれた子どもが再び母と同じ施設へ行くことも
──児童養護施設で育った子どもたちに性教育が必要な理由を教えてください。
小徳先生:児童養護施設で育ったママやパパの多くは、幸せに出産して家庭を持ち、子育てをしています。ただ一方で、十分なサポートを得られずに妊娠・出産を迎え、生まれた子どもが再び児童養護施設で育つというスパイラルが、一部で起きているのも事実です。
それは、児童養護施設で育ったママやパパには、特有の困難さや課題を抱えていることがあるからです。 例えば、経済的な事情で預けられ、保護者や養育者との関係が構築できていない人も多いことが挙げられます。
産婦人科医として診察室で出会った児童養護施設出身のママたちは、妊娠を告げると本当に幸せそうな笑顔を見せてくれます。
でも、いざ出産すると、さまざまな理由で子どもを育てられないケースを何度も目にしました。そんな現実を前に、産婦人科医として何かできることはないか、とずっと考えていたのです。
相談相手がいなくて1人で問題を抱え込んでしまうケースも

──具体的な課題について教えてください。
小徳先生:児童養護施設で育ったママやパパの中には、妊娠・出産にまつわるトラブルや、予期せぬ健康上の問題が起きたときに、十分なサポートを受けられない人もいます。
児童養護施設にいる間は、職員が一人ひとりの子どもたちに寄り添い、親身になってケアをしてくれます。でも、施設にいられるのは原則18歳まで(最長22歳)(※2)。18歳になると、多くの子が施設を出て、自立しなければなりません。
施設を出てからも職員とのつながりが続くこともありますが、予想外の妊娠や産後のトラブルが起きたときに、誰にも相談できず、一人で問題を抱え込んでしまうケースも少なくないのです。
(※2)2024年に改正児童福祉法が施行され、児童養護施設や里親家庭で育つ若者のサポートについて、年齢上限(原則18歳・最長22歳)は撤廃されました。
病院の受診にもさまざまなハードルが

をしました」(小徳先生)。 写真提供:小徳羅漢
小徳先生:また、生理や妊娠の悩みは、実の親子でも相談しにくいものです。ましてや、児童養護施設で育った子どもたちが体調に不安を感じたとき、異性の職員には話しづらく、病院を受診するにもさまざまなハードルがあるのが現実です。
だからこそ、彼ら・彼女らが自分の身を守るために、病院の受診の仕方や、性に関する基本的な知識をしっかり身につけてほしい──。そんな思いで、性教育の活動を続けています。
──◆──◆──
海外に比べて遅れていると言われる日本の性教育。十分な教育がないことから、望まない妊娠や性感染症などの問題に直面するケースも少なくありません。そんな悲しい問題を少しでも減らしたいと奮闘する小徳先生。2回目では、児童養護施設で行った性教育の内容を詳しく教えていただきます。
取材・文/横井かずえ
小徳羅漢先生の児童養護施設への性教育記事は全2回。
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※公開時までリンク無効

横井 かずえ
医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL: https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2
医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL: https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2
小徳 羅漢
産婦人科専門医・総合診療医。 1991年、茨城県生まれ。小学校高学年から神奈川県で暮らす。2016年、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業後、鹿児島市医師会病院で初期臨床研修。2018年は長崎県上五島病院、2019年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。 2020年から鹿児島県立大島病院に勤務。2025年4月から1年間、「みんなの診療所」に週4日、県立大島病院に週1日勤務。総合診療専門医を目指す。 病院勤務以外に、街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催。 2018年に結婚、2020年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2児の父。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。 @rakankotoku
産婦人科専門医・総合診療医。 1991年、茨城県生まれ。小学校高学年から神奈川県で暮らす。2016年、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業後、鹿児島市医師会病院で初期臨床研修。2018年は長崎県上五島病院、2019年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。 2020年から鹿児島県立大島病院に勤務。2025年4月から1年間、「みんなの診療所」に週4日、県立大島病院に週1日勤務。総合診療専門医を目指す。 病院勤務以外に、街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催。 2018年に結婚、2020年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2児の父。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。 @rakankotoku