【不登校】は災害級の出来事だ! 文科省職員が九州初の「学びの多様化学校」立ち上げで体感した「日本の教育の未来と多様性」

不登校の子の新たな学びの選択肢「学びの多様化学校」 #4 (2/4) 1ページ目に戻る

不登校は子どもにとって災害級の出来事

──文部科学省職員の上田さんが大分県玖珠町(くすまち)で「学びの多様化学校」の立ち上げにかかわられたのは、どのような経緯だったのでしょうか?

上田椋也さん(以下、上田さん):玖珠町には、2023年に文部科学省の研修制度で中学校の英語の教員として赴任しました。

玖珠町には中学校が1校しかないのですが、当時の中学校の不登校生徒が全体の11%に上っていたんです。そこで梶原敏明教育長から「玖珠町に多様化学校を作れないだろうか」という相談を受けました。

「不登校は子どもの人生に関わる災害級の出来事だ。今、目の前で川に流されている子どもを放っておくことはできない」と。そこで、中学校で教員として働きつつ、多様化学校の設立準備を進めることになりました。

玖珠町立くす若草小学校校舎。「みんなが主役の学校」という教育目標を掲げ、生徒と対話の時間を朝夕必ず設けています。  写真提供:くす若草小中学校
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──イエナプランの考え方を取り入れた学校づくりを提案されたのも上田さんだと伺いました。なぜイエナプランだったのですか?

上田さん:僕は小中学校時代に6年間アメリカで過ごし、外国人としてマイノリティの立場を経験しました。

帰国後は故郷である静岡県の浜松市に戻ったのですが、ここは外国人労働者が多く、異文化に馴染めずドロップアウトしていく人たちも目にしてきました。

そんな中で、自然と“多様性”について考えるようになっていったんです。

学校は社会の準備期間じゃなかった! オランダで180度変わった教育観

上田さん:大学時代は比較教育学を専攻し、日本と海外の教育政策について学びました。

インクルーシブ教育に関心を持って調べる中で、異年齢学級を基本とし、国籍、文化、発達特性もフルインクルーシブな教育を行っているイエナプランという教育法がオランダにあることを知りました。

上田さん:卒業後、入省前にオランダの研修に参加してきたのですが、実際にイエナプランの学校を視察してみると、学校や教育に対する考え方が180度変わりました。

それまで学校は、子どもたちが社会に出る前の準備期間だと思っていたんです。子どもは未熟な存在で世の中のことを知らないから、学校で社会のルールを学ぶのだと。

でもイエナの教室では、子どもたち一人ひとりが自律的に活動し、教室がすでに理想の社会として成立していたんです。好きな場所で黙々と勉強している子もいれば、何人かのグループで相談しながら作業している子どもたちもいる。学びの在り方がとても多様なんです。

大人が会社で働くのと同じように、子どもたちが自分に合った学び方を選択し成長することで、最大限に個人の能力を発揮して学級に貢献している。子どもたちによって民主主義が実現していることに驚きました。

「理不尽の我慢」ではなく「理不尽をなくす方法」を学ぶ場所へ

上田さん:その様子を見て、改めて日本の学校教育について考えさせられました。

今まで学校では、“社会に出て困らないように”と子どもたちにたくさんの理不尽なことを我慢させてきました。でも、社会に理不尽があることを前提にしていいのでしょうか。

子どもが理不尽を自分の中にインストールして、我慢ができるようになったり、理不尽を再生産するようになるのは、本来教育が目指すことではないはずです。

むしろ理不尽なことがあったら、それをなくすためにどうしたらよいのか、みんなが気持ちよく安心して過ごせるようにするにはどうしたらよいか、を学ぶことこそ大切なんじゃないかと思うようになりました。

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