子どもにとっては楽しいことがいっぱいの夏休み。しかし親御さんのなかには、子どものゲーム時間が増えることを心配をする人が多いのではないでしょうか。
「子どもが健康的にゲームを楽しむために(3回)」では、Dr.GAMESの理事・阿部智史(さとし)さんと、代表の近藤慶太さんにインタビュー。ゲームが好きな子どもに親御さんがどう接したらいいのか、また、ゲームが子どもにもたらすメリットとデメリットを探っていきます。
<子どもが健康的にゲームを楽しむためにシリーズ>
第1回 ←今回はココ
ゲームで受験失敗…医師になったガチゲーマーが「ゲーム業界に恩返し」したいワケ
第2回
「ゲーム障害」は依存症…子どもから奪うのがNGな理由「専門家に頼るタイミング」医師が解説
第3回
子どもが「課金ゲーム」 ガチゲーマーの医師からのスゴいアドバイスとは
第1回はDr.GAMES理事である、阿部さんの半生を紐解きます。阿部さんは医師であり、パズルゲームのランキングで日本一になったこともある「ガチゲーマー」。
高校時代はゲームにのめり込んで受験に失敗。フリーターとして過ごした後、一念発起して医師の道に進みます。現在は勤務医として活躍しながら、自身の経験を生かして、医療の面からゲーマーをサポートする活動をしています。
進学校の生徒から仕送りゼロの「フリーター」に
──阿部さんは学生時代、いわゆる「ガチゲーマー」だったそうですが、どういった経緯で医師になったのですか。
阿部智史さん(以下阿部、敬称略):私は東京の「御三家」と呼ばれる中高一貫校に通っていました。中学生のうちは普通にゲームを楽しんでいたのですが、高校でオンラインゲームに熱中する友人が増え、周囲に触発され、私もゲームに熱中するようになりました。
ゲーム生活に拍車をかけたのは、一人暮らしをはじめたことです。実家から高校が遠いため決断したことですが、結果的には私の家が友達の溜まり場になってしまって。ゲームのスキルを上げることだけに、特化した生活を送っていました(笑)。
──高校生で一人暮らし! うらやましい気持ちもありますが、親としては心配です。
阿部:じつは家が遠いからというのは表向きの理由で、本当は親とうまくいっていなくて。ゲームを注意されることが苦痛で、自由になりたい気持ちから家を飛び出しました。
いま振り返ってみると、親の言っていることは正しかったのですが、その時は気付くことができませんでした。あの頃が、反抗期のピークでしたね。
一方で大学受験は、親族に医療関係者がいたことから漠然と「医療の道に進む」と考えていました。当たり前ですけど、中途半端な思いでは医学部に合格できなくて、親との関係はさらに悪化。仕送りがストップし、私はフリーターになりました。
ゲームにのめり込んだ本当の理由
──そこからもう一度、医学部を目指すことになったきっかけを教えてください。
阿部:ファミリーレストランでアルバイトをし、働く以外の時間をゲームに費やす日々が、2年ほど続きました。ある日、アルバイト先から社員にならないかと提案され、自分の人生を改めて考えてみたんです。
アルバイトは進学校では出会えなかった人と仲良くなれたし、ゲームに熱中する時間がとれるし、楽しかった。でも、当時の私がなぜゲームにのめり込んでいたのかというと、親とうまくいかないことが大きく関わっていたのだと思います。
阿部:ゲーム障害(※)に陥ってしまう人の多くはゲーム以外の問題、特に人間関係に問題を抱えている人が多いと言われています。そのような状態にある人からゲームを奪おうとすると、より問題が悪化してしまう。依存症の一種なので、慎重に対応する必要があります。
(※「ゲーム障害」は「ゲーム症」「ゲーム行動症」という名称もありますが、この記事では「ゲーム障害」で統一して表記します)
私の場合は、受験に失敗したりフリーターになったりと紆余曲折ありましが、これからの人生を考えたとき、もう一度、医学部受験に挑戦したいと思ったのです。その結果、猛勉強をして無事に合格することができました。あの2年間は私にとって、寄り道ではなく「成長の糧」となる時間だったと思います。
ゲーム業界を医療で支えるための団体を設立
──現在のお仕事と、Dr.GAMESを立ち上げたきっかけを教えてください。
