【子どもの進路】就職率ほぼ100%!「高専」5年一貫教育のスゴさを徹底取材

国立高等専門学校機構・谷口理事長に聞く、高専の知られざる魅力 #1 高専の歴史と専門教育について

国立高等専門学校機構理事長:谷口 功

画像提供:国立高等専門学校機構

令和に入ってから、中学受験がブームといえるような過熱ぶりとなっていますが、国際的に評価されている15歳から実践的技術者を養成する高等教育機関をご存じですか? それは「高等専門学校」、通称「高専」です。

タイやベトナム、モンゴルなどのアジア地域では「日本のモノづくりの力はKOSENにあり」と高専の仕組みを導入。さらに2023年4月、高専としては約20年ぶりに「神山まるごと高専」(徳島県)が新設されました。

5年一貫教育の高専では、どんなことを学び、また産業界からも評価が高い理由はどこにあるのでしょうか? 

連載1回目では、国立高等専門学校機構・谷口功理事長に、高専の歴史と専門教育についてお聞きしました。

(全4回の1回目)

谷口功(たにぐち・いさお)
1975年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)。熊本大学工学部助手、教授、工学部長などを経て2009年学長に就任。2015年に退任後、2016年、国立高等専門学校機構・理事長に就任(現職)。熊本大学名誉教授、日本学術会議連携会員(2023年9月末で任期満了退任)など兼任。

5年制の高等教育機関では未来のエンジニアを育成

──高専といえば、全国高等専門学校ロボットコンテスト・通称「ロボコン」でその名を広く知られるようになったと思うのですが、大学でもなく、専門学校でもない、エンジニアを志す学生が行く特殊な学校というイメージがあります。まずは、高専について教えてください。

谷口功理事長(以下、谷口理事長):高専は「高等専門学校」の略称で、高専制度は2022年に創立60周年を迎えました。

創立当時の日本は、経済成長が目覚ましく、科学や技術の進歩に対応できる技術者の養成が急務でした。そんな中、産業界からの強い要望で1962年、全国各地に最初の高専12校が設立されました。

現在は全国に58校(国立51、公立3・私立4)あります。現役の学生は約5万人、これは同世代の約1%に相当します。

そして高専の最も大きな特徴ですが、5年間の一貫教育という点でしょうか。

──中学卒業後の15歳から20歳の学生が、同じ環境で学ぶということですが、5年間では主にどんなことを学ぶのでしょうか。

谷口理事長:学科は学校ごとに異なるのですが、5年間の「本科」では、大きくは工業系と商船系の学科に分かれます。工業系には、機械工学科、電気工学科、情報工学科、建築学科など。

建設系、建築系学科。  画像提供:国立高等専門学校機構
電気・電子系学科。  画像提供:国立高等専門学校機構

商船系には商船学科があります。それ以外にも、経営情報学科、コミュニケーション情報学科、国際流通学科を設置している学校もあります。

商船系学科。  画像提供:国立高等専門学校機構
航海中の練習船大島丸(4代目)。  画像提供:国立高等専門学校機構

いずれかの学科を選び、5年(商船系は5年半)かけて専門性を磨きます。もちろん国語や数学、英語、歴史などの一般科目も学びますが、全授業の3割は実験や実習で、自ら課題を設定し、実際に手を動かして答えを導き出す「体験型」のカリキュラムを重視しています。

また、高専は産業界との連携が強く、産業界のトップや、高専出身の若い起業家の特別講義、企業の工場見学やインターンシップを通じて、多くの実例に触れることができます。社会の課題を直接感じながら学べるのも特徴ですね。

就職率はほぼ100%! 大手企業からの人気も高い

──5年間の「本科」を終えた後には、どんな進路が考えられるのでしょうか。

谷口理事長:「本科」卒業時には、4年制大学と同程度以上の専門的な知識や、技術が習得でき、また卒業生は准学士と称することができます。卒業後の進路ですが、6割は企業に就職して技術者として活躍します。高専生は即戦力としての評価が高く、求人倍率は10~20倍、就職率はほぼ100%。大手企業からの人気も高いですね。

