部活指導はタダ働き…教員の「ブラック労働」を現役教師に取材

子どもの教育のためにも「ブラック部活」の改善を!「教員の労働問題」#1

労働・子育てジャーナリスト:吉田 大樹

人材不足やブラック労働など、教員の労働問題が注目されている。中でも深刻とされているのが部活指導だ。富山で起きた中学教諭の過労死が「部活動などによる業務が過重だった」と認める判決が出たことも、大きな話題となった。(2023年7月)

深刻化する教員の労働問題について、現在、こども家庭庁「幼児期までのこども育ち部会」委員を務め、小・中・高でもPTA会長を経験した、労働・子育てジャーナリストの吉田大樹氏が取材。

▲教員の労働問題の中でも深刻とされているのが「部活指導」だ(写真:アフロ)

やりがい搾取ともいえる状況

皆さんはディーセント・ワークという言葉をご存じだろうか。国際労働機関(ILO)が提唱するもので、ILO駐日事務所のホームページによると、「働きがいのある人間らしい仕事、より具体的には、自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、全ての人のための生産的な仕事」のことを言うとされる。

いまの教師の働き方に照らし合わせてみると、そこからはほど遠いものに見えてしまう。やりがい搾取とも言えるべき状況だ。21時や22時くらいまで、学校の職員室の明かりが点いている光景も日常茶飯事だ。

教科を教えるという狭い意味での「教育」をはるかに飛び越え、児童・生徒の生活指導や進路指導、保護者やPTAの対応、さまざまな行事・イベント、そして、中学生以上になれば部活動(※)と、どう考えても1人の教師ではこなせない範囲を「教育」という名の下に詰め込んでしまっている。(※註:小学校から部活動が行われる地域もある)

こうした中で、部活動の問題は、教師の長時間労働の一端を担っていると言っても過言でないだろう。

そこで、部活動問題について教師の立場から声を上げている「PEACH」(全国部活動問題エンパワメント、Passionate Empowerment Against Club Harassment)の代表・加藤豊裕(かとうあつひろ)さん(愛知県一宮市立小学校教諭)に現状の課題などについて話を伺った。

▲「PEACH」(全国部活動問題エンパワメント、Passionate Empowerment Against Club Harassment)の代表・加藤豊裕(かとうあつひろ)さん(愛知県一宮市立小学校教諭)

部活動で悩む教師たちに寄り添う活動

加藤さん自身、部活動の問題で10年間ほど悩まされてきた過去を持つ。中学校教諭として採用された初任地の学校では、校長から言われるがままに未経験のハンドボールの部活動顧問に。

「ハンドボールは接触プレーも多く、生徒がケガをするリスクもあります。展開も速く、スピードがあり、審判を務めるのも難しく、体力的にもきつかったですね。平日の時間外勤務はもちろん、土日も練習や大会で休む暇がなく、あまりのハードさに驚きました」と当時を振り返る。

こうした中で部活動への不信感が高まり、部活動問題を考える組織に所属し、そこで部活動の顧問が拒否できることを知る。それから、2021年11月に部活動問題専門としては全国初の教職員組合「愛知部活動問題レジスタンス(IRIS)」を設立し、部活動問題で悩む声を拾い上げていった。

さらには、「全国でも同じような思いをしている人がいるんじゃないか」という思いから、翌月には全国組織となるPEACHの設立に動いた。今年6月現在、全国で25の団体が加盟している。

「部活動問題に取り組んでいられるのは、自分自身10年間苦しんだ思いがあるから」と加藤さん。こうした思いの中で、活動を通じて得られた変化について、次のように語る。

▲部活指導は、平日の時間外勤務だけでなく、土日に及ぶこともある(写真:アフロ)

「部活動の顧問を拒否しようしている教師たちに対して、具体的なアドバイスができるようになりました。それによって、実際に顧問を拒否できた人も現れました。いろんな教師から相談を受け、ケースに合わせたアドバイスができるようになったと思います」

「ちょっと背中を押しただけで自分なりに取り組める人もいますが、一方でかなり支援が必要な人もいます。私たちの活動をきっかけに、自分の地域で顧問の拒否活動をしている人もいます。他の教師たちの生き方に関わり、変化をもたらしているということが、この活動をやってきて良かったことだと実感しています」


ただ一方で、加藤さんはこう課題を挙げる。

「顧問拒否がまだまだ大きな動きにはなり得てないことです。地域に根差した広がりにはなっていませんし、全国的に見てもSNSで大きなムーブメントにはなっていないのも事実です」

