近年、親御さんの悩みに多いのが、子どもとゲームのつきあい方。「下校後は家から出ずにゲームをしている」「夏休みはゲームばかりしていて不安」など、悩みはつきません。
2019年には、WHO(世界保健機関)がゲームに依存する状態を「ゲーム障害(※)」という病であると認定しました。ゲーム障害とは、どういった病気なのでしょうか。
この記事では、一般社団法人「Dr.GAMES」代表の近藤慶太さんと理事の阿部智史(さとし)さんに、ゲーム障害の定義と、ゲームに熱中するお子さんとの関わり方で気をつけるべきことを伺いました。
「Dr.GAMES」は、医療とゲームを掛け合わせて、人々の健康に寄与したいと考えている団体です。阿部さんも近藤さんも、医師として働くかたわら、ゲーマーを健康面でフォローしたいと考え、活動しています。
(※「ゲーム障害」は「ゲーム症」「ゲーム行動症」という名称もありますが、この記事では「ゲーム障害」で統一して表記します)
<子どもが健康的にゲームを楽しむためにシリーズ>
第1回
ゲームで受験失敗…医師になったガチゲーマーが「ゲーム業界に恩返し」したいワケ
第2回 ←今回はココ
「ゲーム障害」は依存症…子どもから奪うのがNGな理由「専門家に頼るタイミング」医師が解説
第3回
子どもが「課金ゲーム」 ガチゲーマーの医師からのスゴいアドバイスとは
ゲーム障害は「依存症」
──ゲームを1日何時間プレイすると「ゲーム障害」と診断されますか。
阿部智史さん(以下阿部、敬称略):「1日何時間もゲームをしているのですが、うちの子はゲーム障害でしょうか?」などと、親御さんから質問されることがあります。
多くの時間をゲームに費やすことが、ゲーム障害の症状のひとつではありますが、それだけでゲーム障害と診断される訳ではありません。いろいろな条件を含んだ診断基準があり、それに沿って専門家によって診断されます。
近藤慶太さん(以下近藤、敬称略):時間ではかることができない理由のひとつに、ゲーム時間だけを明確に区切るのが難しいということがあります。
現代の子どもたちは、ゲーム機以外にも、スマートフォンやタブレットなどさまざまなデジタル機器でゲームをしています。さらにスマートフォンは、いろいろな理由で使用しますよね。
ゲームをしていることもあれば、何かを調べるときもあるし、SNSで友達とやりとりすることもある。ゲームの時間だけを正確にはかることは困難です。
──では、どういった点から「ゲーム障害」と診断されるのでしょうか。
阿部:ゲーム障害の診断で焦点となるのは、日常生活に支障が出ていないかどうかです。診断基準の特徴として、以下のような行動や状況があげられています。
・ゲームのコントロールができない。
・他の生活上の関心ごとや、日常の活動よりも、ゲームを優先している。
・問題が起きているがゲームを続ける。または、より多くゲームをする。
阿部:「日常の活動」とは、学校に行けない、仕事に行けない、といったこともそうですし、睡眠や食事などをおざなりにしてしまうことにもあてはまります。すべてを脇に置いて、ゲームに依存している状態です。
──ゲーム障害は、アルコールなどで起こる「依存症」と同じ病ということですか。
近藤:そうです。「ゲーム障害」という名称から、軽く受けとめられてしまいがちですが、依存症の一種です。しかし、「うちの子はゲーム障害かもしれない」と親御さんが考えていても、実際にゲーム障害だと診断されるケースはあまり多くはないのでは、と思っています。
また、もしお子さんにゲーム障害の懸念があったとしても、小学生くらいの小さなお子さんに対してゲーム障害の診断をつける意義があるかは疑問です。
現状、ゲーム障害に特効薬はありませんし、診断はなくても適切な支援を受けることはできます。また、「自分はゲーム障害があるから、何事もうまくいかない」と、誤った拠り所をつくってしまい、悪循環になりかねないからです。
子どもからゲームを奪うのはNG 困ったら専門家を頼って
