【男児の性教育】医師が警鐘 “不適切すぎる”マスターベーション 親ができる配慮とは? 

「子どものマスターベーション」で親が知っておくべきこと#3 ~家庭での配慮編~

泌尿器科医・聖隷浜松病院リプロダクションセンター長:今井 伸

思春期の息子の部屋を開けたら、まさかの光景が目に入って……。子どものマスターベーションについて、家庭でできる配慮を聞きました。  イメージ写真:アフロ

思春期の男子を持つ家庭では、「子どものマスターベーション(オナニー)を目撃してしまった」、「どうやらアダルト動画を見ているみたい」などなど、性に関する戸惑いが生まれるシーンがちらほらあるでしょう。

「思春期の男子にとって、性欲は自然な欲求。エッチなものを見たり、マスターベーションしていることをとがめないで」と話すのは、泌尿器科医の今井伸(いまい・しん)先生。

でも、おかしなことをしていたらどうしよう……と親の心配は尽きないもの。間違ったマスターベーションをしている場合、腟内射精障害や男性不妊につながりかねないケースもあります。

また、思春期に健康的な性生活を送ることは、その後の性の価値観にもつながってくるもの。親は介入せずとも配慮はできる、思春期男子の性生活と向き合い方について話を伺いました。

●PROFILE 今井伸(いまい・しん)
1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。近著に『射精道』(光文社新書)など。

※3回目/全3回(#1#2を読む)

1人になれるおすすめの場所とは

中高生で性教育の講演を行い、子どもたちに正しい射精を伝えている今井先生。第1回(#1)では精通の教え方、第2回(#2)は、正しいマスターベーションの仕方などを教わりました。

では、子どもたちが健全なマスターベーションライフを送るために、家庭では何ができるのでしょう。

今井先生は、「子どものマスターベーションのために意識的に保護者がすること、というのは特にはない」と前置きしながらも、「子どもが1人になる環境を作ってあげること、子どもの時間にあまり介入しすぎないことが大事」と続けます。

子ども部屋があれば空間は確保されますが、部屋がない場合には、日中1人になれる時間を作ったりするなど、子どものプライバシーを見直してみては。

ちなみに、今井先生のおすすめはお風呂。

「裸で1人になれる状況ですし、射精した後にすぐに洗い流せるという観点から、お風呂は子どもにとって気楽にマスターベーションしやすい環境になり得ます」(今井先生)

だから、カラスの行水だった息子のお風呂時間が急に長くなっても詮索せず、決して急かしたりしないこと。

「我が家でも、息子の長風呂をとがめようとする妻を止めたことがありますよ。もし最中だったらかわいそうなのでね(笑)。男親ならなんとなく状況がわかるのですが、母親はやってしまいがちかもしれませんね」(今井先生)

子どものマスターベーションを目撃したら…

また、思春期男子を持つ母親にとって気掛かりなのが、「ついうっかり子ども部屋を開けて、まさに“最中”だったらどうしよう」という点。ただでさえ多感で親へ反抗的にもなりがちな時期に、そんな事件があったら大変! お互いギョッとなりますが、どう対応すればよいのでしょう。

「あまり大袈裟に考えなくても良いと思いますよ(笑)。行為を見られたら、子どもにとってもとても気まずいもの。そんなときは『あ、ごめん!』と一言言うだけで、あまり大きなリアクションを取らないほうがいい。

何も言わずに扉をそっと閉めるだけ、なんて方も多いかもしれませんが、ノーリアクションも気まずいものがあるので、笑って謝ったらいいんじゃないですか。鍵をかけていないトイレを開けてしまったときのように、あくまでライトに接してあげてください」(今井先生)

セックスを考える10代におすすめの本

マスターベーションそのものをタブー視せず、自然な現象や行為として家族で受け止められるような環境であればいい……と頭では分かっていても、思春期を迎えた子どもを目の前にマスターベーションについて話を切り出すのはなかなかハードルが高いところ。

そんなときは、「本棚にそっと、性教育関連の本を置いておくのがいいのでは」と、今井先生。

おすすめは、今井先生も寄稿している『中高生からのライフ&セックスサバイバルガイド』(日本評論社刊)。人に聞きづらい性の悩みや葛藤を、10代に向けてわかりやすく、さまざまなジャンルの識者が解説しています。

「私は中高生へ性教育を伝える仕事もしていますが、実は自分の子どもたち3人にはこれといった性教育をしたことはないんですよ。もちろん幼少期にベースとなる性に対する知識や価値観などは共有してきたつもりですが、思春期にはこの本を買ってそれぞれの机にポンっと置いて、それで終わりでした」(今井先生)

ライターの私も小学校5年生になる息子のために1冊購入した今井先生の共著『中高生からのライフ&セックスサバイバルガイド』(日本評論社刊)。本棚にそっとさしておきます。  写真:遠藤るりこ

同著では、マスターベーションだけでなく、マイノリティ、デートDVなど性に関する話題のほか、いじめ、鬱、親に絶望したとき……など、中高生が直面するであろうさまざまなシーンや生きづらさに対応した回答が掲載されています。精神科医から元AV女優まで、さまざまな人が寄稿し、10代の性に対する考えを多方面から導いてくれます。

「きちんとした知識を持って、いろんな人の話を聞いて、自分で考えること。親子間だとどうしても話しづらかったりするマスターベーションの話は、本に任せてみてもいいと思いますよ」(今井先生)

