子どもの進路 15歳からの「高専教育」が未来の「サイバーセキュリティ専門家」を育てる

高専の知られざる魅力 #3 注目すべき高専6選 「高知工業高等専門学校」「広島商船高等専門学校」

3年生からは航海学や海事法規を学ぶ「航海コース」、または船舶機器や管理を学ぶ「機関コース」を選択します。  写真提供:広島商船高等専門学校
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実践的技術者を養成する、5年一貫教育の「高等専門学校」、通称「高専」。
1・2回目では国立高等専門学校機構・谷口功理事長に高専についてお聞きしました。

3~5回目では、全国51校展開する国立高専から、コースやカリキュラムに特徴のある注目高専6選をご紹介します。

今回は、社会でますますニーズが高まるサイバーセキュリティ人材の育成に力を入れている高専2校です。

「高知工業高等専門学校」では、ソーシャルデザイン工学科の赤松重則先生と立川崇之先生に、「広島商船高等専門学校」では、商船学科の岸拓真先生に、それぞれ取材をし、具体的な取り組みについてお話を伺いました。

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革新的な教育プログラムを産業界がサポート

豊かな自然に囲まれた高知工業高等専門学校のキャンパス。  写真提供:高知工業高等専門学校

今、世界各国で、サイバー攻撃による被害が増大しています。日本の企業や政府、官公庁でも叫ばれ続けている「セキュリティ人材が足りない」との声をもとに、国立高等専門学校機構(高専機構)では2016年4月から人材育成プログラム「K-SEC(高専セキュリティ・エデュケーショナル・コミュニティ)」をスタートさせました。

高知県南国市にある「高知工業高等専門学校」は、全校学生数821名(2023年5月1日現在)。本科はソーシャルデザイン工学科の下、「エネルギー・環境コース」「ロボティクスコース」「情報セキュリティコース」「まちづくり・防災コース」「新素材・生命コース」の  5コースが選択できます。注目すべきは、国立高専51校の中で唯一、サイバーセキュリティの専門コースを設けていることです。

──“サイバーセキュリティ”とは、デジタル環境における重要なシステムや機密情報などを、サイバー攻撃や、その他の脅威から守ることですが、具体的な授業内容を教えてください。

立川崇之先生(以下、立川先生):わが校はK-SECの中核拠点校として一関(高専、以下同)、木更津、石川、佐世保とともに取り組んでいます。ITの最新ハードウェアやソフトウェアに触れられる環境で、15歳の早い段階からサイバーセキュリティに関する専門教育を受けられます。

授業では実際にハッキングやフィッシングなどのインシデント対応演習や、日立製作所をはじめセキュリティ関連事業で知られる企業で使われているテキストやビデオを授業に取り入れています。

また、誰でも参加できる「サイバーセキュリティ演習」や「セキュリティコンテスト」をオンラインやリアルで開催し、全国の高専生同士の知識の交流を図っています。

K‐SECワークショップでは、木更津高専をはじめ他の高専とオンラインで学び合います。   写真提供:高知工業高等専門学校

──普段の授業でも、産業界の協力を得ているんですね。「副業先生」というユニークな試みもその一環でしょうか。

赤松重則先生(以下、赤松先生):「副業先生」は転職サイト「ビズリーチ」と高専機構が提携して、民間企業のIT人材を講師として採用しています。彼らには企業で働きながらオンラインで実践的な授業をしてもらっていますが、なかには高知に足を運んで授業をしてくれる熱心な先生もいます。

学生にとっては学びの質が上がるだけでなく、講師をロールモデルとして、卒業後のキャリアをイメージできる良い機会になっていますね。

──なぜ、それほど産業界との連携が必要なのでしょうか。

立川先生:情報セキュリティの分野は日進月歩です。サイバー攻撃も、より高度で巧妙になっていて、とても学校の教員だけではフォローしきれません。学生に最前線のことを教えられるITプロの協力が欠かせないという危機感からです。

赤松先生:これからの時代、情報系のコースだけでなく建築、機械、電子工学など、あらゆる分野でセキュリティの知識は必要です。

たとえば建築士なら、サイバー攻撃を受けないためのビル設計が必要ですし、ネットワークで繫がる自動運転の時代には、あらゆる機械が危険にさらされます。3年先、5年先が見えない今の時代を生きる子は、常に勉強し続けることだけでなく、専門性にとらわれない姿勢や、「複合」「融合」の感覚が大事になってきますね。

高専でも算数力より「国語力」がカギ

──サイバーセキュリティの専門コースに向いている子は、やはり算数など計算が得意な子なのでしょうか。

赤松先生:いえ、どの道(学科)に進んでも、一番大事なのは小学校で習う国語の力です。高専の教材は大学で使う教科書に近く、読解力がなければ理解することは難しいでしょう。また、自分の考えやアイデアがあっても、言語化できないと伝わらず、モノや形にできません。最近はSNSの短文傾向のためか、言語化できない学生が増えてきていると感じます。

立川先生:生成AIも、使いこなせるには国語力が重要ですしね。

赤松先生:子育て中のお子さんが幼ければ、絵本の読み聞かせは言語化の訓練になりますし、親御さんと絵本の感想を伝え合うことによって、人の感情に触れられたり、表現方法を学ぶことができます。小学校以上のお子さんの場合は、映画やドラマ、漫画もいいですね。いずれ高専で学ぶことになるとしても、親子で感想を共有することは、どんな学びにもとても有効になってくると思いますよ。

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