子どもの進路 15歳からの「高専教育」が未来の「サイバーセキュリティ専門家」を育てる

高専の知られざる魅力 #3 注目すべき高専6選 「高知工業高等専門学校」「広島商船高等専門学校」

商船学科では女子の志望者も増加中!

大崎上島の高台に建てられた広島商船高等専門学校。白い5階建ての校舎からは、瀬戸内海が見渡せます。  写真提供:広島商船高等専門学校

瀬戸内海の中央に位置する離島「大崎上島」。広島商船高等専門学校がある緑豊かな島は、近年、国際バカロレア認定校(※特定の教育プログラムである国際バカロレア〔IB〕プログラムを提供する学校のこと)の誘致や、海外大学との交流など「教育の島」としても注目を集めています。

全校学生数は671人(2023年5月1日現在)。本科は「商船学科」「電子制御工学科」「流通情報工学科」の3学科から選択でき、「商船学科」は現在、学科別でもっとも多い247名(同時点)が学んでいます。

──学校名に「商船」を冠しているので、一般の人は船の専門学校と思ってしまいますが、実は多彩な学科があるんですね。

岸拓真先生(以下、岸先生):広島商船高専は、船員を養成する「商船学科」だけではありません。自動車やロボットなどの産業機械に関わる「電気制御工学科」、プログラミングやネットワークに関わる「流通情報工学科」の3学科があります。
 
ただし、「商船学科」の本科の学びは5年6ヵ月(高専は通常は5年制)と、高専としてはやや期間が長い。船の運航や管理に関わる知識と技術を身につけ、世界の海で活躍できるプロフェッショナルをじっくりと育成しています。

練習船「広島丸」。社会で即戦力として活躍できるよう、座学だけでなく、実際に船を運航しながら学ぶ演習も多い。  写真提供:広島商船高等専門学校
救命艇演習の様子。船の航海技術だけでなく、海難事故の対応や船舶機械の管理など海運に関するあらゆることを学びます。  写真提供:広島商船高等専門学校

──2023年10月、広島商船高等専門学校とIT企業が協同で行った、日本初の「海事サイバーセキュリティ演習」。学生が二手に分かれて、高専が有する練習船「広島丸」を操縦する側と、パソコンでサイバー攻撃を仕掛ける側とで、攻防戦を行いました。

対応マニュアルはなく、学生がその場で考えて対策を講じるという緊張感に満ちた演習だったそうですね。

岸先生:2040年には船乗りが不足し、船舶の自動運転が当たり前になると予想されます。自動運転、つまり船をネットワーク通信に繫ぐことでサイバー攻撃を受ける可能性が高まりますが、今の海運業界にはサイバーセキュリティのプロはごくわずかしかいません。

船は数千万円~数億円のものを運び、輸入大国の日本は、船がトラブルに遭うと日常生活が立ち行かなくなる事態も想定されます。現在も、セキュリティ人材の育成は待ったなしの状況なのです。

──高専生のうちに実戦を経験できるなんて貴重ですね。演習に参加した学生の感想はいかがでしたか。

岸先生:商船学科から10名、情報系の学科から28名が参加してくれたのですが、彼らはそもそも使う専門用語が異なります。丁寧にコミュニケーションを重ね、トラブルを解決することを通して、異分野を理解する難しさと楽しさを感じていましたね。

──お互いの専門知識を活かしながら、協力して目的を達成する。社会に出た後にも、とても必要なことですね。

岸先生:そうですね。仕事におけるコミュニケーションスキルを磨く意味でも、今回のトライにはとても意義がありました。

2024年度の計画も始めています。海運のサイバーセキュリティ人材は、産業界から熱い視線が注がれ、商船学科は女子の志望者も増えてきています。海や船が好きで、チャレンジ精神のある学生にぜひ来てもらいたいと思います。

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産業界と連携し、最先端の技術や叡智を集めて教育にあたる。高専の特徴がとてもよくわかります。次回4回目は、AIを活用して新事業を興す「沖縄高等専門学校」と「北九州工業高等専門学校」についてお届けします。

取材・文/鈴木美和

高専連載は全5回。
1回目を読む(高専理事長インタビュー前編)
2回目を読む(高専理事長インタビュー後編)
4回目を読む(沖縄高等専門学校・北九州工業高等専門学校)
5回目を読む。(「神山まるごと高専」、「旭川工業高等専門学校」)。

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すずき みわ

鈴木 美和

Suzuki Miwa
ライター

フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。

フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。