「富士山で死ぬ」のを防ぐ2大鉄則「ゆっくり登る・頂上で御来光にこだわらない」…山岳遭難防止アドバイザーが解説
滑落・転倒・高山病…富士山はなぜ「厳しい山」なのか <山での危険を防ぐ#1>
2024.08.11
「御来光を頂上で見ることにこだわらない」富士山で死なないための鉄則②
──すると、どのような登山計画が安全なのでしょうか?
羽根田:高山病を予防するため、1日の行動時間を短くするために、一般的には山小屋に1泊して登ることが奨励されています。原則的にはそのとおりだと思いますが、山小屋に宿泊して頂上で御来光を見ようとすると、夜中の0時くらいから起き出して登っていかなければなりません。
登山口の閉鎖が16時ですから、そこから山小屋まで登っていき、夕食を終えて就寝しても、寝る時間は正味数時間ぐらいしかありません。それでもぐっすり熟睡できればいいですが、慣れない環境でほとんど寝られなかった場合は、逆に疲労が溜まるだけだと思います。これでは「弾丸登山」とほぼ変わらないような気がします。
だから、必ずしも山小屋に宿泊する必要はないと、私は考えます。日の出前の混雑する時間帯にわざわざ登るのではなく、昼間に「日帰り登山」するのもありではないでしょうか。つまり「御来光を頂上で見ることにこだわらない」と。
──富士登山者の一番の目的が、頂上で御来光を見ることかなと思いますが、それを思い切って諦めるということですね。
羽根田:はい。例えば、日の出前の午前4時くらいに登山口から登り始めて、登る途中で御来光を拝み、午前中のうちに山頂に到着。そこでお昼を食べて休憩してまたゆっくり下りてくるプランでも、十分楽しめるはずです。
登山道の渋滞を避けることができ、自分のペースで歩けるし、いちばん気温の低いときに山頂でご来迎を待つこともないので、遭難のリスクも低くなると思います。
個人の体力や年齢にもよりますが、ある程度体力に自信があり、心臓や呼吸器の疾患、生活習慣病などの危険因子がなければ、「日帰り登山」を検討してみるのもいいかと思います。
──では体力に自信がなかったり、小さな子どもを連れての親子登山の場合はどうでしょうか?
羽根田:基礎疾患がある人も含め、危険性は高くなりますので「無理に頂上を目指さない」のが鉄則でしょう。
悪天候や直前で体調不良になった場合も、諦めが肝心です。
通行料や宿泊料金がもったいないと感じるかもしれませんが、その数万円のために命を落としては元も子もありませんから。
──そういう意味で「頂上に登ることにこだわらない」のも鉄則ですね、富士登山を楽しむには、無理をしないことが肝心。2つの鉄則を守って、楽しい富士登山を体験したいですね。
【羽根田治さんに「山での危険を防ぐ」アドバイスを伺う連載は全3回。この第1回では「富士山」をテーマに死なない・遭難しないための鉄則を教えていただきました。続く第2回では「熊」をテーマに危険を防ぐアドバイスをお聞きします。最後の第3回では「遭難」した際にとるべき行動について教えていただきます】
(取材・文/中村美奈子)
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中村 美奈子
絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。
絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。
羽根田 治
1961年、さいたま市出身、那須塩原市在住。フリーライター。山岳遭難や登山技術に関する記事を山岳雑誌や書籍などで発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続ける。主な著書にドキュメント遭難シリーズ、『ロープワーク・ハンドブック』『野外毒本』『パイヌカジ』『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(共著)『生死を分ける、山の遭難回避術』『人を襲うクマ』『十大事故から読み解く山岳遭難の傷痕』などがある。近著は『山はおそろしい』(幻冬舎新書)、『山のリスクとどう向き合うか』(平凡社新書)『これで死ぬ』(山と溪谷社)など。2013年より長野県山岳遭難防止アドバイザーを務め、講演活動も行なう。日本山岳会会員。
1961年、さいたま市出身、那須塩原市在住。フリーライター。山岳遭難や登山技術に関する記事を山岳雑誌や書籍などで発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続ける。主な著書にドキュメント遭難シリーズ、『ロープワーク・ハンドブック』『野外毒本』『パイヌカジ』『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(共著)『生死を分ける、山の遭難回避術』『人を襲うクマ』『十大事故から読み解く山岳遭難の傷痕』などがある。近著は『山はおそろしい』(幻冬舎新書)、『山のリスクとどう向き合うか』(平凡社新書)『これで死ぬ』(山と溪谷社)など。2013年より長野県山岳遭難防止アドバイザーを務め、講演活動も行なう。日本山岳会会員。