暗記は「死んだ知識」 子どもに大切な「生きた知識」の習得法を発達心理学者が解説 

【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#1「生きた知識を習得する学び」

「生きた知識」の獲得は自分で発見したときだけ

子どもが言語を習得するときに発揮する力は、まさに「自分で問題を発見し、考え、解決策を見つけ出す」という主体的な学びであるといえます。

この「自分で学ぶ」ということが、生きた知識を得る上で、不可欠な要素だと今井先生は強調します。

「繰り返しになりますが、子どもは誰かに教えられたとおりに言葉を丸暗記しているわけではなく、自分で考え、分析することで、その仕組みを発見しています。こうした『自分で考え発見する』というプロセスを経ることが、何より重要なのです。

つまり、どんなに外から知識を教えこんだとしても、それを『生きた知識』に育てることはできない、ということです。これは、言葉以外の学習、算数や理科などでも同様です。

親や周囲の大人が、『○○の力が大切だから』『算数に強い子どもを育てたい』などと考え、カードや本、ワークブックなどを使って子どもに知識を暗記させたとしても、それは『死んだ知識』にしかならないことを忘れないでください。

むしろ、無理やり知識を入れようとすることで、子どもは言葉や数など、もともと好奇心がある分野への興味を失ってしまうことも多いのです。

子どもに『生きた知識』を身につけてほしいと思うなら、日常生活の中の会話や体験など、自然な形で疑問を見つけ、自分でその答えを発見していける環境を整えることが大切です」(今井先生)
※「生きた知識」を身につけるための具体例については、#3#4(公開前はリンク無効)にて解説します。

そして、子どもが自ら学んでいく上で、「言葉の力」それ自体も非常に重要だといいます。さらに、言葉の力を伸ばしていくことは、「思考力」「問題解決能力」を育てることにもつながります。

#2では、考える力(思考力・問題解決能力)と言葉の力との関係性、なぜ言葉の力を身につけることが大切なのか、などについてうかがいます。

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今井むつみ
慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知・言語発達心理学、言語心理学。平塚江南高校、慶應義塾大学文学部西洋史卒業後、教育心理学に興味を持ち社会学研究科に進学。在学中の1987年より渡米。1993年ノースウエスタン大学心理学部博士課程を修了し、1994年博士号(Ph.D)を取得。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2007年より現職。近年は一般読者向け書籍の執筆、講演活動にも力を入れる。また、国境を越えて学びを考えるコミュニティABLE(Agents for Bridging Learning and Education)をつくり、国内外から著名な認知科学研究者を招聘し、ワークショップなどを開催している。

【主な著書】
「ことばと思考」「学びとは何か──〈探究人〉になるために」「英語独習法」(すべて岩波新書)、「ことばの発達の謎を解く」(ちくまプリマー新書)、「言葉を覚えるしくみ─母語から外国語まで」(針生悦子氏との共著/ちくま学芸文庫)、「親子で育てることば力と思考力」(筑摩書房)、「算数文章題が解けない子どもたち─ことば・思考の力と学力不振」(他6名との共著/岩波書店)など多数。2023年5月には新刊「言語の本質─ことばはどう生まれ、進化したか」(秋田喜美氏との共著/中公新書)を出版。

取材・文 川崎ちづる

『【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か』の連載は全6回。
#2「思考力を育む言葉の力」を読む。
#3「思考力を育てる遊び」を読む。
#4「日常生活で育む生きた言葉の力」を読む。
#5「子どもの間違いが語ること」を読む。
#6「小学生が学ぶ楽しさを取り戻すには?」を読む。
※公開日まではリンク無効

【関連書籍紹介】

『学びとは何か──〈探求人〉になるために』(岩波新書)
記事で紹介した「学び」のプロセスやメカニズムを、認知科学の視点から詳細に解説している。「学び」とは単なる知識の習得でなく、新しい知識を生み出す「発見と創造」こそ本質だと説く。古い知識観を脱却し、自ら学ぶ力を呼び起こす画期的な一冊。

【新刊紹介】

『言語の本質─ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田喜美氏との共著/中公新書)
日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは? ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペと、アブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。ChatGPTなどの対話型AIに仕事を奪われない創造的な人間に子どもを育てるためにおすすめの一書。

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かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。