
わが子の「性別違和」を23年支え続けた小児外科医が明かす 子どもの特性や不登校を救う「親の受容」
松永正訓さん著者インタビュー後編〜性別違和のわが子と父・医師として〜 (3/3) 1ページ目に戻る
2026.08.14
医師・ノンフィクション作家:松永 正訓
──わが子の不登校に悩む親の場合も、「普通に学校へ行ってほしい」という思いを捨てられなかったり、ありのままのわが子を受容できなかったりするケースが多いようです。
松永:ぼくのクリニックにも、不登校で悩んでいる親子がやってきます。自分は専門家ではありませんが、不登校には大きく分けて2種類あることに気づきました。
ひとつは、理由があって学校に行けない不登校。イジメに遭っているとか先生との関係に悩んでいるとか勉強についていけないとか。その場合は、原因を取り除いてあげるのが、親の役割です。
もうひとつは、明確な理由はないけど学校に行けない不登校。理由はないんだから対処の仕様がない。親としては「じゃあ、学校行かなくてもいいよ」と発想を変えて、子どもの学校がしんどいという心の重荷をまず取ってあげることが大切になってきます。
ここでも親が「普通」に縛られていると、子どもをどんどん追い詰めるし、親自身も不安がふくらんでしまう。「わが子は普通じゃない」と嘆いてオロオロするばかりで、苦しんでいる子どもの姿が目に入らなくなる。
そうなると「どうして学校に行けないの」「頼むから行って」といった残酷な言葉を平気で浴びせ続けてしまったりします。
「あなたのためを思って」は要注意
──ほとんどの親は、子どもを愛しているし子どもの幸せを願っています。しかし、その愛がうまく伝わらなかったり、裏目に出たりすることも少なくありません。どこで食い違いが起きてしまうのでしょうか。
松永:もう亡くなりましたが、ぼくは自分の親が反面教師になってくれています。さっきの不登校の話じゃないですけど、ぼくは親の愛には2種類あると思っています。子どもに対して愛を与える親と、奪う愛を向ける親です。ぼくが親から向けられたのは奪う愛でした。
愛に条件を付けるんです。産んでやったんだから感謝しろとか、育ててやったんだから自分の期待に応えろとか。大学はここに行け、孫が抱きたいから早く結婚しろ、結婚したら早く子どもを作れなど、常に条件を付けてきた。
それを満たさなければ「お前は親不孝だ」と責められる。子どものころから、それは本当の愛じゃないと感じていました。
自分が親になったときには、ああいう親になるまい、子どもには無条件の愛を捧げようと決めたんです。それに、愛は与えれば与えるほど大きくなっていくけど、奪おうとしたらどこまでいっても「もっともっと」と思ってしまうでしょう。
小児外科医として、たくさんの親子を見てきましたが、無意識のうちに奪う愛を向けている親も少なくありません。教育熱心なのはいいとして、自分の子どもをいい学校に入れて、自分のプライドを満たすことが目的になっていたりとか。
ただ、自分が奪っている側だと気づくのは、なかなか難しい。己と向き合って真摯に対話しないと気づけないでしょうね。
もしも日ごろから「あなたのためを思って」と言ってしまうとしたら、奪う愛を与えている側かもしれないということ。その言葉を言い訳にして、子どもを見ないまま、自分の欲求を押し付けている可能性があります。
──子育ては、親の思いどおりにはいきません。予測できない事態が次々に待ち受けています。本を読むと、光さんはもちろんのこと、松永さんご夫妻も、たくさんの苦難に直面してこられました。
松永:性別違和を抱えている光は、たしかに手がかかる子だったかもしれません。でも、苦難と言うとちょっと違うかな。わが子の世話ができるのは、親にとって最大の幸せです。いっしょに悩んだことも悲しんだことも、ぼくと妻にとっては大切な時間でした。
強がりでもきれいごとでもなく、光が私たちの元に生まれてきてくれたことに心から感謝しています。これからもいろんなことがあるでしょう。光といっしょに前に進んでいくこと、光の幸せを探し続けること、それが私たち家族にとっての幸せなんです。
【関連書籍】

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石原 壮一郎
コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』『失礼な一言』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。 萩本欽一がマヌケの素晴らしさを伝える『マヌケのすすめ』(ダイヤモンド社)、林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)、毒蝮三太夫が高齢者にまつわる悩みに答える『70歳からの人生相談』(文藝春秋)では構成を担当。 2024年秋には、何かと厄介な周囲の「昭和人間」、そして「昭和人間」である自分自身との付き合い方を考察した『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)が話題を呼んだ。 写真:いしはらなつか
コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』『失礼な一言』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。 萩本欽一がマヌケの素晴らしさを伝える『マヌケのすすめ』(ダイヤモンド社)、林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)、毒蝮三太夫が高齢者にまつわる悩みに答える『70歳からの人生相談』(文藝春秋)では構成を担当。 2024年秋には、何かと厄介な周囲の「昭和人間」、そして「昭和人間」である自分自身との付き合い方を考察した『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)が話題を呼んだ。 写真:いしはらなつか



































松永 正訓
1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。 『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』(小学館)にて第20回小学館ノンフィクション大賞(2013年)を受賞。『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)にて第8回日本医学ジャーナリスト協会賞・大賞(2019年)を受賞。 著書は『呼吸器の子』(現代書館)、『ドキュメント奇跡の子 トリソミーの子を授かった夫婦の決断』(新潮新書)、『開業医の正体 患者、看護師、お金のすべて』(中公新書ラクレ)、『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中公文庫)など多数。近著に『赤ちゃんにメスを入れる~知られざる小児外科の世界』(晶文社)、性自認に苦悩するわが子との23年を綴った『性別違和に生まれて 父と子で綴った23年』(中央公論新社)など。 【Blog】 http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/
1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。 『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』(小学館)にて第20回小学館ノンフィクション大賞(2013年)を受賞。『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)にて第8回日本医学ジャーナリスト協会賞・大賞(2019年)を受賞。 著書は『呼吸器の子』(現代書館)、『ドキュメント奇跡の子 トリソミーの子を授かった夫婦の決断』(新潮新書)、『開業医の正体 患者、看護師、お金のすべて』(中公新書ラクレ)、『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中公文庫)など多数。近著に『赤ちゃんにメスを入れる~知られざる小児外科の世界』(晶文社)、性自認に苦悩するわが子との23年を綴った『性別違和に生まれて 父と子で綴った23年』(中央公論新社)など。 【Blog】 http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/