高専のしくみ  資料提供:国立高等専門学校機構

谷口理事長:残りの4割は、「専攻科」に2年進学したり、一般の大学(3年次)に編入するなど多彩な選択肢があります。

「専攻科」はより科学の知識と技術を深めたい学生のために1992年に設置されました。専攻科の課程を修了し、条件を満たした学生は、申請をすれば学士の学位を得ることができます。学士を得れば、大学の学部卒業生と同じ扱いとなり、大学院にも進学できます。

ちなみに専攻科では、これからは企業で活躍している社会人技術者の受け入れもさらに増えると思います。

世の中を変えるには失敗よりチャレンジをすること

──なるほど。目的をもって将来を見据えた選択をし、若いうちから専門的な知識や経験を積むことができるのですね。

谷口理事長:以前、授業の一環として、学生たちに「街に出て、いろいろな人に困っていることがないか聞いてきなさい」と言ったことがあります。すると一人の学生が、保育園で幼児を散歩に連れだすための「お散歩カート」について、保育士さんから相談されたことがありました。

あのお散歩カート、実はすごく重いんですよね。60kgぐらいあるカートに、幼児を5~6人乗せて押すだけでも大変なのに、さらにお散歩中は坂を上ったりしなくてはいけない。

そこで彼は、カートに電動自転車の機能を取り付けて、楽に坂を上れるようにしたんです。もちろん簡単ではありません。「上り坂はいいけれど、下り坂はブレーキをどう調整するか」など、安全性を考慮して、ずいぶん苦労をして完成させていました。

結果、保育士さんにはすごく喜ばれて。このように、人々や社会に「ありがとう」と感謝されることが、「真に学びを活かす」ということだと私は思っています。

そして学生には「失敗しても構わないから、チャレンジすること。それが世の中を変えていく」と、常日頃から教えています。自分の技術をもって、世の中にどう貢献していくか。高専生は、15歳から意識して学んでいますね。

高専は全国から受験可能

谷口理事長:高専は全国どこでも受験できます。授業内容は6割が共通ですが、4割は各校の独自カリキュラムで運営しています。

自分のやりたい学科や地域を選ぶことができ、遠方の学生には男女それぞれに学生寮を用意しています。寮では高学年が後輩の勉強の面倒を見たり、進路の相談にのったりと、いい意味で先輩と後輩の縦の繋がりが強いですね。

近年は、女子の志望者も増え、全体の22%(2023年現在)を占めるようになりました。

これからのジョブ型社会では、学歴ではなく「学習歴」が評価されます。確かなスキルと実務経験が豊富な高専生は、男女を問わず、ますます社会での活躍の場が広がっていくことでしょう。

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一方的な授業や教科書を机の上で学ぶ現在の日本の中高教育に比べて、高専は社会とつながり、最先端の技術を課題を通じて実践的に習得できるのが大きな特徴だとわかりました。

次回2回目では、高専生の学生生活や課外活動について、引き続き谷口理事長にお聞きします。

取材・文/鈴木美和

高専連載は全5回。
2回目を読む(理事長インタビュー後編)。
3回目を読む(高知工業高等専門学校・広島商船高等専門学校)。
4回目を読む(沖縄高等専門学校・北九州工業高等専門学校)。
5回目を読む。(「神山まるごと高専」、「旭川工業高等専門学校」)。

たにぐち いさお

谷口 功

Taniguchi Isao
国立高等専門学校機構理事長

1975年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)。熊本大学工学部助手、教授、工学部長などを経て2009年学長に就任。 2015年に退任後、2016年、国立高等専門学校機構・理事長に就任(現職)。熊本大学名誉教授、日本学術会議連携会員(2023年9月末で任期満了退任)など兼任。

1975年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)。熊本大学工学部助手、教授、工学部長などを経て2009年学長に就任。 2015年に退任後、2016年、国立高等専門学校機構・理事長に就任(現職)。熊本大学名誉教授、日本学術会議連携会員(2023年9月末で任期満了退任)など兼任。

すずき みわ

鈴木 美和

Suzuki Miwa
ライター

フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。

フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。