阿部:私は東海大医学部付属病院の総合内科に勤務しながら、同じ市内のクリニックで院長を務めています。私生活では昨年、一児の父になりました。もちろん学生やフリーター時代のように遊ぶことはできませんが、今もなお、ストレス発散としてゲームを活用しています。
Dr.GAMESを立ち上げた理由には、esports(※)界隈が盛り上がるなか、医療面でのバックアップが弱いと感じていたことが一つ挙げられます。
(※esports(eスポーツ)は電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉で、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称)
体を動かすスポーツの大会なら、体調を崩したときや怪我をしたときは、医療スタッフが全面的にバックアップします。しかしesportsの大会には、体調をフォローするスタッフがいない。そこに違和感を覚えました。
それなら本気でゲームをやってきて、総合診療医で、ある程度の広い分野を診察することができる自分が、esportsをフォローするのが適任だと考えてたんです。
そんなとき、ある病院の研修でDr.GAMES代表の近藤慶太と出会いました。近藤は大学生のとき、謎解きイベントをつくるサークルを立ち上げていて、謎解きと医療を組み合わせられないかと試行錯誤していました。
近藤も私も、ゲームと医療の組み合わせで人を助けたい、という思いが一致。ゲームが好きな医者や看護師、薬剤師をあつめてDr.GAMESを立ち上げることになりました。
──Dr.GAMESで取り組んでいることを、具体的に教えてください。
阿部:esportsの大会での救護や、esports関連会社の産業医、esportsプレイヤーの健康問題を明らかにするための研究などもおこなっています。今後はプレイヤーが外来受診できるようにも調整中です。
また、esportsを学ぶ専門学生に向けて、授業もおこなっています。ゲームに携わる若者たちが健康的にプレイするために、必要な睡眠や生活習慣、栄養などを教えています。
esportsに関わる人以外にも、ゲームの関わり方に悩む人が、気軽に話せる相談会もおこなっています。ゲームに熱中しすぎてしまう人や、そのご家族で悩みを抱えていたら、ぜひDr.GAMESのWebサイト「ゲーマーお悩み相談室」へ、相談してみてください。
阿部:医者の業務をしながら活動しているので心配されることもありますが、Dr.GAMESの活動は、私にとって趣味のようなもの。たくさん楽しませてもらってきたゲーム業界に、少しでも恩返しできたらと考えています。
【Dr.GAMES阿部智史さん、近藤慶太さんへのインタビューは全3回。第1回は、阿部さんの半生と、Dr.GAMESを立ち上げた経緯について、第2回では、ゲーム障害の定義とゲームに熱中しているお子さんとのつきあい方について、第3回では、ゲーム課金や時間についての解決法と、ゲームを遊ぶことのメリットについて伺います(第2回は7月13日公開、第3回は7月14日公開予定)】
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
Dr.GAMES
Dr.GAMESは、ゲームと医療の掛け合わせによって、人々の健康に寄与する活動を行う一般社団法人。総合内科医、総合診療医/家庭医、精神科医、外科医、救急看護師、薬剤師ら医療職とゲームクリエイターによって構成されている。 事業内容は、esportsアスリートの健康管理、esports大会の医療サポート、医療監修/ゲーム障害、ゲーム依存症の治療法についての研究と啓発/医療知識の啓発のためのゲーム作り、ゲームを用いた治療法の探索、など。 Dr.GAMES Webサイト https://dr-games.jp
Dr.GAMESは、ゲームと医療の掛け合わせによって、人々の健康に寄与する活動を行う一般社団法人。総合内科医、総合診療医/家庭医、精神科医、外科医、救急看護師、薬剤師ら医療職とゲームクリエイターによって構成されている。 事業内容は、esportsアスリートの健康管理、esports大会の医療サポート、医療監修/ゲーム障害、ゲーム依存症の治療法についての研究と啓発/医療知識の啓発のためのゲーム作り、ゲームを用いた治療法の探索、など。 Dr.GAMES Webサイト https://dr-games.jp