「依然として拒否までするのはどうなのか、みたいな考え方が多いように思います。せっかくPEACHにご相談をいただいても、相談者の自治体や勤務校に具体的に働きかける段階になると躊躇してしまう方が多い状況です。しかし、地道に活動をする中で、顧問拒否が浸透してきているのも事実です。ちょっとずつでも、意識の上での変化は起きているのかなと思います」

相談者には20代や30代の教師が多いという。こうした背景には、20~30代の教師の割合が増加している面もあるように思える。

公立中学校の教員の年齢構成をみると、「55~60歳未満」が17.7%と最も多いが、次いで多いのが「30~35歳未満」で14.0%となっている(文部科学省「令和元年度学校教員統計調査」)。

この世代は、同時に子育て期にも当たる。男性教員であろうと女性教員であろうと、子育てをする中で、平日の勤務時間外や土日に部活動の対応をし続けるのは、難しい時代にもなってきている。

教師のコンディションが良いこと=子どもにとっても良い教育環境に

このまま教師の長時間労働が続くなど、労働環境の改善が進まなければ、どのような弊害が起こり得るだろうか。

教師という職業が次世代に魅力的に映らなければ、間違いなく今後教師の志望者が減り、教育の質の低下を招くことになりかねない。それは、子どもたちにとっても、良い影響があるとはとても思えない。加藤さんに教師の立場から、こうした指摘にどう向き合うのかを尋ねてみた。

「一般的なことで言えば、子どもにとっての良い教育環境とは、教師のコンディションが良いこととイコールだと思います」

▲教師が良いコンディションでいられることは、子どもにとっての「良い教育環境」づくりには欠かせない要素(写真:アフロ)

「教師のコンディションが悪ければ、授業から学級経営に至るまであらゆることに影響を及ぼします。子どもたちの教育を良くしようとすることは、教師のコンディションを良くすることだ、ということをご理解いただきたい」

「特に部活動にフォーカスをして言えば」と続ける加藤さんは、スポーツ庁が2018年3月に策定した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」と、文化庁が同年12月に策定した「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」について言及した。

ちなみに、このガイドラインでは、「適切な休養日等の設定」として、以下の項目を盛り込んでいる。

○学期中は、『週当たり2日以上の休養日』を設ける。(平日は少なくとも1日、土曜日及び日曜日(以下「週末」という。)は少なくとも1日以上を休養日とする。週末に大会参加等で活動した場合は、休養日を他の日に振り替える。)

○長期休業中の休養日の設定は、学期中に準じた扱いを行う。また、生徒が十分な休養を取ることができるとともに、運動部(文化部)活動以外にも多様な活動を行うことができるよう、『ある程度長期の休養期間(オフシーズン)』を設ける。

○1日の活動時間は、長くとも『平日では2時間程度』、『学校の休業日(学期中の週末を含む)は3時間程度』とし、できるだけ短時間に、合理的でかつ効率的・効果的な活動を行う。

(※『』は筆者による)

「このガイドラインは、いわゆるブラック部活を防止しようというものです。多くの世間の人たちは、国のガイドラインを守っていれば、ブラック部活ではないはずだと思っていると思います」

「ただ、逆に言うと、ガイドラインを守っている部活動であれば、適正な部活動だと思ってしまうのではないでしょうか。我々の立場からすれば、時間外勤務に及ぶのであれば、それはブラック部活と変わらないと考えています」

「いわゆる給特法(※)において、『教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない』と定められていますが、部活動は時間外勤務が前提です。たとえガイドラインを守っていたとしても、それが時間外勤務であるならば、タダ働きであるとPEACHとしては訴えています」


と力説した上で、加藤さんは続ける。

(※「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の略)

「ここで保護者との間で、認識の乖離が生じると思います。『ブラック部活がダメ』は全員が合意できる点だと思いますが、ガイドラインさえ守っていればいいよね、というのが保護者の認識かもしれません。しかし、PEACHとしてはそれでもダメだと主張しています」

「時間外勤務の部活動は、合法的には存在し得ません。給特法が現状のままである限り、認めることはできないんです」

教員への負担をなくす「地域移行」には賛成だが…

そして、いま進められようとしている部活動の「地域移行(※)」についても話が及ぶ。(※部活動の地域移行:これまで学校教員が担ってきた部活動の指導を、地域団体や関係事業に担ってもらうこと)

