「勉強したくない」子どもに親ができること 発達心理学者が徹底解説!

【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#6「小学生が学ぶ楽しさを取り戻すには?」

「学習」はいつからでも取り戻すことができる

今、学習につまずいている、数の概念が育っていないといった状態でも、決して悲観する必要はないと今井先生は話します。「好きなこと」からアプローチすれば、何歳からでも「学ぶ楽しさ」を感じ、「学力」を身につけていくことは可能です。

「小学校高学年でも、中学生になってからでも、『勉強』はいくらでも取り戻すことができます。

長くわからない状態が続いて、学習に拒否反応があるような子でも、自分の興味と結びつくようなことがあれば、一気に遡って学習内容を習得する、というケースもあります。

教科書やドリルを使った勉強はしなくても、バレンタインデーのプレゼントにケーキを作りたい、マフラーを編んでみたいとなったら、自分で必死に計算して完成させるんですね。そういう、『これをやってみたい』ということに出会ったときがチャンスです。

保護者の方がそうした興味や熱意を否定せず、しっかりと受け止め、『すごく上手だから私にも作ってよ』などと声をかければ、子どもはますますやる気になります。アレンジを加えたり、より難しいものにチャレンジしたりして、そこからさまざまなことを学んでいくことでしょう。

保護者の方には、子どもが好きなことに夢中になって取り組むことこそが、その先にある『思考力』や『学力』につながるということを、ぜひ認識しておいてほしいと思います」(今井先生)

時代が変化しても、「自ら学び続ける力」や「学びを楽しんで何かを極める力」があれば、人は幸せに生きていけるのではないでしょうか。子どもがこうした力を身につけるためには、親が「学び観」「知識観」を変えること、そして何より、ともに学びや探究を楽しむ姿勢が大切です。

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今井むつみ
慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知・言語発達心理学、言語心理学。平塚江南高校、慶應義塾大学文学部西洋史卒業後、教育心理学に興味を持ち社会学研究科に進学。在学中の1987年より渡米。1993年ノースウエスタン大学心理学部博士課程を修了し、1994年博士号(Ph.D)を取得。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2007年より現職。近年は一般読者向け書籍の執筆、講演活動にも力を入れる。また、国境を越えて学びを考えるコミュニティABLE(Agents for Bridging Learning and Education)をつくり、国内外から著名な認知科学研究者を招聘し、ワークショップなどを開催している。

【主な著書】
「ことばと思考」「学びとは何か──〈探究人〉になるために」「英語独習法」(すべて岩波新書)、「ことばの発達の謎を解く」(ちくまプリマー新書)、「言葉を覚えるしくみ─母語から外国語まで」(針生悦子氏との共著/ちくま学芸文庫)、「親子で育てることば力と思考力」(筑摩書房)、「算数文章題が解けない子どもたち─ことば・思考の力と学力不振」(他6名との共著/岩波書店)など多数。2023年5月には新刊「言語の本質─ことばはどう生まれ、進化したか」(秋田喜美氏との共著/中公新書)を出版。

取材・文 川崎ちづる

『【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か』の連載は全6回。
#1「生きた知識を習得する学び」を読む。
#2「思考力を育む言葉の力」を読む。
#3「思考力を育てる遊び」を読む。
#4「日常生活で育む生きた言葉の力」を読む。
#5「子どもの間違いが語ること」を読む。

【関連書籍紹介】

『算数文章題が解けない子どもたち─ことば・思考の力と学力不振』(岩波書店)
記事で紹介した「たつじんテスト」の理念や内容、実施結果などが詳しく紹介されている。子どもの誤答を「読解力が足りない」で済ませず、詳細な分析によってつまずきの原因を明らかにし、学習の指導や支援に役立てようとする一冊。

【新刊紹介】

『言語の本質─ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田喜美氏との共著/中公新書)
日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは? ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペと、アブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。ChatGPTなどの対話型AIに仕事を奪われない創造的な人間に子どもを育てるためにおすすめの一書。

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かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。