──ゲーム障害の疑いのあるお子さんへの、適切な対処法を教えてください。
阿部:診断をくだすよりも大事なことは、ゲームに熱中してしまう理由です。
先にあげたゲーム障害の定義には、重症化すると「個人、家族、社会、教育、職業やほかの重要な機能分野において著しい障害を引き起こしている」とあります。
ゲーム障害と診断される人の多くは、学校や友達、家族など、人間関係に問題を抱えている場合が圧倒的に多く、問題から逃れるために、よりゲームにのめり込んでしまう傾向にあります。
阿部:注意してもらいたいのは、そういった子からゲームを取り上げてしまうこと。お子さんにとって、ゲームが救いの場になっていることもあります。リアルでは友達をつくれないけど、オンラインの友達はいる子も、たくさんいます。
また、親御さんとの関係が、ゲームに逃避する理由になってしまうことも、よくあることです。私自身、親の重圧から逃れるために、ゲームにハマっていた時期がありました(※「ゲームで受験失敗…医師になったガチゲーマーが「ゲーム業界に恩返し」したいワケ」)。
そういった場合は、親子で解決しようとすると、亀裂がより深まってしまう場合もあります。
近藤:家族だけではどうしても解決できない場合は、ぜひ、専門家に頼ってください。私たちのサイトには「ゲーマーお悩み相談室」というフォームがあります。ゲーマー本人はもちろん、親御さんも、気軽に悩みを相談してくれたらと思っています。
近藤:「Dr.GAMES」では定期的に、インターネットやゲームの過剰利用や、依存に困っている人同士の相談会をおこなっています。この場では、ゲーム障害の診断や、治療をおこないません。同じような悩みを持つ人が意見交換をしたり、悩みの共有をしたりすることが目的です。
阿部:私たちは、ゲームが大好きな医療従事者と、ゲームクリエイターによって構成されています。相談会で話したことは決して口外しません。緊急性や重症度の高そうな場合は、受診をお勧めすることもあります。
ゲーム好きな私たちだからこそ、アドバイスできることはたくさんあります。悩んでいる方は、気軽に問い合わせてみてください。
【Dr.GAMES阿部智史さん、近藤慶太さんへのインタビューは全3回。第1回は、阿部さんの半生と、Dr.GAMESを立ち上げた経緯について、第2回では、ゲーム障害の定義とゲームに熱中しているお子さんとのつきあい方について、第3回では、ゲーム課金や時間についての解決法と、ゲームを遊ぶことのメリットについて伺います(第2回は7月13日公開、第3回は7月14日公開予定)】
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
Dr.GAMES
Dr.GAMESは、ゲームと医療の掛け合わせによって、人々の健康に寄与する活動を行う一般社団法人。総合内科医、総合診療医/家庭医、精神科医、外科医、救急看護師、薬剤師ら医療職とゲームクリエイターによって構成されている。 事業内容は、esportsアスリートの健康管理、esports大会の医療サポート、医療監修/ゲーム障害、ゲーム依存症の治療法についての研究と啓発/医療知識の啓発のためのゲーム作り、ゲームを用いた治療法の探索、など。 Dr.GAMES Webサイト https://dr-games.jp
Dr.GAMESは、ゲームと医療の掛け合わせによって、人々の健康に寄与する活動を行う一般社団法人。総合内科医、総合診療医/家庭医、精神科医、外科医、救急看護師、薬剤師ら医療職とゲームクリエイターによって構成されている。 事業内容は、esportsアスリートの健康管理、esports大会の医療サポート、医療監修/ゲーム障害、ゲーム依存症の治療法についての研究と啓発/医療知識の啓発のためのゲーム作り、ゲームを用いた治療法の探索、など。 Dr.GAMES Webサイト https://dr-games.jp