高専ではペーパーテストの点数だけで成績を付けない 「ロボコン」や「プロコン」などの課外活動で得る学び
国立高等専門学校機構・谷口理事聞く、高専の知られざる魅力 #2 特色のある学校生活と課外活動について
2024.01.05
国立高等専門学校機構 理事長:谷口 功
中学校卒業後からの5年一貫教育で、技術者を育成する高等専門学校こと「高専」。
1回目では、設立の歴史や特徴ある教育システムについてお話しいただきました。
2回目では、高専生の特色のある学生生活と、課外活動などを通じたユニークな学びについてお話しいただきます。
谷口功(たにぐち・いさお)
1975年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)。熊本大学工学部助手、教授、工学部長などを経て2009年学長に就任。2015年に退任後、2016年、国立高等専門学校機構・理事長に就任(現職)。熊本大学名誉教授、日本学術会議連携会員(2023年9月末で任期満了退任)など兼任。
人間力を磨く、多彩な課外活動
──高専では学校の授業以外に、さまざまな課外活動にも力を入れていると聞いていますが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
谷口功理事長(以下、谷口理事長):全国高等専門学校ロボットコンテスト(ロボコン)や、プログラミングコンテスト(プロコン)、デザインコンペティション(デザコン)、英語プレゼンテーションコンテスト(英語プレコン)、防災減災コンテスト、ディープラーニングコンテスト(DCON)など、実に多彩に取り組んでいます。
──そうした活動に力を入れている理由を教えてください。
谷口理事長:高専では、ペーパーテストの点数だけで成績を評価することはありません。学んだことを他者に説明したり、教えることができて、初めて中身を深く理解したことになります。
今では「ルーブリック評価」なんていう言葉で表現されますが、高専では自発的に学び、達成し、しっかり身につけるための学習評価の取り組みをかなり前からしています。
自分のやりたいことや、技術をほかの人に説明できれば、いろいろな人と話ができるようになり、そしてコミュニケーション力がつけば、全体のチームワークも高めていくことができますよね。
例えば、ロボコンならロボットをつくる人、電気制御が得意な人、操縦がうまい人、マネージメントに長けている人。それぞれが自分の得意分野や持ち味を知り、ときにはチーム内で喧嘩もするでしょうが、失敗を乗り越えて、お互いを高めながらよりよいものを生み出すことができます。
さらにロボコンでは、納品日(開催日)に間に合わせるというプロジェクト管理能力も問われます。これらは社会に出たら仕事をするうえで、必ず求められる能力です。
──課外活動での学びもしっかり社会につながっているというわけですね。
高専は全国51校(国立)が連携して、人材や情報を共有しています。各校をつないだ遠隔授業にも早くから取り組んできました。
谷口理事長:これは実際の話なのですが、親の介護が必要になった先生には、実家に近い学校に異動してもらい、フレキシブルに力を発揮してもらっています。
変化のスピードがこれまでになく速い現代は、一つの学校の中で全てを解決するのは難しい。学校同士が連携して互いに助け合い、力を合わせて学生を育てていかないと、日本の技術力はさらに伸びていかないですから。
高専=ソーシャル・ドクター「社会のお医者さん」を育てる学校
──DX(デジタルトランスフォーメーション)が遅れている教育界には、まさに必要な取り組みですね。そもそも高専は全国各地にありますが、都市部ではなく、やや辺境の地域につくられているのはなぜでしょうか。
谷口理事長:いい質問ですね(笑)。そうなんです。高専は都市部ではなく、あえて地方の2番目~5番目くらいの街に設立しています。というのも、地域の発展に尽くすことも高専の使命だからです。
人も少なく、産業も乏しい地域が元気になることを目的にしています。高専で技術者を育成し、その土地のさまざまな課題を見つけて、技術力で解決する。都心で生活していたら当たり前なことや便利なことも、郊外に出るとそうではないですよね。また、逆にその地域ならではの良さも発見することができます。
実際に本州から沖縄高専に行って、ドローンとAIで農業のDX化を実現した学生もいますし、日本のために原子力発電所の廃炉の研究をしたいと、あえて福島高専を選ぶ子もいます。地方ではさまざまな社会の側面が見られ、得られるものがたくさんあります。私は学生に、あえて地方を勧めるようにしています。
──高専は日本固有の特殊な教育システムゆえに、内容を説明するのがなかなか難しいと思うのですが、谷口先生はいつもどのように説明されていますか?
谷口理事長:そうですね。私は「ソーシャル・ドクター」、つまり社会を良くするための「社会のお医者さん」を育てる学校だとお話しています。そうすると、海外の方にもよく伝わるようです。
──高専に向いている子はどのような子でしょうか。
谷口理事長:自分の好きなことを追求できる子。ほかの人にあれこれ言われても気にせず、自分のやりたいことに邁進する子でしょうか。
理系の勉強が中心とはいえ、高専に入学した後も、しっかりと教えていきますので、入学当初の数学の出来はそこまで気にする必要はありません。学んで力をつければ良いのです。目的を持って学ぶことのほうが大切です。
エンジニア×アントレプレナーシップ教育が社会を変える
──谷口理事長は多くの講演や対談を通じて、高専の目指す姿を「モノづくりからコトづくりへ」とお話しされていますね。高専に求められるものが時代によって変わってきたということでしょうか。
谷口理事長:日本が誇る「モノづくり」、つまり実務に強い技術者の養成はもちろん大切ですが、技術をもとに、新しい価値を生み出す「コトづくり」も重要だと考えています。
例えば銀行に就職するのは主に文系だと思われがちですが、システムやセキュリティなど、目に見えない重要な部分を担うのは理系です。コンピューター理論を学んでも、それを実際にどう社会に結び付け、役立てるのか。豊かな発想力と創造性、リーダーシップを発揮できる「起業家精神を持ったエンジニア」を育てることも、高専の責務だと私は思っています。
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少子化が進む日本社会では、誰もが自分の力を最大限に生かして社会をよりよく変えていく必要があります。高専のさまざまな取り組みには、そんな思いが込められているように思いました。3回目以降では、「いま、注目すべき高専6選」をご紹介します。
取材・文/鈴木美和
高専連載は全5回。
1回目を読む(理事長インタビュー前編)。
3回目を読む(高知工業高等専門学校・広島商船高等専門学校)。
4回目を読む(沖縄高等専門学校・北九州工業高等専門学校)。
5回目を読む。(「神山まるごと高専」、「旭川工業高等専門学校」)。
鈴木 美和
フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。
フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。
谷口 功
1975年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)。熊本大学工学部助手、教授、工学部長などを経て2009年学長に就任。 2015年に退任後、2016年、国立高等専門学校機構・理事長に就任(現職)。熊本大学名誉教授、日本学術会議連携会員(2023年9月末で任期満了退任)など兼任。
1975年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)。熊本大学工学部助手、教授、工学部長などを経て2009年学長に就任。 2015年に退任後、2016年、国立高等専門学校機構・理事長に就任(現職)。熊本大学名誉教授、日本学術会議連携会員(2023年9月末で任期満了退任)など兼任。