射精障害や外傷トラブルに発展する習慣

泌尿器科医で男性不妊などを診察することもある今井先生は、「日ごろの射精習慣は、腟内環境とかけ離れたものであってはいけない」と言います。

「不適切なマスターベーションがあるというのは親子ともに知っておいてほしいところです。例としては、陰茎(ペニス)を布団や壁にこすりつけるマスターベーション(通称・床オナ)。これが癖になってしまう人は多いです。

ほかにも、脚をピンとさせた状態で行う(脚ピン)、強く陰茎(ペニス)を握りすぎる(強グリップ)、早く動かしすぎる(高速ピストン)、水流をかける(シャワーオナ)、振動を与える(電マ)などなど、みなさん嗜好を凝らした方法でマスターベーションを楽しんでいらっしゃるのですが、『この方法でないと射精ができない』という状況に陥ると危険なのです」(今井先生)

このような不適切なマスターベーションを続けると、セックスの際に射精ができなくなる「腟内射精障害」になる危険性が高まります。この腟内射精障害は近年増加しており、「聖隷浜松病院のデータでは男性不妊の原因の8%を占めている」と、今井先生は言います。

「特に床オナについては、十分に勃起しないまま射精をする場合がある。この癖がついてしまうと、『完全に勃起をしてしまうと気持ちがよくない』や、『挿入はできるけど射精はできない』などといった事態に陥ってしまうんです」(今井先生)

また、床オナなどの「陰茎をこすりつけることによる刺激」を求めたマスターベーションで、陰茎折症(いんけい・せっしょう)という外傷に発展する場合も。勃起状態にある陰茎に外力が加わって、海綿体白膜(かいめんたい・はくまく)が断裂する外傷で、裂けた白膜を縫い合わせる修復手術を行う必要があります。

このようなトラブルの背景には、思春期からずっと続けてきた不適切なマスターベーション習慣がある、と今井先生。

「人知れずマスターベーションをするために、布団の中でする床オナを覚え、それが習慣化してしまう。これは、思春期の家庭環境に原因があったとも言えます。

子どもたちには、自由にマスターベーションできる空間が必要なんですね。適切なやり方で、腟内の刺激と似た環境で射精できることが重要なのです」(今井先生)

マスターベーションが性犯罪を減らす?

幼少期、性教育の入り口がプライベートパーツの話だとしたら、「思春期の男子にもっとも大事なトピックスはマスターベーション」と今井先生。思春期の次の段階の青年期になると、セックスが現実味を帯びてきます。

「青年期が訪れると、お付き合いをする男女が出てきたりして、よりセックスが身近な存在になるでしょう。好きな相手とセックスをしたいというのは自然な欲求ですが、満たされたマスターベーションライフを送っていれば、その欲求に振り回されることがありません」(今井先生)

男女間で性についての齟齬(そご)が生まれないためにもマスターベーションが大事である、って一体どういうことでしょう。

「思春期・青年期の男子の中には『彼女ができて、セックスができるようになったから、マスターベーションは卒業』だと思っている人もいます。対する女性は、『私という存在がありながら、なんでマスターベーションするの!』なんて人もいるでしょうね。

そうすると、『俺はこんなにセックスがしたいのに、なんでやらせてくれないんだ!』とか、すれ違う原因になってしまう。確かにセックスはマスターベーションの延長線にあるものですが、両方が存在していいもので、別の行為だと捉えるべきなんです」(今井先生)

自らの性欲がコントロールでき、そういった価値観が根付いていると、「自分はしたいけど相手はしたくない。だったらマスターベーションで処理すればいいか」と、気持ちを落ち着かせることができます。

今井先生はいつも、「セックスをしたいと思ってもまずはマスターベーションを」と勧めます。

「最近、娘に『ロバート秋山さん(KENZENコブラ)が“抜きゃいいじゃん”って歌う曲(※1)、お父さんがいつも主張してることと一緒だね!』と言われ、爆笑するとともに感銘を受けました。

この曲は、射精道・思春期編の第16条『セックスをしたいと思っても、まずオナニーすべし(冷静になれる)』そのもので、よくぞ歌ってくれましたという感じ。

男女ともに満足できるセックスをするには、心・技・体が伴わないといけない。そうなるまでには、たくさんマスターベーションをしてほしいですね」(今井先生)

近年話題になる性犯罪も、正しいマスターベーションの知識と実践によって回避できる面もあったのかもしれません。

─・─・─・─・

ライターの私自身、男児のママですが、センシティブな話題のような気がして、避けてきたマスターベーションの話。

でも、思春期の子どもの性と向き合うには、けしてすっ飛ばさず、必ず面と向かわなければならない、重要なトピックスだということがよくわかりました。

※1“抜きゃいいじゃん”=お笑い芸人・ロバート秋山氏がテレビのバラエティ番組で披露したオリジナル曲『Are you KENZEN?~僕らの魔法~』内のセリフ。事前に抜いて(射精して)おくことがトラブルを防ぐと強く訴え、男性の性欲の真髄をつく名曲と話題に。

思春期、青年期、妊活、中高年、射精障害克服編など、年代に応じた性生活・射精生活の心構え、その問題と対策を解説した今井伸先生の著書『射精道』(光文社新書)。

取材・文/遠藤るりこ

※「子どものマスターベーション」で親が知っておくべきこと は全3回(公開日までリンク無効)
#1
#2

いまい しん

今井 伸

Shin Imai
泌尿器科医

1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。

1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe