親は意外と知らない「教科書」最新事情 ICT活用で大きく変化・現代ならではの物語も

「教科書クロニクル」で再発見!教科書が100倍面白くなる編集秘話 #3

高木 香織

昔の教科書と今の教科書ってずいぶん違う?

『ごんぎつね』『白いぼうし』『走れメロス』……「覚えてる~!」という方も多いのではないでしょうか。教科書を作っている出版社・光村(みつむら)図書が公開している「教科書クロニクル」が話題になっています。

「教科書クロニクル」は、入力した生年月日に対応する「国語の教科書」(小学1年~中学3年まで)を検索できるシステム。改めて見ると、昔の教科書と今の教科書ってずいぶん違うようです。

「教科書クロニクル」わたしの教科書検索(光村図書ウェブサイトより)

いちばん大きな変化は、デジタルの登場です。QRコンテンツって、どう使えばいいの? 「デジタル教科書」って誰にやさしい? そんなことを知りたくて、光村図書広報部長の木塚崇さんと編集部長の山本智子さんに、お話を伺ってきました!

QRコンテンツから音声や動画を楽しめる

──今の教科書は、オールカラーでとってもきれいですね。とりわけ和歌や俳句など古典のページの写真は色鮮やかで、いつまでも開いていたくなります。

山本さん:「活字離れ」とよく言われますけれど、それ以上に今の子どもたちには、古典がまるで遠い国の言葉のように感じられています。「何この言葉、掃除より嫌い」って……。比べるものが算数や英語などの教科ですらない。だから、平家物語の勇壮な合戦のシーンを迫力のあるイラストにしたり、若葉や紅葉など、季節を感じられる自然の美しい写真を掲載したりして、なんとか興味を持ってもらおうと工夫しているんですよ。

教科書連動コンテンツ(QRコンテンツ)の例(光村図書ウェブサイトより)

──テレビや映画の時代劇も少なくなりましたし、古典は耳馴染みのない言葉かもしれませんね。

山本さん:それで、古典など音声や解説が必要なページには、教科書連動コンテンツ(QRコンテンツ)をつけるようにしました。スマートフォンで読み取ると、音読を聞くことができます。「話すこと・聞くこと」のスピーチ動画や学習の参考になるコンテンツにアクセスすることもできるんです。

──なるほど、これは便利ですね! 文字だけでは理解しにくいことが、わかりやすく伝わってきますね。

国語のデジタル教科書にも楽しい工夫がたくさん!

──学習者用のデジタル教科書もだいぶ使われ始めているようですね。

山本さん:以前は「令和10年ごろにはなんとか始まるかな」と予想していたのですが、コロナ禍で一気に普及しました。小中学生には一人1台タブレットが配備されましたので、英語のデジタル教科書は令和4年度から実際に授業で使われています。今は、紙もデジタル教科書も併用して使われていますね。

──紙の教科書とどこが違うのですか。

山本さん:内容は紙もデジタルも同じなんです。たとえば英語のデジタル教科書は、ネイティブの音読が聞けたり、アニメーションなどの映像教材がたくさん入っていて、楽しいですよ。

デジタル教科書(光村図書出版ウェブサイトより)

──国語はいかがですか。

木塚さん:すべての漢字にふりがなを表示できるので、漢字が苦手なお子さんの味方になってくれそうです。また、カラオケのように、読み上げている声に合わせて文字に色のラインが引かれていくので、どこを読んでいるのかもわかりやすい。

文字の色や背景を自分の好きな色にすることも、字を大きく拡大して読むこともできます。また、自分の考えを整理したり、友だちと話し合いたくなるような「マイ黒板」もあって、楽しいですよ。今は紙の教科書と一緒に作ってはいますが、無償ではなくて、必要な学校が購入するかたちになっています。

デジタル教科書にはさまざまな機能がある(光村図書出版ウェブサイトより)

──タブレットなら、指でページをめくるのがつらいお子さんも助かりそうですね。使いたい方は、どうすれば手に入れられますか。

山本さん:国語のデジタル教科書は、個人では購入できないので、学校の担任の先生に相談してみてください。

動画でわかる! 学習者用デジタル教科書+教材 体験版ポイント解説―令和6年度版小学校「国語」教科書―

『星の花の降るころに』 女子の心をつかむ安東みきえ作品

──教科書の作り手として、愛着のあるお話はありますか。

山本さん:多感な中学生の女の子に大人気の、『星の花の降るころに』という作品が心に残っていますね。安東みきえさんに書き下ろしていただきました。

女の子同士の心のすれ違いのお話なのですが、登場人物の戸部君がとってもいい味を出している。お話の最後はオープンエンドになっていて、すれ違ってしまったお友だちとまた仲良くなるのか、そのまま離れてしまうのか「このあとどうなるかわからない」まま終わるんです。

──子どもたちがその後を想像する、余韻が残されているんですね。

『星の花の降るころに』(安東みきえ作、中学1年)……去年の秋、白く小さな星のような銀木犀の花が散る中で夏美と笑いあった私。「ずっと親友でいようね」と約束したのに、小さなすれ違いで心が離れていきました。そんな二人をサッカー部の戸部君が遠くから見つめ、私がやるせなく泣きそうになっているとさりげなく笑わせてくれます。掃除のおばさんに「常緑樹だって、古い葉を落として新しい葉を生やす」と聞いた私は、夏美との思い出の銀木犀の花を木の下に蒔き、「きっとなんとかやっていける」と歩いていくのでした。〉

山本さん:平成9年には、『そこまでとべたら』という作品を書き下ろしていただきました。安東さんがデビューしたてのころで、初めてご一緒したお仕事でした。

ちょうど安東さんご自身のお子さんが中学生だったので、「イメージを持って書ける」と取り組んでいただけたのですが、『星の花の降るころに』のころにはお子さんも大きくなってしまって。「子どもも大きくなったから、もう書けない」と言うのを、「大丈夫、大丈夫」とまるで根拠のない励まし方をして(笑)書いていただきました。

作品ができあがってみたら、中学生の女の子たちの心をしっかりつかんで、たくさんの子どもたちが読んでくれたんですよ。

『そこまでとべたら』(安東みきえ作、中学1年)……わたしは容態が悪くなったじいちゃんの見舞いに病院に向かいます。じいちゃんは、いつもわたしに「つまらないと思うことはやらなくていい。自分がいいと思うことをやれ」と言っていました。わたしはじいちゃんがよくなるようにと願掛けをして、病院の庭で目標を決めて幅跳びをします。病室に戻ると、じいちゃんの意識は戻っていました。わたしはじいちゃんに「陸上部に入る」とつぶやきます。「することとしないこと」がわかった私は、今度は自分ですることを決めたのです。〉

──教科書の向こう側にいる、作り手たちのあたたかなまなざしが目に浮かぶようです。デジタルの登場で、教科書の姿も大きく変わっていくことでしょう。その中にあって、これからも教科書に関わる人たちは、子どもたちの幸せを願って、教科書を編集し続けていくのだと感じました。

(左)山本智子さん:編集部長。長年、中学国語の教科書編集に携わる。どうしたら子どもたちに国語を好きになってもらえるか、日々考えている。

(右)木塚崇さん:広報部長。「学校で教わっているときはつまらないと思うかもしれないけれど、大人になってもう一度読むと、絶対面白いと思えるお話がいっぱいです」

【光村図書への取材記事は全3回。第1回では「国語教科書クロニクル」の開発を担当した広報部長の木塚崇さんに、第2回では、教科書の編集部長の山本智子さんに「教科書づくりの知られざる裏側」についてお話を伺いました。続く第3回では、「デジタル教科書」や現代の子どもにむけた物語についてなど、最新の教科書事情について紹介しました】

夜叉神川(安東みきえ:著)
全ての人間の心の中にある恐ろしい夜叉と優しい神、その恐怖と祝福とを描く短編集。「川釣り」「青い金魚鉢」「鬼が守神社」「スノードロップ」「果ての浜」 夜叉神川の上流から下流へ、そして海へと続く全五話を収録。
野間児童文芸賞受賞後初作品
満月の娘たち(安東みきえ:著)
まるで神話のようだ。新しい時代の母娘の。幽霊屋敷探検に発端におこる出来事を通じ母娘たちの葛藤と成長が描かれる。”母娘問題”を独特の観察眼で捉えた感動作。
夕暮れのマグノリア(安東みきえ:著)
児童文学界からきらりとその姿をあらわした、美しく巧みな筆致の、新・ヤングアダルト小説。女子中学生・灯子の感受性がつむぐ、やさしさと不思議さに満ちた1年間。

●聞き手/高木香織(たかぎ・かおり)
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

撮影/神谷美寛

安藤みきえさんが選考委員をつとめる「講談社児童文学新人賞」の記事はこちら

たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言...