「アーバンベア」も増加!「クマに襲われて死ぬ」のを回避する4つの鉄則 「遭遇回避」「静かに…」「NG行動」「最終防御姿勢」を専門家が解説

『これで死ぬ』の著者・羽根田治が解説するクマの対処法<山での危険を防ぐ#2>

羽根田 治

野生のクマに襲われる被害が増えている。クマに襲われて死ぬのを回避する方法は?(写真:アフロ)

増えるクマ被害

近年、野生のクマに襲われる被害が増えている。2024年もクマの出没情報は昨年を上回るペースで増加(※)しているため、クマに遭遇する危険性はますます高まっている状況だ。(※参考:環境省「クマ類の出没情報について [速報値]」

クマに遭遇する危険は、山の中だけではない。東京都八王子市でも、野生のクマが道路に出てくる事例が発生するなど、最近では市街地にまで出没する、人間を怖れない新世代のクマ「アーバンベア」の目撃が増えている。

登山やハイキング中、または人里や街などでクマに遭遇した場合、どうすれば死なないですむか。『これで死ぬ』の著者で『子ども版 これで死ぬ』の監修も務めた、長野県山岳遭難防止アドバイザーの羽根田治さんに対処法を聞いた。

羽根田治さん

【羽根田 治(はねだ・おさむ) 山岳遭難や登山技術に関する記事を発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続ける。主な著書に「ドキュメント遭難」シリーズ、『人を襲うクマ』『十大事故から読み解く山岳遭難の傷痕』『これで死ぬ』(すべて、山と溪谷社)など。2013年より長野県山岳遭難防止アドバイザーを務める。日本山岳会会員】

「クマとの遭遇確率を下げる」クマに襲われて死なないための鉄則1

──環境省の統計によると、クマによる人身事故は6月と10月が多いそうですが、2024年は7月、8月も目撃情報が相次いでいます。そもそも日本には、どんな場所にクマが生息しているのでしょうか。

羽根田治さん(以下、羽根田):
北海道にはヒグマが、九州地方と四国地方の香川県、愛媛県、関東地方の千葉県を除いた本州全域には、ツキノワグマが生息しています。

(※参考:環境省「クマ類の生息状況、被害状況等について」

──クマに遭遇する危険がない山はありますか?

羽根田:
それはクマの生息が確認されていない場所、つまり九州地方の山なら安全だといえます。頭数は少ないですが、徳島県と高知県の県境の剣山系周辺にもクマが生息していますので、四国も絶対に安全とはいえません。

ですから、一般に山登りの対象となっている北海道や本州の山は、いつどこでクマと遭遇してもおかしくはないと考えたほうがよいでしょう。人里、低山、中級山岳、最近は北アルプスの標高の高いところにまで出没するようになっているので、「ここなら安全」という場所はほとんどないのではという気がします。

──つまり登山をするときには、「クマに遭うかもしれない」という認識を持つことが大事だということですね。

羽根田:
そうですね。山に入る以上、そういうリスクがあると考えたほうがよいと思います。

──具体的に「クマに襲われて死なない」ためには、どうすればよいのでしょうか。

羽根田:
「クマと遭遇しないようにする」のが第1の鉄則です。

毎日のように目撃情報が出ていますが、直近の目撃情報があるところには行かないこと。最近は、登山道にクマが出るとしばらく登山道を閉鎖しますので、立ち入り禁止場所の表示には必ず従ってください。

また山小屋や市町村で「クマの目撃情報」を出しているので、登山の前にチェックをして、目撃情報が多い場所は近づかないようにしましょう。

▲もともとクマは臆病な動物。しかし至近距離で突然出会ってしまうと攻撃してくる場合もある。
(画像『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』より)

──クマとの遭遇を避けるために、登山に持っていくと良いアイテムを教えてください。

羽根田:
一般的に言われているのが「音が出るもの」です。クマ除けの鈴は、必ず身につけておきましょう。最近は、銃声や犬の吠え声を流すアイテムも発売されていますし、ラジオの音声を鳴らしながら歩くと効果があるとも言われています。

クマは耳慣れない音が聞こえると警戒して遠ざかっていくので、その習性を利用して、クマを遠ざけて遭遇を避けるという対策です。さらに遭遇した場合に備えて、クマ撃退スプレーを持っていきましょう。

「静かに、ゆっくり、後ずさり」クマに襲われて死なないための鉄則2

──クマ撃退スプレーを持っていても、クマを目の前にしたらなにもできなかったというSNSの投稿を目にしました。実際にクマに遭遇したときにどんな行動を取れば死なずにすむのか、対処法はありますか?

羽根田:
クマ撃退スプレーはザックの中にしまうのではなく、すぐに手に取れる場所、例えばザックのショルダーベルトやウエストベルトなど身に着けておくことをおすすめします。

そして大事なのは、それをすぐ取り出して噴射できるように、練習をしておくことです。万が一の時に備え、クマ撃退スプレーを素早く使えるように練習をしている山岳ガイドもいるそうですよ。

──クマ撃退スプレーには、誤噴射防止用の安全クリップがついています。恐怖ですくんでしまったり慌てたりするとうまく外せない可能性が高いので、練習しておくのは効果がありそうです。羽根田さんが見聞きした中で、実際にクマと遭遇して生還した方は、どんな行動を取ったのでしょうか。

羽根田:
クマの対処法は「興奮させないこと」が重要です。

例えば、「たまたま柔道を習っていたからクマを巴投げで投げ飛ばした」とか、「棒きれを振り回して抵抗したらクマが退散した」といった報道がありますが、そういうケースもあったというだけで、決して最善の方法ではないと思います。抵抗したことで逆にクマの怒りを買って、もっとひどい目に遭わされるという事故も起きていますので、「クマを興奮させないこと」が鉄則です。

──具体的には、どんな行動を取ればよいでしょうか。

羽根田:
数十メートル離れている場合は、できるだけクマを刺激しないように「静かに、ゆっくり、後ずさり」しましょう。大声を上げて背中を見せて逃げると、クマは本能的に襲いかかる習性があります。クマに目を向けたまま、ジリジリとクマとの距離を取っていくというのが有効だとされています。

──登山中にクマと遭遇し襲われる事故などが頻繁に報道されています。一方で、同じようなシチュエーションでも、クマを刺激しないようにして無事に助かったという報道もありました。クマのほうから近づいてくる場合にも、やはり「静かに、ゆっくり、後ずさり」が有効でしょうか。

羽根田:
基本的にはそうだと思います。しかし、クマも人間と同じで、性格はいろいろ。逃げるクマもいれば、好奇心で近づいてくるクマもいます。ただ、至近距離で遭遇してしまった場合は、攻撃してくることが多いようです。

また、攻撃を仕掛けてきても、実際に攻撃するのではなく、「疑似攻撃」で終わるケースも報告されています。ワーッと突進してきて直前でUターンするという行動を、何度か繰り返すんですね。

しかし、威嚇か本気かの判別は困難です。そのまま突進してくる場合もあるので、すぐにクマ撃退スプレーを取り出して構え、いつでも噴射できる状態にしておきます。そしてクマが5mくらいまで迫ってきたら、目と鼻、口を狙って一気に噴射するとよいでしょう。

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