「父親は不用意に娘の体に触れない」「恋人いるの?とは聞かない」 子どもを幸せにするために“親がやってはいけない“こととは?〔専門家が解説〕

ソーシャルワーカー・鴻巣麻里香さんに聞く「小中学生の恋愛バウンダリー」【4/4】~親と子のバウンダリー~

精神保健福祉士・スクールソーシャルワーカー:鴻巣 麻里香

子どもが苦しむ言動は可能な限り避けて!

子どもに対して親から、「彼氏できないの?」「恋人ぐらいいないの?」などと、“恋愛リア充の呪い”を家の中に持ち込まないことも大事、と鴻巣さん。

「親も“リア充=恋人がいたほうが幸せ”という呪いにとらわれているんですよね。こんなふうに言われると、子どもは苦しくなってしまうんですよ。

もうひとつ、『シスジェンダー同士の男女の恋愛が当たり前である』というのも、私たちが何気なく家庭に持ち込みがちな古い固定観念。シスジェンダーとは、性自認と生まれついた性別が一致していることをさします。

もしかしたら子どもは、シスではなく、性自認と生まれついた性別が異なるトランスジェンダーかもしれませんし、同性が恋愛対象かもしれません。固定観念による決めつけは知らず知らずのうちに、子どもを苦しめている可能性があることを、知っておいてください」

子どもも含めジェンダーマイノリティの恋愛事情は、とても複雑。「性愛の対象としての性別」は組み合わせが多種多様なのです。

「シス男性とシス女性ならば、なんとなくの雰囲気でお互い付き合って交際を深めていけますよね。でもジェンダーマイノリティの場合は、付き合う前にマッチングというプロセスが必要です。

『自分が好きになった人が、シスジェンダーでない自分の心と身体を、きちんと受け入れてくれるのだろうか』と、恋愛に対して希望が持ちづらい。なかなか声を出せずに、モヤモヤや不安を抱えている子どももいるんです」

ジェンダーマイノリティでなくても、恋愛における試練は多く待っていることでしょう。そんなとき、親は見守ることしかできません。

「苦しいことは放っておいても自然に経験するので、子どもが苦しむとわかっていることをあえてしない。親だって完璧ではないので、よかれと思ってやったことが、結果的に子どもを苦しめることはよくあります。ですから、少なくとも過干渉や傷つく発言など、ブレーキがかけられる部分はかけて、子どもの成長を見守っていけるといいですよね」

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4回にわたって、ソーシャルワーカーの鴻巣さんに小中学生の恋愛と大人の関わりかたについて伺いました。

小中学生の「恋愛」は、大人による「リア充」の刷り込みの結果であること、進み方によっては将来の恋愛に影を落としかねないことがよくわかりました。けれども、子どもとの関わり方やバウンダリーの引きかたを見なおす、絶好のチャンスにもなるようです。

恋愛にかかわらず、子どもが親や信頼できる大人に「困りごと」を相談できているかどうかが重要。子どもがさまざまなトラブルに巻き込まれる前に、そうした関係性を築く必要があるでしょう。

子どものバウンダリーを踏み超えていないか、この機会に振り返ってみるといいかもしれません。


取材・文/萩原はるな

10代の生きづらさとその解決策をリアルなエピソードとともに紹介した『わたしはわたし。あなたじゃない。10代の心を守る境界線「バウンダリー」』(出版:リトルモア)。2024年9月発売から1ヵ月弱で重版に。
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こうのす まりか

鴻巣 麻里香

Marika Kohnosu
精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー

KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。 1979年生まれ。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著作に『思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題』(2023年、平凡社)、共編著に『ソーシャルアクション! あなたが社会を変えよう!』(2019年、ミネルヴァ書房)、『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(リトル・モア)がある。

KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。 1979年生まれ。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著作に『思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題』(2023年、平凡社)、共編著に『ソーシャルアクション! あなたが社会を変えよう!』(2019年、ミネルヴァ書房)、『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(リトル・モア)がある。

はぎわら はるな

萩原 はるな

ライター

情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。長女(2009年生まれ)、長男(2012年生まれ)のママ。

情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。長女(2009年生まれ)、長男(2012年生まれ)のママ。