「地域移行については、主に休日だけが対象にされてしまっていて、平日についてはどうも手付かずのようです。ちなみに、公立高校については地域移行の対象にすらなっていません。我々の思いと世間の人々の思いのズレは、部活動が廃止されない限り、解消されないのではないでしょうか」

「地域移行について反対しているわけではありませんが、結局、地域移行は部分的な負担解消策でしかなく、教師への負担がまるでなくなるかのような言い方には困惑しています」

▲スポーツ庁と文化庁の両庁名で「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」が策定されている(2022年12月)

確かにこれまで保護者が学校側に期待するものの中に、部活動があったのも事実であろう。

部活動に積極的に関わることで、進路などにも影響を及ぼすという見方も依然として強い。教師が部活動の顧問となることが過度な負担になっていることを直視しないようにしてきた面もある。

部活動の地域移行が進むということは、保護者側がその問題について直視することにほかならない。同時にそれは、教師の働き方を考える契機にもなるはずだ。

地域移行については、地域ごとに進捗状況も異なる。ある現役の教師からは、「国が各自治体に丸投げしてしまっていて、逆にどう進めていいのかわからない状況」と嘆いていた。

つまりは、教師の働き方をどうしたいのか、という要素の1つに部活動があり、各自治体やその教育委員会がどのように対応を進めるかで状況は変わりそうだ。

部活指導やるならば財源は

加藤さんはさらに付け加える。

「部活動の顧問をやっているのは業務としてやっているわけではなく、なぜか持たされているんです。地域移行は、教師が依然として顧問であること、を前提として議論されてしまっている面もあり、それがそもそもおかしい、ということに気づいてほしいと思います」

「地域移行になれば、費用負担をどうするのかという議論もありますが、現状教師がタダ働きをさせられているわけですから、そこの問題にちゃんと焦点を当ててほしいと思います」


一方で、保護者負担という話が出てきてしまうと保護者の理解が進まないのも事実だ。その点、加藤さんは、「国が費用負担をすれば保護者も教師も丸く収まるんです」と強調する。

これまで給特法を盾にして、教師に部活動を押し付けてきたという側面もある。国が、子どもたちの教育のために部活動が必要だと位置づけるならば、当然そこには財源が必要になるところ。

この4月からこども家庭庁が発足し、「こどもまんなか社会」の実現を柱にする中で、教育現場は依然として文部科学省の所管のままだ。しかし、その理念は省庁の枠を越えて共有されるべきもの。財源についても、国がしっかりと議論をすることが求められる。

声を上げる教師を増やしたい

今後、教師の労働問題を改善し、そしてより良い教育環境を子どもたちに与えるために必要なものは何であろうか。

「英語で言えば、スピークアップ、スピークアウトということ、つまり、教師がもっと声を上げることです。現状、不満や愚痴を言っているだけに過ぎません。相談者の自治体に対して一緒に告発しませんか、と言っても結局しぼんでしまうことが多いです」

「けど、それだと変わらないんです。一部の教師の考えが広まっていくだけじゃダメで、普通の教師たちが発信し続けることが必要です。肝心の教員自身が堂々と率直に思いを語り始めない限り変わらないと思います」


教師が声を上げられるためには、保護者側の意識を変えていく必要もある。教師を聖職扱いしすぎてきたがために、冒頭で取り上げた「ディーセント・ワーク」で言う「人間らしい仕事」に引き戻してあげる必要があるのではないだろうか。加藤さんの話を聞いて、保護者の理解を進める必要性も強く感じるに至った。

【〈教員の労働問題〉連載は前後編。前編では教師の業務における部活動問題を「PEACH」(全国部活動問題エンパワメント)代表・加藤豊裕氏に取材、後編では日本の教育現場が抱える問題とその背景について、名古屋大学教授の内田良教授に取材する】

引用・出典・参考
学校教員統計調査-令和元年度(文部科学省)
学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン(スポーツ庁)
運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(スポーツ庁)
文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(文化庁)
運動部活動の地域移行について(スポーツ庁)

よしだ ひろき

吉田 大樹

労働・子育てジャーナリスト、NPO法人グリーンパパプロジェクト代表理事

1977年東京生まれ。札幌出身、埼玉県鴻巣市在住。日本大学大学院法学研究科政治学専攻修了(政治哲学)。 2003年より労働関係の...