子どもたちがこんなに変わった! 自由学園初等科・教師も思わず感動「探求学習」の意外な成果

【小学校教育2.0】自由学園の実践#3「自分だけの答えを見つける探求学習」

子どもたちの学ぶ姿から必要な支援を考える

「学びの発表会」での子どもたちの発表、そして探求学習の総括は、子どもたちが意識の変化を経て自分なりの「答え」を見つけた結果をよく表しています。

先ほど紹介した、湧水から「自然のなかの水の循環」に興味が広がったAさんは、湧水が河川となり海に流れ、蒸発して雨になって巡る仕組みを、自ら作成した立体的な工作物を使って発表しました。

実際に子どもが作った工作物。  写真提供 自由学園初等部

Aさんにとっての「水」は、探求学習を通して「(人の生活に)欠かせないもの」から「循環するもの」へと変化し、広い視点で水を捉えるようになりました。

また、1学期から「海のゴミ」に興味を抱いていたBさんは、2学期も変わらずにこの問題について調べ、発表会では「海のゴミによってウミガメが弱っていく姿」を劇で表現しました。

ウミガメの姿を表現した劇の様子。  写真提供 自由学園初等部

Bさんのテーマは一貫していましたが、学習の過程で意識は少しずつ変わっていきました。授業の最初から「(水は)良いものでもあり、悪いものでもある」と捉えていましたが、特別授業で「海のゴミにはいろいろな人が関係している」と知ったことで、良い悪いの二つの側面だけでなく、さまざまな要素が絡み合っていることに気づいたのです。

そして、最終総括では、水を「なぞでふしぎで良いもので悪いもの」とし、複雑であると結論づけていました。

子どもたち一人ひとりが、学びを通して自らの考えを深め、変化させながら、「自分なりの答え」にたどりつくことができました。

このような充実した学びにたどりついた探求学習ですが、授業の流れは当初から計画されてたものではなかった、と田嶋先生は話します。

「子どもたちの学習後の『ふりかえり』を読んで、その都度、今の子どもたちの関心はどこに向いていて、何に困っているのか、足りないものは何なのかを考えていきました。

その結果が、視野を広げるため特別授業だったり、概念図の製作だったりしたんですね。『ふりかえり』は、子どもたちが学習を進めていく上でとても大切ですが、僕たち教師にも重要な『フィードバック』になります。

子どもが実際に記入した「ふりかえり」。   画像提供 自由学園初等部

教師にできることは、こうした『フィードバック』に全身全霊で向き合い、サポートすることだけですが、その内容は子どもたちの様子によって変わりますから、事前に『フォーマット』として用意しておくことはできないと思っています」(田嶋先生)

目の前の子どもたちの姿によく目を凝らし、試行錯誤しながら探求学習を実践していった様子がよくわかります。

「探求学習」は繰り返すことに意味がある

自由学園初等部では、こうした「自分のなかにある答え」を問い続けていく探求学習を、内容やレベル感は異なるものの、どの学年でも毎年実施しています。

「『探求学習』は、繰り返し行うことが大切だと感じています。多面的なものごとの捉え方や、自分なりの答えを見つける方法などは、何度も経験することによって磨きがかかり、子どもたちのなかに根づいていきます。

それを実感したのは、水の学習をした3年生が5年生になり、彼・彼女たちが行った探求学習の発表を聞いたときでした。

食について発表する5年生のグループ。  写真提供 自由学園初等部

『食』をキーワードに、『世界の食文化』や『農業におけるAI活用』など、グループごとにさまざまな内容について調べていました。僕が感動したのは、テーマの多様性だけでなく、どのグループも必ず社会的な視点を盛り込み、『自分たちなりの答え』をはっきりと提示していたことでした。

農業とAIの関係について調べたグループもありました。  写真提供 自由学園初等部

『世界の食文化』のグループは、食という枠組みを超えて、異文化を理解することの重要性を訴えていましたし、その他にも、自分たちの意見を述べた上で聞き手に問題提起をするグループもありました。『食』について調べ、詳しくなることにとどまらず、その先にある社会とのつながり、課題などについてもしっかりと掘り下げていたんですね。

3年生で経験したことがベースとなり、高学年でさらに高度な探求学習に発展したと感じました。そしてやはり、積み重ねの意義を実感しましたね」(田嶋先生)

自由学園初等部では発達段階に合わせた「探求学習」を展開することによって、子どもたちが「決まった答えのない問い」を設定し、「自分なりの答え」を見つけていく力を育む学びを行っています。

これは、子どもたちが今後生きていくことになる「正解がひとつではない社会」において、不可欠な力であるといえるでしょう。

第4回は、主体的な学習が難しいといわれる教科学習(漢字学習)で、子どもたちの意欲を高めた方法についてうかがいます。

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学校法人自由学園 初等部
東京都東久留米市にある、豊かな自然の中で子どもが子どもらしく学ぶ私立小学校。子どもたちに「気づき」を促しながら、自ら学び、考え、行動できる力の土台を作ることを目指す。幼稚園から最高学部(大学部)までの一貫教育にて、SDGs・ESDとも関連しながら環境文化創造に関わる一貫教育を実践している。

取材・文 川崎ちづる

『【小学校教育2.0】自由学園の実践』の連載は、全4回。
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※第4回は公開日までリンク無効

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かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。